福岡市が、市内東区の人工島(アイランドシティ)に建設を予定する「福岡市新青果市場」。計画では、市内の西区、博多区、東区に分かれている青果市場を統合し、人工島に新たな施設を建設することになっているが、用地取得費約170億円、整備費約200億円(ともに『新青果市場整備事業実施計画』より)をかける大事業だ。
移転予定地を決める過程では、できもしない都市高速道路の早期延伸を約束するなど、いわば市場関係者を騙した形で強引に人工島移転を決めており、不透明な事業の進め方には疑惑が付きまとってきた。
今年8月に行なわれた「基本設計」の業者選定をめぐっては、所管課である市農林水産局新青果市場担当が選定方法を決め、一般競争入札を実施。契約に関する一連の事務も同担当が行なっていたが、HUNTERの取材でこの過程が市の規定に違反していたことが判明している(詳細)。
市側は、規定にない事務処理であったことを認めながら、入札そのものには問題なしとの都合のいい見解を示しているが、福岡市に情報公開請求して入手した文書からは、杜撰な行政の実態と新たな疑問点が浮かび上がる。
入札そのものが規定違反
市はこれまで、公共工事の「基本設計」に関する入札事務を、事業を担当する部署(以下、原課)が行なうことを認めてきた。
しかし、これまで報じてきたように、市の「事務分掌条例」や「福岡市契約及び検査に係る事務分掌の特例に関する規則」に従えば、設計で10万円以上の予定価格となる契約事務は、すべて財政局契約課が行なわなければならない。
市が拠りどころとしてきた「基本設計の入札事務は原課が行なう」とする例外規定は、明文化されていなかったことが確認されており、8月の新青果市場基本設計における入札事務は、明らかな規定違反だったということになる。
実施設計の前段階に過ぎないとはいえ「基本設計」の入札予定価格が6,000万円を超えるものだった(入札後の契約金額は、税込みで5,097万5,400円)ことを考えると、「取り組みに甘さがあった」(市職員)では済まされない問題だろう。
形式だけの方針決定
前稿では、新青果市場建設事業の成否を決定付けるとも考えられる「基本設計」の業者選定で、提案内容を吟味できるプロポーザルを排除し、「一般競争入札」を採用した理由はどこにあったのかを検証したが、業者選定方式の検討過程を記した文書(下の2枚を参照)からは決定過程の問題点が浮き彫りとなる。
設計業者の選定方式について、その方針決定の過程を記した「『福岡市新青果市場新築工事基本設計業務委託』の設計者選定方式の方針について」 を見ると、冒頭の『1 前提条件と整理事項』 の③に次のような記載がある。
《基本設計の設計者選定方式の決定、契約等については、原則、原課(新青果市場担当)で行う必要があること》。
この前提条件そのものに、明文化された根拠が存在していないことは述べてきたとおりで、基本設計の入札を《原則、原課(新青果市場担当)で行う必要》などなかったことになる。
身勝手で杜撰な方針決定のあり方には、改めて驚くばかりだ。
問題は、この記述の下にある《参考:「大型建築物等の基本設計業務を委託する場合の事務処理要綱について(財調第412号 平成3年10月1日 助役通知)」》。
あたかもこの文書が「基本設計は原課」とする市側の根拠とも読み取れるため、同文書を開示請求した。別紙も含めて計6枚の1枚目が右の文書である。
赤いアンダーラインのとおり、《基本設計は当該建設業務を所管する局(以下「現局」という。)において、実施設計は財政局(調達課)において、それぞれ事務処理を行っているところであるが・・・》とあるだけで、ここでも根拠となる条例や規程は示されていない。
(注:文中の「調達課」は現在の「契約課」)
こうしたいい加減な通知を巨額な公共事業の方針決定の前提条件にしたことは、手続きや公文書そのものが形式だけのものだったということを証明している。
農林水産局が違法とも言える方針決定を行なったさらなる証左であると同時に、"慣例"を絶対視するお役所仕事の典型でもある。
「広く市民に開放された施設ではない」・・・?
前掲した「『福岡市新青果市場新築工事基本設計業務委託』の設計者選定方式の方針について」の2枚目には、業者選定を原課である新青果市場担当が行なう理由が記されている。
そこに見えるのは、新青果市場に対する市のお粗末な設計思想と、業務を農林水産局内部だけで進めようとする思惑だ。
平成3年の「通知」は、大型建築物の基本設計を委託する場合、市独自に定めたガイドラインに該当するものは「設計業務委託方式検討委員会」を設置するよう命じたものである。
委員会事務局は財政局財政部調達課(現・契約課)に置くとしており、この通知に従うならば、新青果市場の基本設計に関しては、「設計業務委託方式検討委員会」を設置すべきだった可能性もある。
農林水産局による業者選定方式の方針決定にあたっては、まず新青果市場の位置づけでガイドラインに該当するかどうかを検討しているのだが、検討の結果、《当該要領には基づかない》と結論付けている。
理由となったのは《建物自体は複雑なものではなく、また市場関係者のみを対象としており、広く市民に開放された施設ではない》という身勝手な解釈だ。
もちろん、新市場を「タウンシンボル」と見なすことも否定している。
背景にあるのは、市が数百億をかけて建設する新市場を、閉鎖的な事業として考えていること。市民に親しまれる施設にしようという思考は、はなから皆無なのだ。
たしかに新市場は青果を扱う物流の拠点施設だが、市民の「食」への関心を喚起させたり、観光に活かそうとする方向性はまったく感じられない。
ある福岡市関係者は次のように話す。「築地(東京都)をはじめ全国の多くの市場では、市民や観光客を呼び込む機能を果しているところが少なくない。せっかく巨額な公費を投入するのだから、もっと新青果市場を有効利用することを考えるべきだった。新市場について、閉鎖的に事業を行なうのではなく、市民のアイディアをすくい上げ、関心を持ってもらう努力をしてもよかったはずだ。アイランドシティの土地を市が購入する名目のために青果市場を利用しただけではないのか。そう思われてもおかしくない経過をたどってきたのは事実だろう」。
たしかに、巨額な公共事業を市民全体の財産として活用し、人工島の目玉のひとつにしようという考え方もあったはずだが、こうした思考法は現在の福岡市にはない。
「はじめに人工島ありき」が本音であり、それを隠して計画を進めるため、市場関係者を騙したり、市民の声を計画に反映させることを避けてきただけではないのだろうか。
規定や幅広い議論を無視する姿勢は拙速としか言いようがないが、「新青果市場」建設を急ぐあまり、この計画には他にも様々な問題点が残されたままとなっている。
次稿では、新青果市場計画の問題点を検証し、市が建設計画を急ぐ理由を探る。