1日、鹿児島県(伊藤祐一郎知事)からHUNTERの記者に、情報公開請求の内容を補正するよう強制する「命令書」(9月28日付)が送られてきた。
鹿児島県情報公開条例や同条例施行規則には、県知事の命令権など規定されておらず、公権力を盾にして請求者を威圧した形だ。
地元住民の声を黙殺して、産業廃棄物最終処分場や県営住宅といった公共事業に巨額の公費投入を強行する伊藤知事。露骨な「官尊民卑」の姿勢は、県政が異常な状況にあることを示している。
突然の「命令書」―内容はお粗末
HUNTERが鹿児島に対して開示請求していたのは、薩摩川内市で建設が強行されている産業廃棄物最終処分場「エコパークかごしま」(仮称)に関する文書で、改めて同事業の全容を確認するためだった。
公文書開示請求書に必要事項を記入し、開示対象文書を「エコパークかごしま(仮称)に関係するすべての文書」と明記して、先月26日に鹿児島県知事あてに申請。
これに対し鹿児島県は1日、いきなり「補正命令書」なる知事名の文書を郵送してきた。右がその原文だ(黒塗りはHUNTER)。
28日付けで作成された「命令書」には、役人が作成したとは思えない非常識な文言が並ぶ。
県は、HUNTERの記者が申請した開示請求書に《記載漏れがあり》、《不適法》としている。しかし、電子申請した請求書には、定められた住所、氏名、電話番号、請求に係る公文書の名称などを正確に記入しており、《記載漏れ》は一切ない。
さらにこの場合、県が使った《不適法》という言葉自体が極めて不適切で、本来使用されるべきものではない。
そもそも鹿児島県の情報公開制度は、同県が自ら定めた「鹿児島県情報公開条例」の規定に従って運用されており、なんらかの『法』に依拠しているわけではない。『法』は国が定めるもので、地方自治体に立法の権限などないのだ。
仮に開示請求書に《記載漏れ》があったとしても、『条例』の規定にそぐわないというだけのことで、『法』に適さない=《不適法》とはならない。鹿児島県庁の役人は、法と条例の違いも分からずに日常業務を行っているということになる。
お粗末なのは、『法』に適していないと断定しながら、その後の記述では《鹿児島県情報公開条例第6条第2項の規定により》と明記。当該文書の根拠が『条例』にあることを示していることだ。文脈の整合性が欠如しており、まともな行政機関が発する文書とは思えない。
「命令」されるいわれはない!
続く文言が、《平成24年10月15日までに補正することを命じます》である。記者は条例違反を犯したわけではなく、ましてや鹿児島県への情報公開請求で違法行為をはたらいたわけでもない。
鹿児島県の知事から「命じられる」いわれなどさらさらなく、強権的な文書の記述に「はい、そうですか」と引っ込むつもりもない。
重ねて述べるが、記者は《記載漏れ》の請求などしていない。命令書の後半には、記載漏れの事項が《公文書の名称その他の開示請求に係る公文書を特定するに足りる事項》であることが記されているが、請求書には〔請求に係る公文書が特定できるように、公文書の名称又は知りたいと思う事項の概要を具体的に記載してください〕とあり、そこにはまさに〔知りたいと思う〕―「エコパークかごしま(仮称)に関係するすべての文書」と正確に記入しているのである(下がHUNTERの開示請求書の該当部分)。
補正内容について、「エコパークかごしま(仮称)に関係するすべての文書」では不十分で、公文書の特定ができないとあるが、それは鹿児島県側の都合であって、関連する文書全てを開示すれば済むことだ。
第一、請求内容を示す公文書としてどのようなものが存在するのか記者側には知りようがないのだから、いったん関連するすべての文書を開示してもらうしかない。
開示する文書を絞りたいのなら電話やメールで相談してくるべきで、実際、国や他の自治体では事前に調整することが通例になっている。
福岡市では、開示文書の特定のために補正が必要な場合、担当部署が請求者に連絡を取り、相談しながら作業を進めることになっている。情報公開の担当職員も「命令書というのは聞いたことがない。福岡市ではありませんね」と明言する。
こうした制度運用は国も同じだ。総務省の情報公開担当は次のように話す。「必要な場合は、請求者に連絡して補正をお願いするという立場ですから、命令するということはありません。当該自治体が条例のなかで『命令することができる』と謳っている場合は別ですが」。
じつは同じ鹿児島県庁でも対応が分かれており、他のほとんどの部署は、請求内容の確認のため電話連絡を寄こすことが大半。産廃処分場を所管する県環境林務部廃棄物・リサイクル対策課 管理型処分場整備推進室だけが、今回のような威圧的な文書で補正を求めてきたのである。
条例無視で恣意的運用
ここで、鹿児島県が「命令」の根拠としている県情報公開条例の規定を確認しておきたい。関係する条文はその第6条だ。
(開示請求の手続)
第6条 前条の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)は、次に掲げる事項を記載した書面(以下「開示請求書」という。)を実施機関に提出してしなければならない。
(1)開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名
(2)公文書の名称その他の開示請求に係る公文書を特定するに足りる事項
2 実施機関は、開示請求書に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に 対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、実施機関は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。
条文には、補正が必要な場合に『補正を求めることができる』とあるだけで、「命令できる」といった非常識な文言などどこにもないことが確認できる。
鹿児島県が理解すべきは、“補正を求める”と“補正を命じる”では、まったく意味が違うという点だ。
『命じる』とは、上位の者が下位に向かって使う用語であって、行政機関と請求者の対等の立場を前提とした情報公開制度においては、用いてはならない禁句である。
前述したように、HUNTERの記者は同条(1)にある「氏名又は名称及び住所」の記入については何の落ち度もない。
県側が問題にしたのは(2)の「公文書の名称その他の開示請求に係る公文書を特定するに足りる事項」なのだが、次の条文は県側の一方的な「補正命令」が条例の規定を守っていないことを示している。
そこにはこうあるはずだ。(補正を求めた場合には)「実施機関は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない」。
しかし、伊藤知事名の「命令書」には、「補正の参考となる情報」の提供などどこにもない。
「補正の参考になる情報を提供する」とは、どのような公文書があるのか分からない請求者に対し、開示可能な公文書を示し、請求がスムーズに行えるよう一定の配慮を求めているに他ならない。県側が条文に基づく手順を踏んでいないことは歴然としている。
背景にある隠蔽姿勢
HUNTERは昨年9月、鹿児島県に対し次の情報公開請求を行なっていた。
しかし、この請求に対し鹿児島県は開示決定期限の延長を行ったあげく、「開示・不開示のいずれの決定も行なわないと判断致しました」として情報公開を拒否。その後のHUNTERをはじめとする報道機関の動きを受け、一転して開示に応じるという失態を演じていた(参照記事→「鹿児島県が情報公開請求を拒否」)。
県の隠蔽姿勢は、この時すでに顕在化していたのである。
その後の産廃処分場をめぐるHUNTERの報道に、県側が神経を尖らせてきたことは想像に難くない。
今回改めて関係文書を開示請求した問題の産廃処分場工事現場では、公表した工事手法を守らず、濁水を川に放流して環境汚染を招いたり、大量の人工石を川に放り込むなど、やりたい放題。こちらはまさに違法・脱法のオンパレードだ。
さらに、処分場全体が3つの「砂防ダム」に囲まれた危険極まりない場所であることも報じており、県にとってHUNTERの動きは目障りで仕方がなかったのだろう。
たび重なる追及報道に対する焦りと苛立ちが、「命令」という非常識な形になって表れたと見る方が自然である。
歪む県政を反映
鹿児島県の「命令書」について、市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は次のように話す。
「補正の命令など聞いたことがない。補正が必要なら、開示請求を受けた自治体側から何らかの連絡があり、互いに開示がスムーズに運ぶように話し合うのが普通だ。強権的、一方的に『命令』するケースは例がない。
そもそも情報公開条例は、請求者の権利を担保するために制定されたもので、知事の権限を定めたものではない。鹿児島県は条例の趣旨を理解していないのだろう。
情報公開を拒否したり、命令書の形で請求者を威圧したりするということは、裏に何か隠し事があると見られてもおかしくない」。
伊藤知事が掲げてきたマニフェストには、「子どもからお年寄りまですべての県民にとって優しくぬくもりのある社会の構築」の一文がある。
処分場工事や県営住宅建設問題で地元住民を力ずくでねじ伏せ、その件に関する情報公開請求に対しては制度を恣意的に運用する伊藤県政。そこに優しさやぬくもりなどあるはずがない。
鹿児島では、利権と隠蔽にまみれた歪んだ地方の実態だけが照らし出されている。