民主党の中には市民感覚とズレている議員が少なくない。とくに、地方議員にそうした傾向が強いのだが、これは特定労組の丸抱えでバッジをつけることが可能な市町村の選挙区で顕著となる。
カネ集めから集票に至るまで、議員になるためのすべての過程で世話になれば、常に出身労組の方ばかりを向いているしかないのだろうが、必然的に市民の声より労組の声を大事にするようになる。
福岡市議会の民主党系会派にも、特定労組の組織内候補が何人も在籍しているが、度を過ぎた丸抱えの実態を見ると、誰のための議席なのか疑いたくもなる。
1枚2万円のパー券を564人が買った?
当節、政治資金パーティの会費が2万円といえば、国会議員でも売りさばくのに苦労するという。
ましてや新人の市議会議員候補予定者が、2万円のパー券を買わせるなどということは至難の業というしかない。
統一地方選挙を3か月後に控えた平成19年1月。福岡市内のホテルである政治資金パーティが開催された。
主催は「田中丈太郎を支援する会」(以下、「支援する会」)という政治団体。代表者はJR九州労組の委員長(当時)、会計責任者は同労組の副委員長だ。同会の主たる事務所も福岡市博多区にある「JR九州労組内」となっており、「支援する会」はJR労組と一体であると見られる。
支援する会が福岡県選挙管理委員会に提出した平成19年分の政治資金収支報告書によれば、問題の政治資金パーティの収入額は1,128万円。対価の支払をした物の数は「564」と記載されており、パーティ券が1枚2万円だったことを裏付けている。
つまり564人もの人が2万円のパーティ券を買ったことになるが、同団体が支援していたのは田中丈太郎氏(「民主・市民クラブ」所属。当選2回。博多区選出)という、新人の候補予定者だった。
ちなみに、田中市議をめぐっては今年7月、博多伝統の祭りである「博多祇園山笠」に関して1万円の寄附を行なっていたことが判明。公職選挙法違反の疑いが生じていた(詳細)。
平成19年の政治資金パーティ当時、田中市議はJR九州の社員から同年4月の福岡市議選を目指す立場だったが、JR九州本社も労組と足並みを揃え、支援に力を入れていたとされる。
「初当選時、田中市会議員への支援を頼んできたのはJR九州の役員クラスだったと思う。労組ではない。会社として(田中市議の)売り込みに一生懸命だったな」(ある企業経営者)。
労組関係者からも次のような話が聞こえてくる。「(田中氏は)JR九州の組織内候補だが、九州新幹線の全線開通、それにともなう博多駅前の開発をにらみ、会社としても市議をひとり(福岡市議会に)送り込みたかった。もちろん会社のため。市民のためなんて発想はないよ」。
労使一体とも思える戦いには多額の資金が必要だったようだが、市議クラスでは異例ともいえる1,000万円を超える政治資金を集めたのだから、JR九州労組の力はあなどれない。
問題はパーティ券の売りさばき先だ。
大半は企業が購入
同労組の関係者は「2万円のパー券なんて組合の人間は買わない。労務の提供や集票といった活動に加え、カネまで差し出す必要はないだろう。パー券は、組合か会社(JR九州)がまとめ買いしたのか、あるいは付き合いのある企業に買ってもらうしかなかったはず。ばらばらに500人以上の人間に売り歩くことなどできなかった」と内幕を語る。
真相を聞くためJR九州労組を訪れたところ、対応した同労組の副委員長は、「主体はうち(JR九州労組)ですから」とした上で、パー券はJR九州の関連企業や付き合いのある企業に「お願いして買ってもらった」と言う。
田中氏自身も団体や個人にパー券を買ってもらったというが、その数は少なかったとする関係者の指摘を伝えると、「まあ、新人ですからね・・・。確かに企業にお願いするしかなかったですからね」。
労組やJR九州本社のまとめ買いは否定するものの、大半のパー券を企業を中心に売りさばいていたことを明言した形だ。
同一企業が何枚かまとめて買ったケースも否定できず、564人の人が2万円のパーティ券を買ったとする収支報告書の記載は、厳密に言うと間違いということになる。
こうして集められた1,120万円は、事務所費などの経常経費に約360万円、政策チラシなどの印刷物に約240万円が費消されたほか、田中市議本人に300万円が寄附され、そっくり"選挙運動費用"となっていた。何もかも労組の丸抱えだったということだ。
JR九州労組が「主体」(前述の副委員長の表現)となる同様の政治資金パーティは、今年春の統一地方選前にも行なわれており、2期目を迎えた田中市議は、同労組の組織内候補としていまだに丸抱えされていると見られる。
真相、語らぬまま
ところで、平成19年の政治資金パーティについては、疑問が残っている。
労組側は、1枚2万円のパーティ券を、主としてJR九州の関連企業や付き合いのある会社に買ってもらったと言うが、収支報告書への記載が義務付けられた20万円以上の購入者(社)がいたのではないか、という点だ。
JR九州労組の副委員長は、過去のデータを調べてパーティ券にまつわる疑問に回答するとしていたが、その後まったく連絡が取れない状況が1ヶ月前後続いている。
都合の悪いことには答えないということだろうか。
今年、九州新幹線の全線開業という歴史的な節目を迎えたJR九州だが、労組の活動は全開とはいかないようだ。
余談ながら、JR九州労組への取材時、「支援する会」の代表を務めていた同労組の委員長に話を聞きたいと申し入れたが、今年の春で委員長を退任しているという。
調べてみると、JR九州関連会社の社長に就任する予定であることがわかった。やはり労使一体の会社なのかもしれない。