任期満了にともなう大阪府知事選、大阪市長選が相次いで告示され、今月22日の投票日に向け橋下維新と反維新連合軍の戦いが激しさを増している。
“大阪ダブル選”は、橋下維新の存亡をかけた戦いとなるが、今回の選挙の争点はまたしても「大阪都構想」の是非。今年5月の住民投票の結果、一度死んだはずの政策を持ち出す姿勢には感心できないが、それ以上に呆れるのは「維新の党」が住民投票の折に負った債務を整理していないこと。多用した広報関係の費用が、未払いのまま残っているのである。その額なんと5億円。事実上の借金を棚上げにして、再び都構想の実現を訴える資格が橋下維新にあるのか?
分裂
維新の党を巡る騒ぎについては周知の通り。路線対立から橋下大阪市長、松井一郎大阪府知事が離党し、新党結成を表明。両氏に近い「大阪組」の国会議員が次々とこれに続く動きをみせる中、「東京組」が大阪系の国会議員、地方議員を大量除籍処分にし、分裂が決定的となった。
その後、松野頼久代表を中心とする執行部を認めないとする大阪組が臨時党大会を開催。「維新の党」の解党を決定し、橋下氏を代表に据えた新党「おおさか維新の会」を結成した。国政政党である「維新の党」「おおさか維新の会」、政治団体「大阪維新の会」の3団体が並立するという異常な状況だ。
紛らわしい形だが、対立の構図が「大阪」VS「東京」であることに変わりはない。ダブル選必勝のため、橋下系が「おおさか維新」、「大阪維新」を使い分けているだけで、有権者そっちのけの権力闘争は、訴訟合戦に突入する様相を呈している。
蘇った「都構想」 未払金棚上げ
存亡をかけた戦いに挑む橋下維新が、選挙の争点に掲げたのは「大阪都構想」。住民投票では否定されたが、バージョンアップするから、認めてくれという訴えだ。身勝手なことこの上ないが、そもそも橋下維新に、有権者に「都構想」を問う資格があるとは思えない。
今年5月、都構想の是非を問う住民投票で総力戦を展開した「維新の党」は、テレビ、新聞といった主要なメディアに広告を打ちまくった。住民投票の日程は4月27日告示、5月17日投開票。事前活動も含め、わずか1カ月の間に使った広報宣伝費は5億円超に上ったが、その大半が未払いのまま残っているのである。。
維新の党大阪本部に取材したところ、同党の事務局長を名乗る男性は「未払金ではなく債務。主として広報に、およそ5億円を使ったが、支払いができていない」と言う。事実関係を認めた形だが、一般常識からすれば、債務も未払金も同じ。橋下維新は、「都構想」の是非を問う住民投票で5億円の債務を抱えた上、これを棚上げにしてまたぞろ「都構想」を訴えるというわけだ。虫がいいにも程がある。
支払い原資は政党交付金の「びっくりポン!」
それでは、この「債務」をどう整理するのか――。前出の事務局長氏に確認したところ、「維新の党」の保有金を支払いに充てるのだと言う。朝ドラヒロインの口癖を借りるなら『びっくりポン!』。債務解消を図りたい橋下維新の狙いは、「政党交付金」=税金なのである。税金の使い道について、きれいごとばかり言ってきた集団のやることではあるまい。
じつは「維新の党」には、10月に6億5,000万円以上の政党交付金が支給されており、12月にはさらに同額が支給される予定。解党問題がどう決着するのか判然としないが、10月分はそっくり手つかずで眠った状態だ。橋下維新は、これを「債務」の返済に充てるというのである。しかし、ローカルな政治課題のツケを、国政のために支給される政党交付金で始末するのは筋違い。それ以前に、橋下氏のこの強気は何だったのか?(以下、橋下氏のTwitterより。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
大阪組と東京組の分裂が決定的となって以降、橋下氏は度々「解党」と「交付金返納」をセットで主張してきた。大阪組が当初、東京組に対し分党の要求をしたことで、“交付金目当て”とみられたことに危機感を持ったからだろう。だが、彼の狡さは相変わらず。ウケを狙って格好をつけたが、解党決定直後のつぶやきでは、もう逃げ道を作っていた。
わずか数時間で、返納する交付金は「できる限り」に変わっている。嘘つき市長の面目躍如といったところだが、これでは「都構想」以前に、政治家としての資質が問われよう。
政党交付金を所管する総務省に聞いたところ、今年、維新の党に支給される政党交付金は26億6,000万円。4月、7月、10月、12月の4回に分けて、同党の口座に振り込まれることになるという。しかし、ドタバタの影響で銀行側が維新の党の銀行口座を凍結。カネの出し入れが不可能となっており、10月分の交付金は手つかずのまま。未払金問題の解決も、いつになるのか分からないという。
歯切れよく都構想を語り、政敵を罵倒する橋下氏。未払金問題について何も話さないというのでは、あまりに無責任だろう。ちなみに、ダブル選は「大阪維新」としての戦い。「維新の党」のカネを、あてにすることはできない。