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南国薩摩 粒子線がん治療施設への疑問
問われる公費50億円投入の妥当性 
財団理事長、鹿児島知事側に多額寄附

2012年8月 3日 11:20

 様々ながんの治療法のなかで注目を集めてきたものの一つに、放射線の一種である重粒子線や陽子線といった「粒子線」を使った治療がある。
 正常な細胞への影響を抑え、がん病巣だけをピンポイントで破壊する治療法だが、課題も多い。

 設備に莫大な費用がかかることに加え、保険適用となっていないため患者が負担する治療費が約300万円という高額なものになるのだ。さらに、治療を受ける上での制約も多く、適応部位が限定される上、再発したがんや末期ガンには対応しない。

 先端治療であることは間違いないのだが、患者が限定されるこの粒子線治療施設に、巨額な公費が投じられていることを疑問視する声は少なくない。
 原子力発電所の立地県にばかり建設されている現状から、第二の原子力ムラ利権とも言われており、政治がらみの疑惑も顕在化している。
 九州における粒子線がん治療施設の現状を見ながら、伊藤祐一郎知事による強引な県政運営が続く鹿児島県の実態を検証した。(写真は鹿児島県知事公舎)

トラブル続きの粒子線がん治療施設 
 現在、九州では平成25年春のオープンを目指して佐賀県鳥栖市に「九州国際重粒子がん治療センター 」(サガハイマット)の建設が進んでいるが、同センターの運営主体「公益財団法人 佐賀国際重粒子線がん治療財団」の資金調達計画に狂いが生じており、先行きが不安視される状況となっている。

 約150億円とされる初期投資の資金は、佐賀県が20億円の補助金を出すほか、民間からの寄附88億5,000万円と出資金などの41億5,000万円でまかなう計画だった。
 しかし、同センターを誘致した鳥栖市が分担する予定とされた民間からの寄附などが集まらず、慌てた佐賀県側が隣県福岡に補助金支給を要請。これを受けた福岡県が、平成24度予算に佐賀県側の要請した5.9億円を計上した。
 古川康佐賀県知事の公約にもなっている同センターの建設計画は、スタート前に財政面で破綻しているのである。

 一方、鹿児島県の粒子線がん治療施設には、カネがらみの胡散臭さがつきまとう。

鹿児島県の現状
 昨年4月、サガハイマットに先行する形で鹿児島県指宿市に陽子線を使ったがん治療施設「がん粒子線治療研究センター」が開設された。

 施設の運営主体は「財団法人メディポリス医学研究財団」(永田良一理事長)。医薬品開発の受託研究企業として急成長した「株式会社新日本科学」が中心となって設立された組織だが、がん粒子線治療センターの建設には、100億円を越える事業資金が必要とされる。

 このうち約半分は公費によって賄われているのだが、この事業費をめぐって昨年8月、同財団の理事長と伊藤祐一郎知事との間に疑惑が浮上する。
 平成20年の知事選で、同県が特定公益増進法人の認定を出し、多額の補助金を支給してきた同財団の理事長から、伊藤知事側が寄附金として100万円を受け取っていたというもの。公選法や政治資金規正法の規定以前に、賄賂性が問われるカネの動きだったため、HUNTERをはじめ多くのメディアが報じる事態となっていた。
 この折、知事は「法的問題がなければ道義的責任もない」として無視する構えを示したが、果たしてそうだったのか。鹿児島県が保有するメディポリス医学研究財団に関する公文書を検証した。

事業費の半分は50億円超の公費
20110805_h01-03-thumb-240x360-1196222.jpg 昨年8月の疑惑発覚時に確認されていたのは、メディポリス医学研究財団に支給されていた公費のうち、約27億5000万円が電源3法交付金のなかの「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」、いわゆる原発マネーを原資としたものだったこと。
 さらに、この他「鹿児島県放射線利用試験研究等設備整備資金貸付」を利用した貸付(県単融資)が14億円、「地域総合整備資金貸付」(ふるさと融資)に基づく貸付が5億円、合計すると46億5,000万円の公費支出が実行されていたことだった。
(右の写真は「がん粒子線治療研究センター」。メディポリス医学研究財団のHPより)

 今回、新たに鹿児島県への情報公開請求で入手した文書によれば、平成18年度と19年度に計約1億1,000万円の補助金が支出されていたことや、今年4月に「企業立地促進補助金」として5億円がメディポリス医学研究財団に支給されていたことが分かった。同財団への公費支出額は、53億円あまりに上っていたことになる。
 これらの補助金と融資金の、それぞれの流れをまとめた。

【放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金】
平成18年 5月15日 平成18年度同交付金申請(財団→県)
平成18年10月25日 交付決定通知(県→財団) 最終交付額:4,749万6,000円

平成19年 5月11日 平成19年度同交付金申請(財団→県)
平成19年 9月 3日 交付決定通知(県→財団) 最終交付額:6,346万円

平成20年 5月15日 平成20年度同交付金申請(財団→県)
平成20年10月24日 交付決定通知((県→財団) 最終交付額:5億2,365万円

平成21年 5月25日 平成21年度同交付金申請(財団→県)
平成21年 9月 2日 交付決定通知(県→財団) 最終交付額:10億3,165万円

平成22年 5月19日 平成22年度同交付金申請(財団→県)
平成22年 9月 6日 交付金決定通知(県→財団) 最終交付額:8億4,377万4,000円

平成23年 5月19日 平成23年度同交付金申請(財団→県)
平成23年10月13日 交付金決定通知(県→財団) 最終交付額:3億4,952万7,481円

*同交付金総計:28億5,955万7,481円

【県単融資】
平成21年 2月17日 借入れ申請(平成20年度分・財団→県) 貸付決定通知は2月20日
平成21年 3月30日 消費貸借契約 貸付額:3億6,400万円

平成22年 2月23日 借入れ申請(平成21年度分・財団→県) 貸付決定通知は2月23日
平成22年 2月23日 消費貸借契約 貸付額:5億3,200万円

平成23年 3月 2日 借入れ申請(平成22年度分・財団→県) 貸付決定通知は3月 2日
平成22年 3月29日 消費貸借契約 貸付額:5億400万円

*貸付総額:14億円  

【ふるさと融資】
平成20年 1月27日 借入れ申込(平成20年度分・財団→県) 
平成20年11月10日 県が(財)地域総合整備財団(ふるさと財団)に事前協議書提出
平成21年 3月23日 金銭消費貸借契約 貸付額:1億3,000万円

平成21年10月29日 借入れ申込(平成21年度分・財団→県)
平成22年 3月18日 金銭消費貸借契約 貸付額:1億9,000万円

平成22年10月18日 借入れ申込(平成22年度分・財団→県)
平成23年 3月30日 金銭消費貸借契約 貸付額:1億8,000万円 

*貸付総額:5億円

【企業立地促進補助金】
平成20年 8月 4日 補助金交付対象事業所指定申請(財団→県)
平成20年 8月 8日 県が申請内容が適性であることを決済
平成20年 8月11日 補助金交付対象事業所指定を通知(県→財団)

平成23年 4月19日 事業所操業開始届(財団→県)
平成24年 3月12日 補助金交付申請(財団→県)
平成24年 3月30日 補助金交付決定及び交付確定通知(県→財団) 交付額;5億円

*平成18年~24年までの支出総額:52億5,955万7,481円

注目される平成20年の動き
 メディポリス医学研究財団の理事や評議員といった役員には、新日本科学の関係者がずらりと並んでいる。理事長の永田良一氏は同社社長、副理事長には同社の専務を据えている。
 財団発足時の基本財産となった5,000万円の寄附の内訳は、新日本科学が1,000万円、同社系列の医療法人が4,000万円だった。設立経過からしても、同財団は新日本科学と一体と見て差し支えあるまい。
 上場企業とはいえ、民間企業である新日本科学が設立した財団に、50億円を超える公費支出が実行されることには首を傾げざるを得ない。 

 ところで、それぞれの補助金や融資の決定過程を詳しく見ていくと、平成20年という年がクローズアップされてくる。上記の太文字の記述がそれだ。
 「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」、「ふるさと融資」、「企業立地促進補助金」、いずれもこの年に大きな動きがあったことが分かる。「県単融資」も、知事選の半年後にばたばたと事が進んでいる。

 前述したように、平成20年は伊藤知事が2期目を目指した鹿児島県知事選挙があった年。知事は同年6月16日、マニフェスト「力みなぎる・かごしま 新たな未来への挑戦」を公表するが、このなかに《粒子線がん治療研究施設の整備促進を図るなど、がん対策を総合的・計画的に推進します》とうたっていた。1期目のマニフェストにはなかった項目で、新日本科学という民間企業が始めた事業を、知事公約にまで高めた形だ。

 そして同年7月9日、財団理事長で新日本科学の社長でもある永田良一氏は、知事選に立候補した伊藤知事に100万円を寄附する。(下は伊藤陣営が県選管に提出した選挙運動費用収支報告書の一部。黒塗りなどの加工はHUNTER編集部)

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gennpatu 1864410471.jpg 粒子線がん治療施設の建設計画と県がらみの巨額な補助金に融資。建設計画が大きな節目を迎えていた平成20年の知事選とマニフェスト。そこに100万円の寄附・・・。
 外形的事実をつなげていけば、永田氏から知事への寄附に賄賂性が疑われるのは必然だったと言えるのではないだろうか。

 ちなみに、永田氏は平成22年、知事の資金管理団体「いとう祐一郎後援会 祐祥会」にも100万円の献金を行なっていたことが分かっている。(右の写真が伊藤知事の後援会事務所)

知事の嘘
 知事は、平成20年の選挙に永田氏から受け取った100万円の寄附についての報道直後の記者会見で、次のように開き直った。「法律的な問題は全くないし、したがって道義的な問題も全くない」。
 そして、この時の会見の中で、興奮したのか言わずもがなの話をしている。
メディポリスを実質的に経営しておられる永田さんが、自分の私財産を全部、一括して担保に入れることによって資金調達をした、そういう事業であります」。

 巨額な公費を投入したメディポリス財団が、永田氏の私的な団体であることを事実上認めた上で、同氏が「私財産を全部、一括して担保に入れ」と断言しているが、残念ながらこれは創作である。
 下は、永田氏の自宅建物の登記の状況だが、平成9年に新日本科学を債務者とする銀行債権が抹消されたあとは、担保提供されたことは一度もないのだ(黒塗りと赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

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 「私財産を全部、一括して担保に入れ」という伊藤知事の話が、まったくの作り話であることは明らかだ。蟻の一穴というが、この嘘で知事の主張全体の信頼性がゼロになったと言っても差し支えあるまい。

 自らの潔白を強調したかった気持ちは分かるが、“嘘つきは泥棒のはじまり”である。補助金や公的融資の見返りに寄附を受け取っていたとしたら、それは紛れもなく犯罪だ。



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