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玄海町長 じつは唐津市在住

問われる原発立地自治体トップの姿勢

2012年3月26日 08:45

 九州電力玄海原子力発電所の立地自治体である佐賀県玄海町の岸本英雄町長が、ここ数年間、公表されている地元玄海町ではなく、車で数十分かかる唐津市内の賃貸住宅に住んでいたことが分かった。

 岸本町長の実際の住まいについては伏せられており、取材するマスコミ関係者はもちろん、町役場の職員でさえ詳しい状況を把握していなかった。

 緊急時への迅速な対応が求められる自治体の首長としては不適切な実態で、関係者からも批判の声が上がっている。

役場の職員も知らない町長の住まい
 平成22年の玄海町長選挙で2期目を目指していた岸本町長が町選挙管理委員会に届け出た自宅は、玄海町役場から車で1~2分の同町大字長倉の住所だった。
 しかし、岸本町長が届け出た自宅には誰も住んでおらず、大半の役場の職員でさえ詳しい状況を知らされぬまま、今日に至っているという。
 大手メディアの記者たちでさえ、玄海原発再稼動の鍵を握る首長の事実上の住所が把握できないという、異常な事態が続いてきたのも事実だ。

玄海町長は「唐津市在住」だった
 gennpatu 11403.jpgHUNTERの調べによると、岸本町長が住んでいるのは唐津市内にある鉄筋3階建ての賃貸住宅。平成21年に新築された物件で、岸本町長は数年前からこの一室を事実上の自宅にしているという。
 
 唐津市の物件所有者側に取材したところ、「すべて賃貸。借主についてはもちろん、岸本町長が住んでいるかどうかも話せない」としているが、この建物を頻繁に出入りする岸本町長の姿が確認されているほか、同町関係者も事実関係を認める発言をしている。 

無責任町長に厳しい批判
 gennpatu 362.jpgのサムネール画像のサムネール画像町長がどこに住もうが自由なのだが、問題はこの「自宅」から玄海町役場まで車で20分以上かかることだ。

 玄海原発に事故が発生したり大規模な自然災害が起きた場合、役場の指揮を執るのは「町長」に与えられた最大の使命。しかし、車で20分の場所に居ては緊急時に迅速な対応ができるとは思えない。
 
 なにより、唐津市内から玄海町に行くには3つのルートしかなく、"車で20分"というのが最短のコース。それぞれの道路の幅員も狭く、災害が起きて混雑した場合には、すぐに駆けつけることができなくなる可能性が高い。危機管理上、重大な欠陥を抱えていることになる。

 ある玄海町関係者はすっかりあきらめた様子で次のように話す。「町長が町内に住んでいないことは、何年も前から周知の事実になっていた。だけどほとんどの職員はどこが自宅なのか知らされていない。住民票だけ玄海町に置いて、原発から離れた唐津に住むのは卑怯だ。急な事態に駆けつけられないのでは無責任だとも思う。亡くなった町長の父親は佐賀県議会議長まで務めた実力者で、地盤を受け継いだ町長は乳母日傘で育てられた怖いもの知らず。諫言する人もいない。玄海町民のことを真剣に考えているとは思えない」。

 九州の首長経験者からも辛らつな批判が上がっている。「役場の職員が町政トップの居所を知らないというのはまずいでしょうね。緊急時に役場の指揮を執るのは町長の責務。『いつ何時でも電話は通じる』、なんて考えているとしたら"甘い"と言うしかない。どんな理由があるにしろ、行政のトップは覚悟を持って事に当たるべきで、こそこそ自宅を隠すようなマネはするべきではない。玄海町は原発の立地自治体でしょう。こんな無責任な人に原発再稼動の判断を委ねられるんですかね」。

唐津市民からも怒りの声
 gennpatu 11401.jpg一方、岸本町長の事実上の自宅がある唐津市の市民からも怒りの声が聞こえてくる。
 同市は、人口12万6,000人を超える風光明媚な城下町だが、玄海原発に隣接しているにもかかわらず、プルサーマルや再稼動について、同意・不同意の権限さえ与えられてこなかった。(参照記事→「玄海原発に『接する』城下町 唐津市民の悲痛な叫び」) )
 原発マネーで潤い、わが世の春を謳歌してきた玄海町の町長が、じつは原発から離れた唐津市に住んでいたことに同市在住の40代主婦は憤りを隠さない。
「こと原発に関し、私たち唐津市民の声は、一切聞き届けられてこなかった。プルサーマルも再稼動も、古川(康)知事と岸本町長の2人だけに選択権が委ねられ、好き勝手にやってきたじゃないですか。唐津市民は置き去りにされてきたんですよ。その岸本さんが、なぜ平気で唐津に住めるんですか!バカにするなと言いたい。自分だけ安全なところに身を置いて、よく町長が務まりますね」。
(写真は「唐津城」)

問われる町長としての資質
 gennpatu 11410.jpg岸本町長の玄海町の自宅をめぐっては昨年、玄海町長倉にある町長の自宅と同じ敷地内にある後援会事務所2棟がファミリー企業「岸本組」の所有であり、同社から便宜供与を受けた状態にあることや、633.66㎡に及ぶ同敷地が岸本組の創業者である故・岸本八十吉氏の名義になったままであることが判明。政治資金規正法上の問題や、税法上の疑義が生じていることを報じていた(参照記事→「玄海町長に『脱税』疑惑」)。(写真左側が岸本町長の「玄海町の自宅」)。
 
 杜撰な資産管理に、ファミリー企業と組んだ原発マネー独占。この人物に、原発の是非を論じる資格などないということを度々報じてきたが、自身の住居を隠すに至っては、もはや町長としての資格もないということになる。




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