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10条通報への疑問

届かぬ「FAX」、保安院でも

2011年9月13日 10:50

 原発事故発生にともなう迅速な住民避難のため、放射能拡散予測を行なう「SPEEDI」システムを所管する文部科学省に、原発の事故を示すいわゆる「10条通報」がどこからも伝えられていなかったことが明らかとなった(詳細)。
 事故当日に東電側から10条通報を受けた経済産業省は文科省へは連絡しておらず、連絡義務があった東電が発信したと主張するFAXは、文科省に届いていなかったというお粗末な事態だ。
 それでは混乱のなか、肝心の経済産業省への「10条通報」の第一報に問題はなかったのだろうか?
 確認したところ、大きな疑問が浮上した。

杜撰な連絡体制が招いた被曝拡大
 HUNTERは、福島第一の事故に際し、SPEEDIが「緊急時モード」に切り替えられた時刻に注目しつづけてきた。
 東電から原発事故を示す「10条通報」が発せられたとされる3月11日15時42分から、SPEEDIの緊急時モードへの切り替えまでに1時間。これでは、迅速な住民避難の役に立つとは思えないからだ。
 案の定、東電から文科省への連絡が届かなかったという致命的なミスが生じていたことが明らかとなったが、昨日報じた内容について事実関係と問題点を整理しておきたい。

・経済産業省原子力安全・保安院からはSPEEDIを所管する文科省に、10条通報の事実が伝えられていなかった。
・国のマニュアルで定められた東京電力から文科省への特定事象発生の通報(10条通報)はFAXによるものだったが、文科省は「受け取っていない」としているのに対し、東電側は「一斉送信したが、回線の混乱などで届いたかどうかは確認できない」と釈明。互いの言い分が食い違ったままとなっている。
・結果的に国が定めた「原子力防災マニュアル」は守られず、文科省の初動に1時間の遅れを招いた。
・SPEEDIの緊急時モードへの切り替えが遅れたことで、得られたはずの放射能拡散予測データが不十分となったばかりか、住民避難の役に立てず、被曝の拡大を招いた可能性が高い。

 迅速な住民避難という原発事故時の安全対策に不備があったことは歴然としており、杜撰なマニュアルを策定した国の防災体制への姿勢に甘さがあったことは否めない。

第一報への疑問
 gennpatu 366.jpgSPEEDIについての問題点を検証するなか、浮かび上がってきたのは経済産業省原子力安全・保安院が6月24日に公表した「東京電力株式会社から送付された原子力災害対策特別措置法第10条に基づく通報資料」のうちの第一報とされる文書への疑問である。

 政府はこれまで、原子力災害特別措置法第10条の規定に従い、福島第一原発の所長が経済産業大臣などに対し「全交流電源喪失」という特定事象の発生を伝える「10条通報」を行なったのは3月11日の15時42分としてきた。
 しかし、問題の第一報をよく見ると、文書の左上部にFAXの通信記録が残っており、発信時刻は「16時00分」となっている(参照)。
 第一報は本当に「15時42分」だったのか?「16時00分」は何を意味するのか?12日、改めて保安院と東電に疑問をぶつけた。

東京電力 ― 「記録がない」
 東電広報によると、「10条通報」の第一報は、たしかに3月11日の15時42分だという。しかし、残された「16時00分」との通信記録については、明確な回答が出てこない。
 公表された第一報の時間と通信記録の時間が違うことについては、理由がわからないというのだ。
 さらに「16時00分」の意味について尋ねると、第一報の記録自体を保有していないと言い出した。あきれてものが言えない。
 回答がまじめに調べた結果だとすれば、東電の管理体制は原発事業者としての体を成していないということにほかならない。

保安院 ―「最初のFAXが着かなかった」
 同様の確認取材に対する原子力安全・保安院側の回答は、初動への疑問をさらに膨らませるものだった。
 
 保安院側は、通信記録の「16時00分」はたしかにFAXによる第一報の記録だが、「10条通報」自体は間違いなく15時42分に受けたと断言。
 FAX受信時刻が「16時00分」となったのは、これより先に東電が発信したFAXが、混線のために届かなかったからだと説明する。
 それでは、どうやって15時42分に「10条通報」を受けたのか確認すると、口頭で受けたのだと言う。つまり電話連絡である。
 対応した保安院職員の言葉の端々からは、文部科学省同様、初動時の正確な記録が残っていないことがうかがえる。
 
 第一報は本当に15時42分だったのか?この疑惑を払拭する説明は保安院からも東電からも得ることはできなかった。

10条通報に関する公式見解
 今年6月にIAEA閣僚会議に対して提出された政府の報告書には、「事故発生後の緊急時対応」として次のように明記されている。 

《3月11日15時42分、原子力発電所の安全規制を担当する経済産業省は、原子力事業者からの原子力災害特別措置法(平成11年法律第156号。以下、「原災法」という。)第10条通報(運転中の全交流電源喪失)を受け、原子力災害警戒本部及び同現地警戒本部を設置した。
 3月11日16時00分、原子力安全委員会は、臨時会議を開催し、緊急助言組織の立上げを決定した》(参照)。

 一方、東電が8月10日に公表した「東北地方太平洋沖地震発生当初の福島第一原子力発電所および福島第二原子力発電所における対応状況について」によれば、10条通報までの動きは次のように記されている。
15:27 津波第一波到達。
15:35 津波第二波到達。
15:37 全交流電源喪失。
15:42 原子力災害対策特別措置法(以下、「原災法」)第10条第1項の規定に基づ
      く特定事象(全交流電源喪失)が発生したと判断、官公庁に通報。
       
 ここで通報のため作成され、FAX送信されたのが第一報として公表された文書だったことになる。
       
 東電も国も、15時42分を「10条通報」の発信・受信時刻として公表しているのだが、それを証明するものはないという状況だ。

なお残る疑問 変わらぬ隠蔽体質
 原災法の規定は曖昧で、特定事象の発生を確認した場合の通報については「直ちに」行なうとしているだけだ。
 東電も保安院側も、この「直ちに」に固執して、全交流電源喪失によって10条通報に該当すると判断した15時42分を、通報した時刻にしてしまったのではないか。
 15時35分に津波第二波が到達し、同37分には全交流電源を喪失するという混乱のなか、5分後に10条通報に該当する特定事象の発生を判断したことになっている。
 判断と同時に文書を作成し、FAXを送り、電話をかけたということになるが、一連の流れに不自然さは否めない。10条通報をめぐる謎は残されたままということだ。
 
 専用回線があったと思われるが、文科省につづいて保安院へのFAX送信も不完全だったことがわかった以上、非常時における連絡体制に脆さがあったことも明白だ。
 しかし、10条通報に関する詳細はこれまで一度も公表されてこなかった。都合の悪いところは隠すという体質が続いているということになる。

 早くから囁かれてきた初動のミスはまだまだ存在する可能性が高い。真相を隠そうとする国や東電の姿勢が変わらない限り、原発再稼動を許してはいけない。



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