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鹿児島県 知事独裁の証明

2012年7月11日 09:55

鹿児島県庁 8日に投・開票が行われた鹿児島県知事選挙で、現職の伊藤祐一郎氏が3選を果した。論戦を避けるため、街頭での訴えを控え、支援組織の人間だけを集めて締め付けを図るという内向きの選挙。案の定、40%台前半という低投票率に終わったが、反原発を掲げた新人の得票が20万票を超える結果となり、驕る伊藤県政に冷や水を浴びせた形だ。

 同知事選をめぐっては、伊藤氏陣営が作成した後援会報やマニフェストに、県職員が撮影した数百枚にのぼる写真が横流しされていたことが分かっており、県庁が現職知事に便宜供与を図ったことは明らかだ。とても公正な選挙とは言えない。

 背景にあるのは、伊藤知事の独裁的県政運営の手法だが、「細かいことまで知事の判断を仰がなければことが進まない」(県職員)とされる鹿児島県庁の実情を示す文書が見つかった。

知事による報道規制
 今年2月、鹿児島県庁内部で「記者発表に関する注意事項」と題する文書が回覧された。記者発表資料の記入方法から、"投げ込み"と呼ばれる文書による記者クラブへの情報提供の仕方、さらには取材制限("しばり"といわれる)の在り方に至るまで、詳細な注意事項をA4用紙3枚に列挙したものだ。
 注目したのは2枚目の「知事への表敬等のマスコミ取材」に記された文言で、下がその一節だ。

gennpatu 186441032235.jpg 外部の団体などが知事を訪問する場合、いちいち知事本人にどこまで取材を許すべきか確認しろと命じているのである。波線をつけて《記者発表する前に、必ず所管課で知事に確認》と念押しまでするところは、いかにこの県庁が萎縮した組織であるかを物語っている。
 表敬訪問に対する取材の在り方まで知事に確認しなければ動かない県庁がまともであるはずがない。

 さらに、《知事に確認する前に、外部の団体等が、直接マスコミに通知等することがないよう、相手方と調整してください》のくだりは、事実上の報道規制をうかがわせる一文である。

程遠い「開かれた県政」
 gennpatu 1864410323.jpgこうした文書が回覧されたのは、知事への申し入れや表敬訪問で、取材制限が不十分だったことに起因しているようだ。
 
 回覧文書に添付された「記者発表に伴う最近のトラブル事例」(右の文書参照)に、三つの事例が記されている。
 【事例1】は、訪問者側がフルオープン(会談中のすべてを取材できること)を可としたのに対し、県側が"頭撮り"といわれる冒頭だけの取材に制限したことによる記者とのトラブル。【事例2】は、訪問者側の意思に反し、県側が頭撮りにとどめようとしてかなわず、フルオープンになってしまったケースである。

 いずれも取材制限が徹底していなかったことで起きたトラブルだが、訪問者がフルオープンを可としている会談に取材制限をかける県の姿勢は不可解である。考えられるのは知事本人が「密室」を希望しているということだ。この権力者はどこまでも"内向き"なのであるが、これでは"開かれた県政"が遠のくばかりだ。

独裁県政
 知事選の取材で知事の事務所を訪れた時のこと。後援会幹部の「街頭演説を行わず支援者の集会だけに力を入れる」という説明に、内向きでは県民に訴えが届かないと反論したところ、「知事が決めたことだから」と話を打ち切られてしまった。鹿児島県では、「知事が決めたことだから」ですべてが片付くのである。

 薩摩川内市の産業廃棄物最終処分場や鹿児島市の県営住宅建設をめぐっては、決済文書の不存在や県側の嘘、隠蔽が次から次へと明るみに出ている。
 そして、県職員を追及するたびに聞かされるのは「知事が決めたことだから」の一言だ。
 知事の独断で県政を動かしてきたため、説明責任が果たせず、隠蔽と嘘が横行する結果を招いているのである。最後の隠れ家が「知事が決めたことだから」なのだ。

 独裁県政の弊害は県政の歪みに直結する。いまや"密室談合"、"隠蔽"は鹿児島県の専売特許である

 ある県職員は、こう話す。「なんでもかんでも知事の確認を取れ、というのが現在の鹿児島県庁の実態なんですよ。信じられないかもしれませんが、公費でまかなう接待用の料理にまで(知事が)うるさく口を出すんです。しかも、知事本人の舌にあっているかどうかが判断基準になってる。王様ですよね。
 幹部職員は知事に睨まれないよう、何かあるたび右往左往してご機嫌取りに走り回っています。幹部がフライングでもしようものなら、本人の首どころか部署ごと無くなるんじゃないですか。
 鹿児島県の不祥事や法令違反といったHUNTERが書いてるようなことに対しては、回答や対応が極端に遅れるでしょう。あれは知事の判断を仰ぐ必要があるからなんですよ」。

 別の県関係者からは次のような話が飛び出した。
「今年の2月に、HUNTERがドイツ総領事の知事訪問の記事を書いたでしょう。漏れるはずのない話が表面化したことで知事周辺が慌てたんですよ。報道規制はそのとばっちり。知事選を前に神経質になってたんですね」。

 県関係者が言う記事とは、今年2月6日配信の「橋下大阪市長はヒトラー?現状をナチス時代になぞらえた鹿児島知事」のことらしいが、内容は、表敬訪問したドイツ総領事に、橋下徹大阪市長などの動きや現在の日本国内の状況について、ヒトラーとその時代を例に挙げて批評していた伊藤知事に疑問を呈したものだ。
 独裁者が独裁を批判する滑稽さを記事にしたまでだが、知事やその周辺はお気に召さなかったらしい。

 独裁県政の継続を許した鹿児島県民だが、間違った判断だったことを明言しておきたい。



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