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安全協定の裏に"原子力ムラ"の存在 ~福岡県~

2012年5月30日 09:50

 橋下徹大阪市長、嘉田由紀子滋賀県知事、山田啓二京都府知事。関西圏の首長たちが、全面に立って原発再稼働問題に向き合っている。大飯原発で事故が発生した場合のことを考えてのことだ。

 これに対し、玄海原発(佐賀県玄海町)の影響を受けることが予想される福岡県は、早々に九州電力と不十分な「連絡協定」を結び、県民の安全より原発再稼働を優先させる方針を打ち出した。福岡、糸島の両市も、唯々諾々と県に従っただけ。交渉の主導権を県に奪われ、独自の方針を貫くことなく市民の期待に応える機会を放棄している。なぜこうした茶番がまかり通ったのか。

 福岡市が開示した協定の交渉過程を示す議事録からは、驕る九電と県の姿が浮き彫りとなる。強気の背景に、霞ヶ関の官僚人脈と九電・松尾前会長の存在があったことは見逃せない。(写真は福岡県庁)

傲慢さ隠せぬ九電
 HUNTERの情報公開請求に対し、福岡市が開示した九電との協議の記録に次のようなやり取りが残されていた。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

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 これは、福岡市が佐賀県並みの情報提供を求めたのに対し、九電が難色を示した時の一節だ。
 九電は、原発施設内における事故(事象)の情報提供が行われた場合、佐賀県がやっているように原発を擁護できるのか、と福岡市の担当者を問い詰めているのである。。

 つまり九電にとっての自治体の責任とは、原発事故を軽微に広報すること。言い換えれば、住民の目をごまかしてくれるか否かが付き合いの重要な基準となっているということだ。これは、依然として電力会社が原発に関する事故を過小評価し、住民の目を欺こうとしていることの証しでもある。

 こうした"九電の尺度"で出来上がった「安全協定」に、意味があるとは思えない。

強引だった県のリード
 安全協定をめぐる協議が、終始県のリードで進められたことは述べてきたとおりなのだが、議事録の記述からは、九電の立場を守りつつ、何とか早く協定締結に持ち込もうとする県の強硬な姿勢が伝わってくる。それが端的に表れたのが次のくだりだ。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

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 じつは、安全協定締結時に結ばれた「覚書」の当事者は福岡県のみで、福岡市と糸島市は外されている。
 「覚書」の内容は、環境放射能の測定結果や保守運営、放射性廃棄物の管理といった平常時の原発の状況に加え、原子炉設置に関する変更などを文書で報告するというものだ。

 協議の中で福岡市と糸島市が、覚書も4者(九電、県、両市)で交わすべきだと主張したのに対し、九電は《県が主体的に運用する》として反論。4者で覚書を交わすことに問題があるのかと追及した糸島市の発言を受けて、すかさず県の総務部長が「県が主体となって行なわれるものと考えている」と断じていた。追い込まれかけた九電を、コワモテに転じた県が救った形だ。

福岡市の対応に疑問
 協議の議事録を見て感じるのは、原発から30キロ圏内に入る糸島市と北部九州で最大の人口を誇る福岡市の"弱腰"である。前述したとおり、県の総務部長の一括で黙ってしまうという体たらくだが、とくに福岡市にやる気のなさが目立つ。

 計4回開かれた九電との協議で、県は総務部長が、糸島市は危機管理部長が毎回参加している。
 一方福岡市は、1回目に市民局の理事、2回目に生活安全・危機対策部長、そして3回目と4回目に市民局長が出席するというありさま。一貫性のない取り組み方では、九電や県から軽くあしらわれても仕方があるまい。

 協定締結の調印式後、九電からの連絡が県を経由することに不満を漏らした高島宗一郎市長だが、交渉過程で担当者がコロコロ変わったことに疑問を持たなかったことの方がよほど問題だろう。市長自身が協定の重要性を理解していなかったとしか思えない。
 政令市である福岡市が県の言いなりになる必要はない。原発に不安を抱く市民の声を汲み取って、独自の対応をするべきだった。

霞ヶ関人脈
 ところで、福岡県をはじめ、福岡、糸島両市が開示した安全協定に関する公文書の中には、協議に臨むにあたっての3自治体による打ち合わせの記録が一切ない。これは、事前に何らかの話し合いがもたれたか、水面下での調整が存在したことを物語っている。
 福岡市や糸島市を黙らせ、九電を利する協定が結ばれた背景には、ふたつの大きな流れがあった。

 まず見逃せないのは、「霞ヶ関人脈」だ。
 安全協定に関する九電との協議をリードしたのは、福岡県の山野謙総務部長。同氏は総務省からの出向で、原発立地県である佐賀県の古川康知事、鹿児島県の伊藤祐一郎知事の後輩にあたる。

 3人とも旧自治省に入省したキャリア官僚だが、関西電力・大飯原発の立地県福井の西川一誠知事も自治省(総務省)出身。そろって西川知事の後輩ということになる。
 彼らが原発再稼働に前向きであることは、出身母体が霞ヶ関であることと無関係とは思えない。官僚同士の絆は強く、とくに出身官庁の先輩後輩ともなると、連絡を取り合うケースが多いのは事実だ。

 原子力ムラの本拠地がある霞ヶ関の総意は「原発再稼働」であり、総務省も同じベクトルで動いていると見る方が自然だろう。

 山野総務部長が原発擁護の姿勢を鮮明にしていたことは、昨年12月21日に開かれた2回目の協議における発言でも明らかだ。
《原発の安全性の確保について、しっかり広く説明してほしい》。
 原発は安全であるとの視点に立った発言であることは疑う余地がない。彼もまた、原子力ムラの一員なのである。

 小川福岡県知事の古巣は経済産業省。こちらは原発推進の総本山だ。知事に原発を止めるという発想はハナからなく、選挙で世話になった九電と後援会長である松尾前会長を助けることしか念頭になかったと思われる。
 協定を主導した福岡県自体が、小川、山野という原子力ムラの住人によって支配されているわけで、まともな協定など望むべくもない。

 原発をめぐって議論を起こす立場にあったのは、九州最大の電力消費地である福岡市の高島市長だった。しかし、食事をともにしながら指導を受けているといわれる麻生渡前知事あたりから、早期の協定締結を吹き込まれた可能性が高い。

 県や福岡市の関係者によれば、麻生前知事を福岡市の顧問に据えるという話が数ヶ月前から存在するのだという。麻生前知事もまた、旧通産省(現・経済産業省)の出身である。

松尾前会長の存在
 gennpatu 23335.jpg今月23日、朝日新聞の朝刊に、宇宙関連の施設を誘致するために関係者らが脊振山地を視察したことを報じる記事が掲載された。(右が5月23日朝日新聞朝刊の記事)
 「国際リニアコライダー」なる宇宙の起源を解き明かすための実験施設を誘致するのだというが、予定される建設費は約8,000億円。とてつもないビッグプロジェクトなのだ。問題は、計画の中心にいるメンバーで、名前を連ねているのは小川福岡県知事と古川康佐賀県知事、そして松尾新吾前九電会長である。

 松尾氏は、九電会長を退いた後も九州経済連合会会長の職にとどまっており、両知事と接触する機会も多い。小川知事の後援会長である松尾氏は、佐賀県が鳥栖市に建設を進める「九州国際重粒子線がん治療センター」とも深いかかわりを持っている。(参照記事→「福岡県・6億円の補助金は九電の尻拭い?」)
 原発に関係する自治体のトップ2人に絶大な影響力をもつ松尾氏が、またぞろ利権がらみの計画に関わっていることを、記事は伝えたかったらしい。

 いずれにせよ、福岡、佐賀両県のトップと九電の関係が、原発の対応に大きな影響を与えているのは疑う余地がない。
 福岡県と九電の安全協定の裏に、県民の安全を無視した原子力ムラの意思が働いていた可能性が高い。



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