公共工事の入札をめぐって、落札率95%を超える入札が続出。98%、99%台といった高率入札だけでなく、複数の入札で100%という数字さえ出ている福岡県八女市(三田村統之市長)。
同市では平成22年、「100%」という驚異的な落札率で受注業者が決まった工事で、単なる官製談合以上に性質の悪い事態が起きていた。
外形上の事実だけを見れば、役所側と業者が組んだ悪質な猿芝居とも取れるケースであり、問題の工事について2回にわたって詳細を報じる。(写真は八女市役所)
落札率100%
平成22年1月、八女市で「八女市岡山球場整備工事」の入札が実施された。応札したのは10社。いずれも"現在の"八女市に本社がある建設業者である。
八女市は入札の翌月の平成22年2月に旧八女郡黒木町・立花町・矢部村・星野村を編入合併しており、工事発注の起案文書が作成された21年12月の時点では、入札参加条件を「旧八女郡内に本店又は本店から入札に関する権限を委任された支店があること」としていた。
現在の八女市に移行することを想定した、建設業界向けの市長の深謀遠慮だったとする見方もある。
まず、八女市が公表した「入札結果」を示しておきたい。
入札予定価格「32,400,000円」に対し、落札した建設業者の入札額は「32,400,000円」。落札率は100%である。
「32,400,000円」から最も高い入札金額の「33,200,000円」まで80万円差の間に全社の入札金額が集中しているが、落札業者の他は、すべて入札予定価格を上回っていた。
これが何を意味するのかというと、最初に疑われるのは「談合」であり、次が事前に入札予定価格が漏れていた可能性である。
先週、『茶どころ八女市の異常事態 落札率100%、99%がゾロゾロ』で報じたとおり、八女市ではここ数年、95%以上の高い落札率で受注企業が決まる入札が続いており、官製談合の疑いが指摘されている。
八女市の建設コストが他の自治体に比べて極端に低いわけでもなく、八女市側も高い落札率について明快な理由を示すことはできないでいる。
そうしたなか、平成22年発注の「八女市岡山球場整備工事」は、事業予算策定の段階から工事に至る過程で、極めて不適切な経過をたどった。
「八女市岡山球場整備工事」の概要
問題の工事の概要は、市社会教育課スポーツ振興係(当時。現在は「新社会推進部スポーツ振興課スポーツ振興係」)が作成した「発注伺い」に記されているが、発注の理由は次のようになっている(右の文書参照)。
《岡山球場は創設以来野球場として利用している、利用後の整備は行なっていますが、内野部分に小石等が目立つようになってきている、利用者の安全確保のため内野部分の整備をはかり、内外野部分において選手のプレー中の危険防止のため、ラバーフェンスを貼り練習及び、試合時の安全確保をはかるものである》。
教育行政にたずさわる役人が作ったものとは思えないダラダラとしたお粗末な文章ではあるが、要は球場の内野部分に新たな土を入れ、ラバーフェンスを張り替えたいということだ。
注目すべきは、予算額の「36,225,000円」という数字である。
予算額は、市内部で積算した結果であり、八女市では通常「県の歩掛り(ぶがかり)を基に入札予定価格をはじき出してしています」(市建設課)としている。
それでは、岡山球場整備工事の予算を算出した根拠は何か。確認するため情報公開請求で入手した文書が下の「工事内訳書」だった。
八女市に依頼された久留米市の業者が「工事内訳書」に記した"概算設計見積額"は「発注伺い」の予算額「36,225,000円」とピタリと一致している。
つまり八女市は、業者の見積り金額どおりの数字を正式な「予算」として計上していたのである。まともな行政機関とは思えぬ杜撰な予算策定作業だ。
あり得ぬことが、起きた!
八女市役所内部で「発注伺い」が作成されたのが平成21年12月10日。久留米市の業者が「工事内訳書」を提出したのが同年5月26日であることから、市内部で正式な事業についての起案が行なわれる半年以上前から事態が動いていたことになる。
これだけの期間がありながら、事業予算の基になる重要な数字の積算を1社だけに任せたうえ、提出された民間企業の見積り金額をそのまま正式な八女市の予算額として計上したのである。不適切を通り超えて"危険"と言うべきだろう。
見積もりを行なった業者側が、入札資格を持つ建設業者に積算内容などを漏らせば、それだけで公平・公正な入札を否定することにつながるからだ。
「工事内訳書」を作成したのは、本社を東京都品川区に置くスポーツ施設専門の建設業者で、野球場をはじめテニスコート、バレーコート、陸上競技場、サッカーラグビー場、運動公園多目的広場、遊園地、ローラースケート場、弓道場、相撲場、ゲートボール場など各種スポーツ施設の設計から施工までを請け負っている。
八女市の積算依頼を受けたのは、久留米にある同社の営業所だった。
球場整備工事の積算を行なった以上、同社が入札や施工に関与することが問題であることは言うまでもない。通常ならあり得ない。
しかし、そのあり得ないことが現実となる・・・。