鹿児島県の伊藤祐一郎知事が、同県を訪問したドイツ総領事に、橋下徹大阪市長などの動きや現在の日本国内の状況について、ヒトラーとその時代を例に挙げて批評していたことが分かった。
当時がドイツにとっての暗い歴史であることに違いはなく、同国の外交官に対し「橋下人気」を分析する言葉としては不適切だった。
大胆な改革を進める橋下市長の政治姿勢やキャラクターに対し、懐疑的な伊藤知事の思いがこうした発言につながったと見られる。
ドイツ総領事に事実上の橋下批判展開
鹿児島県で伊藤知事と会談したのは「大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館」(大阪市)のアレクサンダー・オルブリッヒ総領事。
同総領事館は、大阪府、京都府、兵庫県をはじめ愛知県などの中京地区から富山、石川の北陸、さらには中国・四国から九州・沖縄までの29府県を管轄しており、鹿児島県もそのうちのひとつ。
1月31日、鹿児島県庁を表敬訪問した総領事は、伊藤知事と地方分権などについて意見交換したという。
関係者の話を総合すると、この意見交換のなかで、橋下大阪市長や大村秀章愛知県知事らの動きについて感想を求められた伊藤知事は、国から補助金をもらっている大阪市や大阪府がどうやって独自の行政運営をやるのかと疑問を提示。
その後、ヒトラーの名を挙げドイツに「不幸な時期があった」とした上で、橋下市長らに期待が高まる日本の現状をナチス台頭期に「似たようなもの」といった趣旨の発言をしたという。
話の流れから言っても、橋下市長をヒトラーに見立てたのは明らか。その市長の動きに期待感が高まる日本の姿を、ヒトラーが率いたナチス(ナチ党、正式には「国家社会主義ドイツ労働者党」)が台頭した時代になぞらえたところは、かなり厳しい「批判」と受け止めるのが自然である。
伊藤知事は、橋下市長や大村知事の動きについても、地方分権ではなく国政を志向した政治運動などと評していた。
発言内容を確認するため担当とされる鹿児島県国際交流課に取材したところ、同課は伊藤知事が「不幸な時期があった」と発言したことやヒトラーの名前を出したことは認めるものの、批判ではないと言う。「地方分権についての話の中で、流れの中で出た話ですから」と懸命に知事をかばうが、まさに流れの中での知事発言であり、相手がドイツの外交官であることを考え合わせると妥当なものとは言い難い。
総務省出身知事は同じ思い?
先月17日には同じ総務省出身の河野俊嗣宮崎県知事が、定例会見の中で「橋下市長を独裁だとか、それが危険だというふうに思っているわけではないのですが、今の国政の閉塞感なりという状況の中で、わかりやすい発信力のある勢力に周りが乗っかっていく、それが全体として危ない方向になりはしないかというところを危惧をしておるということであります」などと発言していた。
総務省出身の知事らには、地方主権を掲げ中央支配の打破を狙う橋下市長や改革派首長たちの存在が煙たいものに映るらしい。
とりわけ、今年改選を迎える伊藤知事の売りは官僚出身であることを生かした「中央との太いパイプ」。これとは逆に中央との対決姿勢を鮮明にし、既成概念を次々と打ち破る橋下市長らの政治姿勢が、まったく相容れないものであることは言うまでもない。
しかし、反対住民らを弾圧して産廃処理場の建設を強行したり、住宅建設計画を突然変更し地元住民の反発を招くなど、強権的な行政手法に「独裁県政」との批判が出ているのは、ほかでもない鹿児島県でのこと。
県政トップは伊藤祐一郎氏だったはずだが・・・。