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鹿児島・メディポリス構想の闇
伊藤知事の「虚偽説明」明らかに

2012年9月25日 06:45

がん粒子線治療研究センター 鹿児島県指宿市で「がん粒子線治療研究センター」を運営する「メディポリス医学研究財団」への公費支出にからみ、鹿児島県への情報公開請求で入手した文書から、伊藤祐一郎県知事が説明した同事業計画の経緯が実態とは違うものだったことが明らかとなった。
 同財団への公費支出額が60億円に上ることが明らかとなる中、財団理事長から受け取った疑惑の献金についての知事釈明が、虚偽に等しいものだったことが証明された形だ。

背景に100万円の寄附
 昨年8月、メディポリス医療研究財団の理事長で、同財団の中核をなす「新日本科学」の社長である永田良一氏から、平成20年の鹿児島県知事選挙で知事が100万円の寄附を受け取っていたことが明るみに出た(参照記事→「伊藤鹿児島県知事に疑惑の100万円」)。
 報道当日の5日、会見に臨んだ伊藤知事は公職選挙法や政治資金規正法に抵触していないことを強調し、従って道義的責任も存在しないとする一般常識からかけ離れた主張を展開。この説明過程で「がん粒子線治療研究センター」への公費支出の経過を説明していた。
 この時の知事の説明には、事実誤認、あるいは意図的な虚偽が含まれている。

会見発言に反する事実
 会見における知事発言の中から重要な箇所を抜粋し、知事の説明が実態と違っていることをつまびらかにしてみたい。以下、《 》内はすべて同会見での知事発言である。

《全体の事業費が、100億前後の事業だったかと思いますが、国からの補助金が約24億。それと相応するような金額を鹿児島県としては何らかの形でお手伝いするというのが、全体のフレームです。そして残りは、このメディポリスを実質的に経営しておられる永田さんが、自分の私財産を全部、一括して担保に入れることによって資金調達をした、そういう事業であります》。

 知事発言中、がん治療施設の建設費にかかる部分だけに限定すれば、説明は間違いではない。しかし、昨日報じた通り、研究費補助を加えたメディポリス全体への公費投入額は60億円に上ることが分かっており、知事の言う《24億円》は、その内の一部に過ぎない。
 事実関係を矮小化し、永田氏からの100万円に違法性がなかったことを強調するため、公費支出の全体像をぼかしたと言っても過言ではあるまい。
 
 gennpatu 1864410466.jpg知事はさらに、こうも述べている。《いま、佐賀県で炭素線の同じような施設が建設されていますが、それとまったく財源構成は違います。一個人の力が非常に大きかったと思います》。
 ここで指す《個人》とは、永田氏のことである。
 
 発言は、巨額な公費を投入したメディポリス医療研究財団が、永田氏の私的な団体であることを事実上認めた上で、同氏が《私財産を全部、一括して担保に入れ》た、と断言している。だが、残念ながらこれは明らかな事実誤認である。
 永田氏の自宅建物の登記の状況を確認しているが、平成9年に新日本科学を債務者とする銀行債権が抹消されたあとは、同物件が担保提供されたことは一度もないのだ(右参照。黒塗りと赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。
 メディポリスの事業を永田氏ひとりの力によるものだと強調することで、自身が計画に何の影響力も持たなかったということを印象付ける狙いがあったと思われる。つまり、謝礼をもらう筋合いではないと言いたいのだろう。

焦点は公費支出のフレームが出来上がった時期
 会見における知事発言で最大の問題は、公費支出のフレームが出来上がった時期についての部分だ。
 知事の釈明は、平成18年度と19年度に事業の前段階である研究補助金が支出され、その後の数十億円に上る公費支出は既定の枠組みに従ったもので、平成20年に改めて決定したものではない。従って永田氏からの100万円に謝礼の意味はなかったいう筋立てだ。すべての公費支出を早くからの既定路線とすることで、平成20年の動きから目を逸らしたかったらしく、同じ内容の話を繰り返していた。

《私が就任してすぐの頃からできてきたプロジェクトでありまして、平成18年度には、この研究施設の整備の事前調査の補助金、これも事前調査も補助金だったかと思いますが、国庫10分の10で約4800万。19年度は、研究施設整備支援事業として10分の10の国庫の事業で、施設整備の補助金等々を県の予算を通じて出しております。したがって、新聞でご指摘のような20年度で初めて事業を決定したような案件ではまったくありません事業はすでにその前から姿はあって、あとはファイナンス、財源構成をどうするかという、そういうお話でありました》。

《18(年度「粒子線がん治療研究施設整備事前調査」)、19(年度「粒子線がん治療研究施設整備支援事業」)の継続事業であり、従来から財源構成も全部終わってあとは手続的に補助金を申請するだけの行為が残っていたということをまず事実として、そのファクトはしっかりと押さえていただきたいと思いますね、何もこの時初めて決断したわけでもないし、全体計画を見たわけでもないですから》。
 
《18年か19年で、いろいろな形でみなさん方もお書きになっていますよこの頃は。その時に事業のフレームは決まっていたのですよね。そういう意味で、たまたま時期が云々というのは、これは少々やはり、あまりにもそこに注目されたご発言だと思いますね》。

 平成20年の時点では、巨額な公費投入が「規定路線」となっていたことを強調していた伊藤知事だったが、鹿児島県への情報公開請求で入手した文書から、実態がまるで違うものだったことが明らかとなってきた。

財団会議の記録から見えてくるのは・・・
 HUNTERが入手したのは、メディポリス医療研究財団側の事業検討委員会内の会議に関する記録である。
 会議には、放射線治療分野の大学教授などが委員として参加しており、事務局はメディポリス医療研究財団。県企画部、新日本科学はオブザーバー参加した形となっている。

 入手したのは、平成18年6月、10月、平成19年2月、3月の4回の検討委員会の議事要旨と、同委員会・事前調査ワーキンググループの平成18年8月、9月、11月、12月、平成19年1月における会議の記録である。

 下は、左から平成18年12月と翌年1月のワーキンググループの会議の記録、そして右端が同年2月の検討委員会の記録だ。それぞれの文書の記述からは事業の実像と、計画の問題点が浮き彫りとなる。

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 まず、平成18年12月の文書には、「1)事業モデルについて」で、『事業収支の検討も重要だが、研究テーマを実施する施設の計画を成立させるための収支計画であることに留意すべき』と明記。事業収支以上に、施設建設を実現するためにどのような計画を立てるべきかに力点を置いていたことが分かる。

 さらに同文書の「2)資金計画」では、国庫補助24億円だけが既定の収入で、県の補助額等については未定であることに加え、「6)収支シュミレーション」では『現段階では事業性の評価ができない』とまで断言していた。
 平成18年は、メディポリス医療研究財団への事業に対する補助金支出が始まった年だが、この段階では事業計画のフレームどころか粒子線を使ったがん治療施設が事業として成り立つかどうかの見通しすら立っていなかったことになる。

 翌年1月のワーキンググループの会議の記録(前掲中央の文書)からは、制度金融や別の補助金を模索する様子に加え、利用する放射線を「炭素線」にするのか「陽子線」にするのかさえ決まっていなかった実情が浮かび上がる。

 同年2月の検討委員会の記録(右端の文書)には、『将来的には陽子線の先進性が薄れてくる可能性がある』『炭素線の優位性が、より現実的になってくれば、その段階で、炭素線を追加することも考えられる』と記されており、ことを急ぐため杜撰な選定が行われた印象がぬぐえない。
 数回の議論の末、「陽子線」を選択していたのだが、ここまでの過程では公費支出の枠組みなど出来上がっていない。

知事の嘘
 前述した知事発言にはこうあったはずだ。
《20年度で初めて事業を決定したような案件ではまったくありません》。
《従来から財源構成も全部終わってあとは手続的に補助金を申請するだけの行為が残っていた》。
《その時(平成18年、19年)に事業のフレームは決まっていた》。
 しかし、メディポリス医療研究財団の会議の記録からは、知事発言を裏付ける記述を見つけることはできない。そのどころか、公費支出の枠組みの完成が平成19年の3月以降だったことが明白となっており、知事発言が虚偽だった可能性が高い。
 少なくとも、《その時(平成18年、19年)に事業のフレームは決まっていた》とする伊藤知事の発言は真っ赤な嘘である。

 これまで情報公開請求で鹿児島県から入手した文書の中には、メディポリス事業への巨額な公費投入が決まっていく過程を説明できるものは見当たらない。一体、何時の時点で巨額な公費投入の枠組みが決まったのか?

 じつは、メディポリス医療研究財団への公費投入が大きく動き出すのが、平成20年からだったことを示す証拠文書が存在した。

つづく



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