7日午後、鹿児島市松陽台町の公園で、県内の高校に通う16歳の女子生徒が刃物で刺されるという事件が起きた。新聞報道によれば、後をつけてきた男に数カ所を刺されたという女子生徒は自分で110番通報。病院に搬送されたが、生命に別状はないという。
事件が起きた松陽台は、鹿児島市内とはいえ人通りの少ない郊外の新興住宅地。じつは、県による“住宅政策の失敗”を象徴するまちである。
(写真が事件現場となった「松陽台ふれあい公園」。
■「松陽台」とは
事件が起きたのは鹿児島市松陽台町にある「松陽台ふれあい公園」。後をつけられた女子生徒が公園内で振り向いたとたん、上下黒の服を着、眼鏡をかけた10~20代の男にいきなり刺されたという。女子生徒は腹部や背中など3か所に刺し傷を負ったが、自分で110番通報。病院に搬送された女子生徒の命に別状はないとされる。
公園の周囲には事件直後から規制線が張られ、県警の捜査員があわただし動くなど物々しい状況。白昼、住宅地の公園で人が刺されるなど考えられない話だが、ある地元の住民は「事件や事故が起きないかと心配していた」として次のように話す。
「数年前、ふれあい公園内のベンチが壊されたり、落書きされるなどの被害が出た。普段は人の少ない場所で、イベントの時に賑わう程度。松陽台には五つの公園があるが、ふれあい公園が一番危ないと思っていました。付近に防犯カメラもない。戸建住宅街“ガーデンヒルズ松陽台”の住民向けに住宅整備公社が約束した商業施設や学校は整備されておらず、万が一の事態で子供たちが逃げ込む施設もない。鹿児島県が主導してできた新興住宅地ですが、県のデタラメな計画のせいで、まちづくりの方向性が大きく変わったからです。防犯ということでは、一人歩きを避けるべき地域なんです」
住民の話にある通り、松陽台町は鹿児島県が失敗した住宅政策の象徴である。もともと同町は、県住宅整備公社が約11haの予定地に戸建用地470区画を販売して形成する予定だった「ガーデンヒルズ松陽台」が中核。しかし、170区画程度(平成23年2月までの実績)を売却したところで、突然方針転換し、ガーデンヒルズ松陽台で最大の面積を占める戸建用区画約5.6 haを、330戸の「県営住宅」にするとして県が買収した。
背景にあるのは、県内各地で無謀な土地開発を繰り返した公社の赤字。税金で失政を隠すという最悪の展開だったが、県は「子育て支援住宅」を言い訳にして、またしても無駄な県営住宅整備に踏み切っていた。反対する地元自治会の度重なる陳情や要望は無視。公社が約束した商業施設や学校は、未整備のままである。行政のゴリ押しで整備されつつある県営住宅だが、子育て支援にはもっとも不適当な場所に建設されている。
■「子育て」不適地に子育て支援県営住宅
松陽台町に整備されている県営住宅の子育て環境は最悪。最寄り駅であるJR鹿児島本線「上伊集院駅」までは、大人の足で徒歩15分。階段や坂道が多く、子どもの足だとさらに時間を要する。県営住宅から一番近い小学校は、ひとつ先の薩摩松元駅近くにある松元小学校。松陽台には、子育てに必須の保育園も、小・中学校もない。松陽台から同校に通う児童たちは、毎朝駅までの長い距離を歩き、通勤・通学客でごった返す列車に乗って通学しているのが現状だ。朝、上伊集院駅のホームは列車から降りる松陽高校の生徒たち乗り込もうとする小学生で混雑し、いつ事故が起きてもおかしくない状況が続いてきた。ホームの柱には、児童の事故防止を目的とする黄色い防護が施されている。
女子生徒が刺された「松陽台ふれあい公園」は、子育て支援県営住宅の子供たちが上伊集院駅に向かうための「通学路」。県公社が公表したガーデンヒルズ松陽台の販売状況(平成26年当時)図で位置関係を見れば、松陽台の問題点が浮き彫りとなる。
図面、黄色い線で囲んだ部分が子育て支援県営住宅の整備地。県は、西側の一番端(赤い車線部分)から建設を進めており、1期36戸、2期42戸、3期26戸が完成済み。既に公募に応じた世帯が暮らしており、すべてが子育て中の家庭だ。小学生は、手書きの赤い矢印で示した経路で上伊集院駅に向かうしかないが、この際、刺傷事件が起きた松陽台ふれあい公園の横を通ることになる。通学路の南側にある公社が販売した戸建て用地は、道路より数メートル以上高い場所。コンビニなどもなく、万が一の場合に子供が逃げ込む先はない。これが子育て支援の街かと聞かれたら、多くは「NO」と答えるだろう。
住宅整備公社の事業失敗を隠蔽するため、数十億の税金をかけて無駄な県営住宅を建設する鹿児島県。伊藤祐一郎前知事が決めた事業だが、「県政刷新」を掲げて当選したはずの三反園訓知事は、実情も見ずに愚行を継続する構えだ。新たな事件・事故が起きないことを祈るしかない。