3日、福岡市の杜撰な行政管理の実態がHUNTERの取材から明らかとなった。
同市が、正式な規定をともなわない不適切な契約事務を繰り返していたことが分かったもので、違法とも言える状態が、少なくとも昭和60年以来26年間も放置されていた。
公共事業の「基本設計」に関する入札や契約事務を、定められた財政局契約課ではなく、事業を直接的に担当する部署(以下、原課)に行なわせてきたというが、そうした例外規定は、市の条例や規則には一切明記されていない(記事参照)。
今年8月の「新青果市場」(人工島に建設を予定)の基本設計業者の選定も含め、市の手前勝手な解釈に従って実施された入札や契約が、場合によってではあるが"無効"と見なされる可能性も生じる。
(写真は福岡市役所)
規定無視の暴走
福岡市の規定では、予定価格が10万円以上となる設計業務に関する入札事務は、財政局契約課が所掌することとなっているが、市内部の"取り決め"で「基本設計」の入札・契約事務に限って、例外的に原課に行なわせていた。
しかし、HUNTERの取材で、この例外規定を明文化しないまま市内部の勝手な解釈で原課による基本設計の入札や契約事務が繰り返されていたことが判明。
昭和60年以降、市が行なってきた行政事務には根拠となる条例や規則が存在しなかったことになり、不適切な予算執行が横行していた可能性が浮上した。
市は、自らの規定を無視して暴走してきたに等しい。
根拠規定なかった「基本設計は原課」
福岡市役所が行なう行政事務に関しては、次の条例および規則で市各部署の所掌事項を規定している。
・「福岡市事務分掌条例」(昭和33年施行)
・「福岡市事務分掌規則」(昭和33年施行の同規則を全面的に改正。平成17年施行)
・「福岡市契約及び検査に係る事務分掌の特例に関する規則」(平成13年施行)
分掌条例と分掌規則によって、契約に関する事務は財政局契約課が行なうと定めたうえで、「福岡市契約及び検査に係る事務分掌の特例に関する規則」で、特例を認めている。
本来契約課が行なうべき入札や契約といった事務を、一定金額を境に契約課と原課の所掌事務に区別し、原課に特例を認めたものだ。
「福岡市契約及び検査に係る事務分掌の特例に関する規則」が定めた、契約課が取り扱うべき事務は次の通りだ。
・予定価格が250万円を超える各種工事等の請負契約事務。
・地質調査,測量、樹木等保育管理、設計、防蟻及び看板標識作製に係る委託契約の予定価格が10万円を超えるもの。
一方、原課については、その所掌事務を、予定価格が250万円以下の各種工事等の請負契約事務と、地質調査、測量、樹木等保育管理、設計、防蟻及び看板標識作製にかかる委託契約の予定価格が10万円以下のものに限定している。
つまり、委託契約の予定金額が6,000万円を超えていた「新青果市場」の基本設計の入札は、契約課が行なうべきものだったということになる。
市側は「基本設計は原課で行なって良いことになっている」としていたが、これは市内部で昭和60年(市側の説明)に話し合われたというだけで、規則として明文化はされていない。
市内部の勝手な解釈で、案件ごとに事務の取り扱い部署を変えることはできないはずだ。
違法性
ある市三役OBは、次のように話す。「基本設計の入札を原課でやることに、何の疑いもなかった。そのことに明文化した規定がなかったとすれば、驚きであると同時に極めて遺憾。至急、規定を作って明文化する必要がある。裏づけのない行政の事務執行など考えられない」。
また、他の市関係者は「杜撰な行政運営の実態が明らかになったということ。原課で行なってきた数々の入札事務に裏づけがなく、本来の規定(予定価格が10万円以上の設計業務に関する入札事務は財政局契約課が所掌する)に背くものだったとしたら、契約自体が違法だったことになりかねない。大変な問題だ」と顔を曇らせる。
前述した「新青果市場」の基本設計契約について、市民が「不適切な支出」として裁判に訴えた場合、市側は極めて不利な立場に追い込まれる可能性が否定できない。
ちなみに、地方自治法は、地方公共団体の支出負担行為について《普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為(これを支出負担行為という)は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない》と規定している。
議会の責任
市内部に蔓延する"なあなあ"の体質が招いた異常事態に対して、早急な対応が迫られることは言うまでもない。
ただ、ここで問題なのは、契約金額が5,000万円を超える「新青果市場」の基本設計について、入札の経緯を報告された市議会がチェックできなかったことだ。
なぜ、これほど大きな金額の契約を、財政局契約課ではなく原課である青果市場担当が入札を行なったのか。
疑問に思わなかったとしたら"議員失格"であろうし、「基本設計は原課で入札」とする市側の見解を真に受けて、根拠となる規定の確認を怠ってきたとすれば、これまたお粗末な議会だったと言うほかない。
長年にわたって杜撰な事務処理が横行していた事実は重く、市側の瑕疵を見抜けなかった議会の責任も問われる事態だ。