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古川佐賀県知事に「マニフェスト大賞」?

~問われるマニフェストの意義~

2011年10月28日 11:20

古川康マニフェスト
 民主党の背信行為で地に堕ちた「マニフェスト」だが、古川康佐賀県知事が「マニフェスト大賞」なるものの優秀賞を受賞したと知って、いよいよ信頼する気がなくなってしまった。

「マニフェスト」とは一体誰のためのものなのだろう。






マニフェスト
 北川正恭・元三重県知事(現・早稲田大学大学院教授。早稲田大学マニフェスト研究所所長)が提唱したことで拡がった「マニフェスト」は、政党が政権の座についた後に実行する施策について、財源や数値目標、実行期限などを明示したもので、「政権公約」とも言われる。

 従来の単なる「公約」を進化させ、公約実現までの詳細な設計図を描かせたという意味においては画期的だったと言えるのだが、「約束」は守られてこそ評価される。

 民主党が平成21年の総選挙で提示したマニフェストが、次から次へと反故にされるに及び、同党の支持率が急落したことは周知のとおりだ(もちろん政権運営の稚拙さも支持率低下の大きな要因だが・・・)。

 いまやマニフェストは、「政治的詐欺の道具」(自民党関係者の評)とまで酷評される始末なのだが、国政分野のマニフェストとは別に「ローカル・マニフェスト」と称される地方自治体の首長選候補や地方議会の会派が掲げる公約も存在する。
 
マニフェスト大賞とは 
 マニフェスト大賞は、地方議員らで組織された「マニフェスト大賞実行委員会 」が主催し、「早稲田大学マニフェスト研究所」・「毎日新聞社」が共催、共同通信社の後援、日本青年会議所の協力で、ローカル・マニフェストを中心に評価、表彰するものだ。
 
 同賞のホームページには、マニフェスト大賞について次のように記されている。
《マニフェスト大賞はこれまで注目を集めることの少なかった地方自治体の首長、議員や地域主権を支える市民の活動実績を募集・表彰し、発表することで、地方政治で地道な活動を積む人々に名誉を与え、更なる政策提言意欲の向上につながることを期待するものです》
 
 地方議会部門と首長部門などに分けて大賞を初めとする各賞が選定されるが、古川康佐賀県知事のマニフェストは、大賞候補でもある首長部門優秀賞5点のなかのひとつに選ばれていた。

 古川知事のマニフェスト「古川康マニフェスト2011 7つの約束 ~『今日より明日を。』~」は、印刷物のほかホームページでも紹介されている。(http://www.power-full.com/pdf/2011mani.pdf

 同賞の審査は、北川正恭審査委員長をはじめ、毎日新聞社論説委員、TBSテレビ解説専門記者室長、女優など13名の方々が行なったとされるが、問題は、なぜ古川佐賀県知事なのか、ということだ。

なぜ古川知事のマニフェストが?
 古川知事のマニフェストに対する北川審査委員長の講評を紹介する。

《これまでの2期8年の取組は一言でいうと安定感抜群である。マニフェストの作りこみ~実行体制の確立や行動計画の作成~検証~改善・・・と確実に公約実現 に向け前進してきた。3期目となる今回も同様に推進しているが特にマニフェストを位置づけた県の総合計画の骨子等について県内市町長との意見交換、県議会の会派や議員との意見交換を行い進行している点に工夫がみられる》

 審査委員各氏は、古川知事と九州電力との親密すぎる関係が「やらせメール」事件を招き、国の原子力行政を揺さぶる事態となっていることを知らないはずはない。  
 
 各賞の応募期間は今年5月23から8月31日までで(1340団体1670件がこれに応じたとされる)、大賞候補にノミネートされたマニフェストは9月に入って選考されているからだ。
 
 渦中の古川知事のマニフェストを、確信犯的に選んだということになる。

選考への不信
 古川知事のマニフェストを見ると、7つの約束の冒頭で『今回の地震・津波による原子力発電所の大事故を踏まえ、国と電気事業者に対し、津波の想定や耐震安全性の基準を初めとする安全対策を徹底的に総点検することを求めます。そして佐賀県では絶対こうした事故を起こさせないという強い決意で万全の対策を行います』と述べている。
 
 gennpatu 202.jpg九電役員らからの献金、選挙応援、知事公舎における同社幹部との密室会談・・・。暴かれた不適切な事実の数々から考えて、知事のこの約束が表面だけのものであることは分かりそうなものだ。

 さらに公約の3番目に記された『最先端がん治療施設(HIMAT)の整備まで、がん対策を総合的に進めます』だが、同施設に対する巨額な寄附が示す九電の関与は、玄海原発のプルサーマルに対する見返りだった可能性が高い(詳細記事参照)。

 北川審査員長が講評のなかで「安定感抜群」とした古川知事の2期8年は、疑惑まみれの県政が進められてきた期間でもあるのだ。
 
 なにより古川知事の一連の言動が、佐賀県民だけでなく、多くの国民に疑念を抱かせる結果を招いたばかりか、原子力行政に重大な影響を与えている。
 原発立地自治体と電力会社の関係を見直すきっかけを作ったのも知事であり、その責任は謝罪で済むほど軽いものではないはずだ。

 「やらせメール」をめぐる自身の九電幹部への発言を認めながら、「趣旨が違う」、「ニュアンスが違う」などと身勝手な言い訳で逃げをうつ姿勢は、言語道断。
 
 マニフェストの内容が評価される前に、知事の政治家としての資格、身の処し方が批判される事態となっており、こうした人物の公約を評価し、表彰するなど正気の沙汰とは思えない。
 北川氏をはじめとするマニフェスト大賞関係者は、市民感覚とは程遠い選考を行なったということになりはしないだろうか。

 マニフェストは誰のために存在するのか、大賞選考に関わった方々は、もう一度古川知事の"実績"を検証すべきである。
 
 マニフェストをめぐっては、一定の評価が存在する一方、「細かなことにばかりこだわる風潮に縛られ、大きな方向性を示す政治のあり方が見失われる原因になっているのではないか」(市長経験者)、「マニフェストのあり方を考え直すべき時期がきている。実行されないものの代名詞となったマニフェストには、どこかに欠陥があるはず」(町長経験者)といった声も上がっている。

 マニフェストは、政治家のための道具ではないはずだが・・・。



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