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検証・粒子線がん治療施設と献金の意味(鹿児島)

2012年8月 6日 08:40

 昨年4月、鹿児島県指宿市にオープンした粒子線を使ったがんの治療施設「がん粒子線治療研究センター」の建設計画をめぐる疑惑が深まった(参照記事→「南国薩摩 粒子線がん治療施設への疑問」。

 同施設の運営主体「メディポリス医学研究財団」の理事長から、伊藤祐一郎鹿児島県知事側に流れた政治資金は、判明しているだけで200万円。このうち、平成20年の鹿児島県知事選の際に知事に寄付された100万円は、県と財団の関係、事業計画の推移から見て賄賂性が強く疑われるものだ。

 この年1月から6月にかけては、財団から県への融資申し込みや補助金交付の申請が行われ、7月の選挙後にそれぞれの決済が行われたほか、8月には今年度に支給された5億円の別枠補助金を獲得するための事業所指定申請が、財団から県へ提出されていた。知事選の年に、事業推進のための県と財団とのやりとりが集中した形で、その最中に100万円の現金が動いていたのである。

 財団の中核は鹿児島県に拠点を置く上場企業「新日本科学」(本社・東京)だが、同社社長で財団の理事長でもある永田良一氏と伊藤知事の過去の発言や公表した文章から、改めて問題の政治資金の性格を検証した。(写真は鹿児島県知事公舎)

知事就任前後に始まった関係
 100万円の寄附についての報道があった直後の8月5日、伊藤知事は、定例会見で永田氏との仲を次のように説明している。
《永田良一さんというのは、私が鹿児島に帰って以来、大変親しくお付き合いをさせていただいております。また、新日本科学は鹿児島で唯一の一部上場企業でありまして、そういう意味で、経済活動を一生懸命やっておられる、そういう会社の社長さん。そしてまた、このメディポリスについては、これに関連する財団の理事長さんということでもありますし、そういう意味で親しい友人のうちの一人であります。したがって、同事業に対する構想とか意欲については、従来からいろいろと話題にもなっていましたし、初期の段階からこの問題については私は相談を受けておりました。そういう中で、この永田良一さんから政治活動に関し支援を行いたい、2回目の選挙の時だったかと思いますので、何らかのお手伝いをしたいということで、今回のような報告に書いてあるようなご寄附をいただいたということであります》。

 伊藤知事は元総務省の官僚で、退官は平成16年だ。知事発言にある《私が鹿児島に帰って以来》とは、知事が初当選した平成16年以来ということを示している。
 そして、《初期の段階からこの問題については私は相談を受けておりました》の「初期」とは、正式には知事に就任した直後の平成16年8月だったことが、次のような事実から分かっている。

 新日本科学は平成16年7月、初期投資額230億円をかけて建設された旧グリーンピア指宿を、公募入札において年金資金運用基金からわずか6億円で落札する。知事選も7月である。
 その後の永田氏の動きは早く、8月には旧グリーンピア跡地の利用方針を決定するための「活用協議会」を立ち上げている。

 gennpatu 1864410472.jpg永田氏は、個人のホームページ上に公表した「がん粒子線治療研究センター」の落成式にあたっての挨拶文の中で、当時の経緯を詳述している(右がそのページ。赤い矢印で示したのが活用協議会のメンバー表)。
《東京ドーム77個分に相当する広大な敷地と、そこに息づく自然や既存の施設などを、どのように活用していくのか?この大命題に方向性を見出すために、活用協議会を立ち上げ、鹿児島県、県医師会、金融機関、鹿児島大学、ならびに地元の有識者らと協議を重ね、地域の活性化を含めた様々な検討を行った結果、「医療と健康」をメインテーマに据えた基本方針が策定されました》。

 挨拶文の中には、活用協議会のメンバーも記載されているが、当選直後の伊藤知事が特別顧問に入っているほか、県の保健福祉部次長も加わっている。初めから県を巻き込んだ計画だったということだ。
 しかし、鹿児島県への情報公開請求で入手したメディポリス関連の公文書の中には、同事業についての県庁内部での議論や協議の記録は含まれておらず、トップダウンで事が進んだことを示唆している。

 ちなみに、活用協議会には県医師会と鹿児島銀行、鹿児島大学などからそれぞれのトップがメンバーに就任しているが、当時の医師会会長や京セラの稲盛会長が伊藤知事の資金管理団体に献金していたことが確認されている。

重なる知事と財団の足跡
 財団と県に関する動きを年ごとにまとめてみた。(注・県単融資=「鹿児島県放射線利用試験研究等設備整備資金貸付」。ふるさと融資=「地域総合整備資金貸付」)

【平成16年】
・7月 新日本科学が旧グリーンピア跡地を6億円で落札
・同  伊藤知事が初当選 
・8月 跡地利用を検討する「活用協議会」が発足。知事が特別顧問に就任 

【平成17年】 
・4月22日 新日本科学が先端治療講演会「ここまで進んだがん治療 ―放射線治療から重粒子線治療へ―」を開催

【平成18年】
・3月 8日 財団法人メディポリス医学研究財団設立発起人会
・5月15日 平成18年度放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金申請(財団→県)
・10月25日 交付決定通知(県→財団) 最終交付額:4,749万6,000円 

【平成19年】
・ 2月 財団が「メディポリス指宿」構想を新聞紙上で公表
・ 8月 陽子線がん治療研究装置ならびに建築の基本設計と実施設計の発注を正式決定
・10月 鹿児島県が財団を特定公益増進法人に認定

【平成20年】
・1月27日 ふるさと融資借入れ申込(平成20年度分・財団→県)
・5月15日 平成20年度放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金申請(財団→県)
・6月16日 伊藤知事が2期目に向けたマニフェスト公表《粒子線がん治療研究施設の整備促進を図る》と明記
・6月26日 鹿児島県知事選挙告示
・7月13日     同    投・開票
・8月 4日 企業立地促進補助金交付対象事業所指定申請(財団→県)
・8月 8日 県が同申請内容について適性であることを決済
・8月11日 企業立地促進補助金交付対象事業所指定を通知(県→財団)
・10月24日 放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金交付決定通知((県→財団) 最終交付額:5億2,365万円
・11月10日 ふるさと融資に関し県が(財)地域総合整備財団(ふるさと財団)に事前協議書提出

【平成21年】
・2月17日 県単融資 借入れ申請(平成20年度分・財団→県) 2月20日には貸付決定通知
・3月23日 ふるさと融資金銭消費貸借契約 貸付額:1億3,000万円
・3月30日 県単融資 消費貸借契約 貸付額:3億6,400万円
・4月23日 シンジケートローン契約 鹿児島銀行をアレンジャーに40億円

 伊藤知事の初当選以来の足跡と財団の動きは見事なまでに重なっており、両者が抜き差しならぬ関係にあったことは一目瞭然だ。また、知事選が行われた平成20年が、いかに重要な時期であったかも理解できるだろう。

矛盾だらけの知事発言
 ここで昨年8月5日の知事の会見での釈明について、再度検討しておきたい。
 知事は、会見の中で、「メディポリスを実質的に経営しておられる永田さんが、自分の私財産を全部、一括して担保に入れることによって資金調達をした、そういう事業であります」と述べているのだが、前稿で指摘した通り、メディポリスがらみで永田氏の自宅が担保提供された形跡などない。この点、知事発言は明らかな嘘だ。

 100億円近いメディポリスの事業費は、50億円以上を公的資金が占めており、40億円が銀行団からの融資である。
 平成21年4月23日には、財団との間に鹿児島銀行をアレンジャーとする40億円のシンジケートローン契約が成立しており、「永田さんが、自分の私財産を全部、一括して担保に入れることによって資金調達をした」とする知事発言は何を根拠にしたものか判然としない。
 ただ、このシンジケートローンは、事業計画に公的資金の裏付けがあったからこそ成り立つもので、県単融資やふるさと融資、さらには補助金支出が実行されることが平成20年度中に決まったことの意味は大きい。

 会見における記者とのやり取りにも疑問が残っている。

記者:永田社長からの個人献金というのはこれ以外になかったのでしょうか。

知事:ないようですね。私も実は承知してないんだけど。調べてもらったところありませんでしたね。

 しかし、永田氏は、平成22年に知事の資金管理団体「いとう祐一郎後援会 祐祥会」にも100万円の献金を行なっている。選挙向けということではないが、昨年8月の時点で調べたというのなら、当然この100万円の献金を把握していなければならず、知事が意図的に献金の事実を隠した可能性は否定できない。

問われる100万円の性格 
 知事は会見の中で、公職選挙法の「特定の寄附の禁止」について説明し、永田氏が「請負その他特定の利益を伴う契約の当事者である者」には該当しないと主張した。
 報道で指摘された「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」という補助金との絡みについての話ばかりで、他の問題点には言及していない。
 前述の後援会への100万円献金の事実を隠したのと同様、問題を矮小化しようという小役人的な発想しかなかったのだろう。

 gennpatu 1864410473.jpg右の文書は、会見にあたって記者団に配布した資料だが、問題の補助金を中心にした説明しか記されていない。

 確認できた平成20年の動きによれば、「特定の利益を伴う契約」のひとつとして、ふるさと融資の借入れ申し込みがあることは述べてきた通りだ。
 さらに、選挙直後の8月には、既に事業計画に組み込まれていたはずの「企業立地促進補助金」を受けるために財団から県に「交付対象事業所指定申請」が行われれており、そうなると、「特定の利益を伴う契約」の件数はより増えることになる。

 しかし、右の会見資料では、融資の時系列的説明や5億円の企業立地促進補助金の存在が伏せられた上、《事業総額約92億円のうち約43億円を支援(残額は財団が負担)》(赤い矢印とアンダーラインで示した箇所)と、実態とは違う数字まで明記していた。
 実際の公費支出額が、資料記述の数字より10億円も多い総額53億円(予定分を含む)あまりに上ることは、会見の時点で分かっていたにもかかわらず、である。
 公費支出についての詳しい内容説明を避け(というより虚偽公表に近いが)、知事と財団との不適切な関係が浮き彫りになるのを防ぐ狙いがあったと見られる。

 平成20年の知事選における100万円の寄附は、公選法上の解釈をする前に、贈収賄を疑ってみるべき性格のものだ。補助金や融資でお世話になった見返りに現金が動いたとすれば、刑法上の問題となるのは言うまでもない。



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