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読売新聞 取材メモ誤送信と誤報の問題点
異例の早期処分にも多くの疑問

2012年8月14日 09:45

 今月1日、HUNTERが報じた「読売新聞記者の大失態 ~現職警官逮捕の舞台裏~ 前代未聞の「取材メモ」誤送信と問題点」(記事参照→)に、読売新聞が異例の速さで反応した。

 読売新聞西部本社は、同紙記者が福岡県警の現職警官による贈収賄事件の取材メモをメールで他社の記者に誤送信したことを受け、14日朝刊で当事者の社会部記者を諭旨退職処分にしたことや事案の顛末を記事の中で公表。さらに、誤送信と県警がらみの「誤報」に関係した社会部長と編集局長、社会部デスクと法務室長らに対する処分に加え、コンプライアンス担当の常務取締役総務局長が役員報酬の一部を返上することを明らかにした。
 これに先立ち、8日付朝刊では本部長名の職務質問マニュアルが関係先の捜索で見つかったとの記事について、誤報であることを認め訂正記事を掲載していた。

 報道機関としての適格性を著しく欠く事態に、免職や更迭という厳しい処分を選択した同紙だが、その主張には疑義が残る。改めて、この問題をめぐる読売を含めた大手メディアの姿勢には、なお不同意であることを明言しておきたい。
 HUNTERの報道がなかったとすれば、メール誤送信の事実は闇に葬られていた可能性が高いからだ。

疑問が残る読売の姿勢
 読売新聞の14日朝刊の記事では、取材メモを誤送信した記者や関係者への厳正な処分に至った理由として、《取材源の特定につながりかねない情報が含まれていたことから、取材関係者を窮地に追い込み、多大な苦痛を与えたことを重視した》ことと、《取材情報を社外に流出させ、「取材源の秘匿」という最も重い記者倫理に反する重大な結果を招いた》ことを挙げている。

 この点については一定の評価を与えることができるのだが、誤送信のミスを犯した記者の実名まで明かしたことには、強い違和感を覚える。
 確かに、メール誤送信が重大な結果を招いたことは事実なのだが、読売の記事を読むと、すべての責任を記者個人に押し付けているとしか思えない。取材メモの取り扱いや情報管理に甘さがあったのは全社的な問題であって、記者や幹部の処分で事を済まそうとする同紙の姿勢は評価に値するものではない。

 さらに、処分までの過程を解説した記事(同紙33面)では、大手メディアの世界だけにしか通用しない手前勝手な主張を展開している。
 例えば、今回の県警関係者への裏付け取材について《取材目的、手段、方法は適正だった》と述べているが、この“マスコミの常識”こそ、一般社会のルールを逸脱したものであることに気付いていない。

 「夜討ち朝駆け」と称される取材手法が違法行為につながる危険性を秘めたものであることは言うまでもない。
 マスコミが行ってきた捜査情報の収集は、一歩間違えば公務員に「守秘義務違反」・「捜査情報の漏洩」をそそのかす行為なのだが、“知る権利”を盾にした大手メディアは、これを正当化して平然としている。
 近年、知る権利を盾に捜査情報を聞き出すことが、真相究明という本来の目的を逸脱し、スクープによって自社の利益を図ることに主眼を置いているようにしか見えない。
 数々の冤罪事件を生んだペンの暴力は、じつは「夜討ち朝駆け」を正当化するようなメディアの思いあがりによるものであることに思いを至らすべきだろう。

 問題はまだある。読売新聞の14日朝刊の記事では、先月20日のメール誤送信やその翌日(21日)の同紙の記事が、県警の捜査を妨害する結果を招いていたかもしれないことには一切言及していない。
 この時期、贈賄側の行方は不明のままだったとされ、先走った報道が犯人の逃亡を助ける形となっていた可能性さえあったとされる。読売の先走り報道に、「捜査妨害ではないか」(県警捜査員の話)との批判が出ていたのは事実だ。
 誤送信だけを重要視しているが、スクープにこだわり事件そのものをつぶしかねない報道姿勢にこそ問題があるのではないだろうか。

誤送信メール隠蔽の証左
 誤送信の事実がわかったあとの経緯についての記述は特にいただけない。記事の記述はこうだ。
《記者はただちに全員に『変なメールを送ってしまいました。申し訳ありません』と書いたメールを一斉送信した。その後、社会部長の指示を受け、改めて13人全員に直接電話してメールの削除とその内容を外部に出さないよう依頼し、各社の記者から了解を取り付けたしかし、その後、誤送信されたメールの内容が拡散した》。

《メールの削除とその内容を外部に出さないよう依頼し、各社の記者から了解を取り付けた》という行為は、事実関係の隠蔽を図ったと同義である。
 読売が明かした13人の記者(司法記者クラブ所属)と事情を知った報道各社が、これを不問に付す判断をしていたとすれば、記者クラブというこの国特有の制度に胡坐をかいた大手メディアの馴れ合いと言うしかない。

 これが政府関係者による重要事項のメール誤送信だったとしたら、大手メディアは鬼の首を取ったかのような報道合戦を繰り広げていただろう。なぜ、記者クラブ内での不始末を隠蔽することが「了解」され、闇に葬ることが許されるのか理解できない。

 読売新聞は、本当に13人の記者たちが「了解」したのかどうか確認もしないまま、勝手な主張を垂れ流したのではないか。だとすれば、読売の記事は、司法記者クラブに所属する13人の記者たちの良識さえも否定したことになる。
 記事の内容や事案の経過から見て、他社に事実関係を取材したとは思えず、読売の一人合点だけが活字になった形だ。
 警察関係者の話(本当かどうか分からないが)を鵜呑みにして、裏取りもせずに「誤報」を流したばかりだというのに、誤送信メールの検証が不十分なまま結論だけを記事にしたのは、反省がないことを示している。これがまともな報道機関のやることだろうか?

 気になるのは読売以外のメディアの反応だ。もちろん、前代未聞の誤送信に危機感を抱いた記者がいたからこそ、HUNTERの報道につながったのであるが、誤送信から10日間、この問題を報じたメディアは1社もなかったのはどうしたことだろう。
 読売記者のメール誤送信によって報道関係者が死守すべき“情報源の秘匿”があっさりと破棄されたことは、別の問題として報じるべきだったはずなのに、だ。
 HUNTERの1日の報道がなかったら、メール誤送信問題は間違いなく闇に葬られていたことを断言しておきたい。

処分の背景
 読売が異例の早期処分に踏み切った背景には、同紙記者のメール誤送信で取材に応じた警察官を窮地に追い込んだことに加え、「複数の捜査関係者によると」という書き出しで報じられた、先月22日の同紙1面のスクープ記事の存在がある。
 問題の記事は、県警本部長名の職務質問に関する通達が、指定暴力団・工藤会への捜索で見つかっていたとするものだったが、記事中の「本部長通達」自体が存在しない。 
 前述した通り、読売新聞自体がすでにこの報道を「誤報」と認めているのだが、福岡県警は先月末の時点で、読売に対し問題の記事に関する質問書を出していることや読売側から返事がないことを認めている。

 誤報に誤送信。読売に対する県警の怒りは大きかったはずで、関係修復を急ぐためには、社内関係者の首を差し出さざるを得なかったという社内事情が透けて見える。
 ただ、処分が“読者”を裏切ったことに対する反省ではなく、県警向けのパフォーマンスだとすれば、この新聞は報道機関として死んだも同然ということになる。
 詳しい検証が行われた形跡を14日朝刊の記事から読み取ることは難しく、暴走する読売を象徴するかのような展開となった。



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