政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
社会

福岡県・6億円の補助金は九電の尻拭い?

がん治療センター救済に松尾前会長の影

2012年5月10日 10:00

 furukawa.jpg佐賀県が重点施策として建設を進める「九州国際重粒子線がん治療センター」に絡み、古川康知事と同センターの計画を支える九州電力との関係を示す興味深い文書が見つかった。
 
 同センターをめぐっては、福岡県(小川洋知事)が、県民への十分な説明もないまま資金難に陥った運営財団に約6億円の補助金を支給することを決定、今年度予算に計上している。県議会関係者も首をかしげる不可解な動きの裏で何があったのか?

 疑問を解くための鍵となるのは、がん治療センター建設計画に当初から関わってきた九電・松尾新吾前会長の存在である。

古川 ― 松尾の密室会談
 gennpatu 008.jpgHUNTERが佐賀県への情報公開請求で入手したのは、古川知事と九電関係者との飲食に関する決済文書である。該当文書として開示されたのは1件だけだったが、それが知事と松尾前会長との会談の記録だった。

 開示された「会食実施伺」(右の文書参照)によれば、平成21年10月25日、古川康知事は福岡市内の「JALリゾート シーホークホテル」(現・ヒルトン福岡シーホーク)内の一室で松尾前会長と会食。目的は《粒子線関係の打合せ》となっており「九州国際重粒子線がん治療センター」に関する話し合いだったと見られる。

 相手先は「九州経済連合会 松尾会長」と明記されており、県側は「古川知事」ひとり。食事代は4,600円だが、室料に1,000円かかっており、密室における2人だけの会談だったことが分かる。

 食事代の多寡はさておき、この時期に福岡市内のホテルの一室で余人を交えず密談したことはじつに興味深い。しかも会談は日曜日である。互いに通常の業務から離れて話し合う必要があったということだ。

 そして、この会談から半年後の平成22年4月28日。九電は「佐賀国際重粒子線がん治療財団」に対し、複数年で39億7,000万円の寄附を行うことを発表する。
 資金面の手当てがついたことで、がん治療センターの建設計画に弾みがついたのは言うまでもないが、九電によるけた外れの寄附は、松尾前会長抜きには実現しなかった。

「SAGA HIMAT(サガ ハイマット)」
 佐賀県の古川康知事は、2期目を目指した平成19年の知事選で、突然「がん治療の先端的施設の誘致」をマニフェストに掲げる。翌平成20年には「九州国際重粒子線がん治療センター事業推進委員会」(委員長・古川知事)を立ち上げ、同治療センター建設のため「SAGA HIMAT(サガ ハイマット)」と名づけたプロジェクトを強力に推進する。
 
 センターの運営主体は「公益財団法人佐賀国際重粒子線がん治療財団」で、建物の建設・管理は、九州電力が中心となって設立された「九州重粒子線施設管理株式会社」(そのほか九電工、久光製薬、佐賀銀行などが出資)が受け持つことになっている。平成25年春のオープンを目指し、九州新幹線「新鳥栖駅」前における同治療センターの建設工事が進んできたが、財団の資金調達計画に狂いが生じた。

寄附の約半分は九電と関連企業が負担
 同計画の初期投資額は約150億円。佐賀県が20億円の補助金を出すほか、民間からの寄附88億5,000万円と出資金などの41億5,000万円でまかなう計画だった。

 「佐賀国際重粒子線がん治療財団」のホームページには「寄付者一覧」として財団へ寄附をした企業や個人が掲載されているが、九電産業株式会社、ニシム電子工業株式会社、株式会社九電オフィスパートナー、西日本技術開発株式会社、九電不動産株式会社、九州通信ネットワーク株式会社、株式会社電気ビルなど、九電の関連企業の社名がズラリと並ぶ。
 九電からの39億7,000万円と同社の関連企業からの寄附で、必要とされる寄附金額の半分以上を占める。つまり、九電抜きでは成り立たない計画だったということだ。
 
 九電側の動きを主導したのが松尾前会長であったことは疑う余地がない。同会長は前述した「九州国際重粒子線がん治療センター事業推進委員会」の準備段階から委員として名を連ね、計画推進の立役者的存在だったからである。

破たんした資金計画
 ところが、福島第一原発の事故を受け事態は一変する。
 定期検査のため営業運転を停止した同社の原発だったが、やらせメール事件などの余波もあって再稼働が頓挫。対応を誤ったため九州財界のトップに君臨してきた同社の威光は地に堕ち、経営基盤を揺るがす状況となってしまった。
 同社による社会的な寄附も見直し対象となっており、がん治療センターへの寄附に赤信号が点っているのだ。

 予定される寄附の先行きが不透明になっているほか、資金調達目標の5分の1近くが不足。そこに浮上したのが隣県福岡による同センターへの約6億円の補助金だった。

福岡県民が九電の尻拭い?
 福岡県による6億円の補助金支出には、県議会関係者からも疑問視する声が少なくない。ある福岡県議は次のように話す。「唐突に出てきた話で驚いた。県はいろいろと理屈を並べているが、どう見ても不自然だろう。小川知事と松尾さんの関係がなければあり得なかった支出だ」。
 別の県議会関係者も憤る。「他県の公費をあてにして県のプロジェクトを進めるなんて聞いたことがない。なんで福岡県民が九電と古川の尻拭いをしなければならないんだ」。
 たしかに、破たんしかかった佐賀県によるプロジェクトの尻拭いを福岡県民に求めるのは筋が通らない。それが九電の事情によるものだったとしたら、なおさらのことである。

小川知事支える松尾前会長の存在
 補助金支給を決めた小川洋福岡県知事の後ろ盾は九電の松尾前会長である。小川氏擁立から今日まで、松尾氏の果した役割は大きく、その存在がなければ小川氏が知事に就任することはなかったと言っても過言ではない。小川知事の支援組織である 「福岡の未来をつくる会」と「小川洋後援会」の代表者は、現在もなお松尾前会長が務めており、県政への影響力を保持したままなのである。
 がんセンター建設プロジェクトに対する福岡県の補助金支出に松尾前会長の関与はなかったのか?そうした疑念を持たれてもおかしくない状況にあることは否定できまい。
 
 佐賀県の古川、福岡県の小川。がんセンター建設計画で両知事を結びつけたのが松尾前会長だったとするなら、もはや老害というしかない。九電の都合で、福岡県の予算を他県のプロジェクトに振り分けるなどということが許されるとは思えないが・・・。



【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲