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高島福岡市政 都市戦略への疑問
海外企業の事業所数さえ知らぬ福岡市

2012年8月31日 11:50

 福岡市が、市内における海外企業の支店や営業所といった事業所数をまったく把握していないことがHUNTERの取材で明らかとなった。

 アジアのリーダー都市を目指すとしながら、海外企業の市内での活動実態さえ把握していない高島市政。明確な成長戦略も描かぬまま、「観光」にばかり力を入れる市政の方向性に疑問を呈しておきたい。
(写真は福岡市役所)

見落とされた海外企業の事業所数
 福岡市経済観光文化局によれば、平成20年度から22年度にかけての3年間で、福岡市が誘致した国内外の企業は86社に上るという。このうち外資系企業は25社。
 23年度からはさらに100社の誘致を目指すとしており、8月現在で新たに48社(うち外資系13社)の誘致が実現している。
 ただし、この数字は事務所賃料の4ヵ月分を交付するといった支援策を提示して誘致した企業の数で、独自に福岡に進出してきた外資系企業の数は含まれていない。

 都市の成長戦略を描く上で、海外の企業がどれほどビジネス拠点として福岡市を重視しているかを見極めることは必須である。当然、海外企業が福岡市に設けている事業所の数を把握していると思っていたが、改めて福岡市に確認したところ、市としてはこうした数字を把握していないことが明らかとなった。
 
 歴代市長の怠慢と言うしかないが、アジアのリーダー都市を目指すという高島市長にとって、こうした基礎的データは必要ないのだろうか。
 
「観光」に前のめり
 市長選挙以来、高島市長はアジアのリーダー都市を目指すという目標を掲げてきた。どのような分野でのリーダーなのか判然としないが、施策の軸に据えたのは“観光”だ。

 今年度から市役所内部に新設された「経済観光文化局」は、中小企業の振興や次世代産業の集積といった課題のほか、コンテンツを核とした国際競争力の向上、観光コンベンションの推進、福岡市の資源や財産を活かした文化施策の展開などを目指すための部署だとされるが、市として打ち出される目玉施策は、ほとんど福岡への集客を図るためのものばかりだ。

 人事面では、方針強化を目的として、内閣官房参与で前環境庁長官の溝畑宏氏を「福岡市観光戦略アドバイザー」に就任させることを発表している。ちなみに、溝畑氏にはJリーグ・大分トリニータの社長時代、運営法人である「株式会社大分フットボールクラブ」の経営を破綻寸前にまで追い込んだ責任を取って辞任したいう経歴があり、市内部からは「賞味期限の切れた人を連れてきた理由が分からない」といった声も上がっている。

 観光に前のめりとなる高島市長だが、今年2月の定例会見では次のように明言していた。
高島:さて、ここからはですな、「都市の成長」というところに話を移していきたいというふうに思います。今年は4月から経済観光文化局が新しくできてくるわけでございます。 はっきりと福岡の方向性、新しい福岡の方向性として、観光集客部門に力を入れていきます。この施策を進めていきます。はっきりと皆様にはお伝えをし、そして具体的にする部分をお見せをしていきたいというふうに思っております。

コスト意識の欠如
 こうした方針の下、出て来たのが無料公衆無線LANの地下鉄駅への設置や二階建てバスの購入、市役所1階の大規模改装、そしてとどめが昨日報じた福岡城跡の建造物を中心とした整備計画だ(参照記事→やっぱり「子ども」 高島福岡市長 福岡城整備計画で底の浅さ露呈) 。
 しかし、展開する施策に対するコスト意識を欠いた高島氏の姿勢には問題がある。
 
 高島市長は、前述の会見の中で、公衆無線LANのポイントを「タダで使えるということです」と自慢している。たしかに使う側はタダかもしれないが、設置費用に公費が投じられていることを忘れている。

 高島市長の発想はすべて同じのようで、今年7月、中国から年間800人の公務員を研修として受け入れることを発表した際の会見では、記者団と次のようなやり取りを行っていた。

記者:(研修受け入れにかかる)福岡市側の負担としては、どのくらいですか。
高島:いや、中国、中国、じゃあごめんなさい、福岡が負担するということはないですね。福岡はお金をもらう側なんで。
 
 福岡市側の負担はゼロだと断言しているのだが、これは大きな間違いだ。公務員ひとりを養うためには、給与のほか福利厚生や保険などに多額な税金がかかっており、地方自治の専門家の試算では、年収700万円程度の公務員の場合でも、時給4,000円~5,000円の計算になるという。
 中国から来た研修生たちの面倒を見るため、何人もの市職員がその対応にあたることになる以上、公費支出を伴うのは当然なのだ。それなりのコストがかかるということであり、その金額は数千万から場合によっては億単位にも上る可能性がある。
 
 打ち出した施策をできる限り正当化しようとするあまり、公費支出が税金によって支えられていることに思いが至っていないのである。費用対効果の計算もできていないのが実情だ。
 福岡城跡の整備がどれくらいの公費支出を伴うのか分からない段階だが、市議会や市民の声を無視して、上意下達で物事を進める高島氏の市政運営には注意が必要だろう。

「観光」一辺倒の限界
 さて、「観光」に前のめりな高島市長だが、この都市戦略に問題はないのだろうか。
 結論から述べるが、福岡市は観光都市ではない。歴史的に見ると、博多商人に代表されるように商業を軸とした自治のまちであることが特徴であり、発展の軸が“商い”であったことは明らかだ。決して代表的な観光資源に支えられてきた都市ではない。

 福岡城跡や元寇防塁といった歴史的な遺産はあるものの、切り札となるほどの存在ではあるまい。城については昨日報じた通りで、市民の強い気持ちがなければどんなに立派な建造物をあてがっても観光資源としては成り立たないだろう。
 
 付け加えておきたいが、町うちで使用されてきた「博多」の名称がこのまちの正式名称のように愛されてきたことでも明らかなように、福岡市が武家のまちであるという意識は低い。
 高島市長は「新しい福岡」をアピールしたいらしいが、歴史を無視した都市の発展などあり得ないということを申し上げておきたい。

商人のまち=ビジネスのまちという発想
 昨日配信の記事から、福岡市の都市戦略の軸は決して「観光」ではないということを述べてきた。
 むしろ福岡市発展の鍵は、この都市がアジアを代表するビジネス拠点となり得るかどうかにかかっていると言っても過言ではない。
 観光は確かにひとつのコンテンツではあるが、都市戦略の軸に据えるべきものではないのだ。
 福岡市がビジネスの拠点になってこそ、人、モノ、カネの動きが恒久化するのであって、一時的な訪問者の増加程度では確実な都市の発展は見込めないということを自覚すべきである。  
 
 そうした意味で、海外企業の動向を掴んでおくことは、今後の都市戦略策定にとって不可欠な仕事のはずなのだが・・・。



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