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アベノウイルス 

2020年3月 2日 08:25

20200229kaiken01s---2.jpg 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、29日午後6時から行われた安倍晋三首相の記者会見は、嘘や議論のすり替えで7年もの長期政権を実現させた人らしい内容だった。“謝らない”“質問に答えない”“都合のいい話だけに長広舌をふるう”――これまで通り、具体策のない軽い言葉で国民を欺こうとする安倍の姿に、怒りが込み上げてきた。
 水際対策に失敗し、すべての施策が後手に回ってきたのは周知の通り。しかし首相は一切謝らず、記者から反省すべき点を聞かれても正面から答えることを避けた。これを批判できない政府与党は、悪いウイルスに汚染されているとしか思えない。命名するとすれば、「アベノウイルス」である。(写真は官邸HPより)

■新型コロナ会見―なかった反省と謝罪
 29日に行われた記者会見で安倍首相は、約20分間にわたって現状の説明と今後の方針について語った。(以下、官邸のホームページより。太字はHUNTER編集部)

 新型コロナウイルスが世界全体に広がりつつあります。中国での感染の広がりに続き、韓国やイタリアなどでも感染者が急増しています。我が国では、そこまでの拡大傾向にはないものの、連日、感染者が確認される状況です。  そして、現状においては、感染の拡大のスピードを抑制することは可能である。これが、今週発表された専門家の皆さんの見解であります。そのためには、これから1、2週間が、急速な拡大に進むか、終息できるかの瀬戸際となる。こうした専門家の皆さんの意見を踏まえれば、今からの2週間程度、国内の感染拡大を防止するため、あらゆる手を尽くすべきである。そのように判断いたしました。

 集団による感染をいかに防ぐかが極めて重要です。大規模感染のリスクを回避するため、多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベントについては、中止、延期又は規模縮小などの対応を要請いたします。スポーツジムやビュッフェスタイルの会食で感染の拡大が見られる事例がありました。換気が悪く、密集した場所や不特定多数の人が接触するおそれが高い場所、形態での活動も当面控えていただくとともに、事業者の方々には、感染防止のための十分な措置を求めたいと思います。

 そして、全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週月曜日から春休みに入るまで、臨時休業を行うよう要請いたしました。子供たちにとって3月は学年の最後、卒業前、進学前の大切な時期です。学年を共に過ごした友達との思い出をつくるこの時期に、学校を休みとする措置を講じるのは断腸の思いです。卒業式については、感染防止のための措置を講じ、必要最小限の人数に限って開催するなど、万全の対応の下、実施していただきたいと考えています。

 学校が休みとなることで、親御さんには御負担をおかけいたします。とりわけ、小さなお子さんをお持ちの御家庭の皆さんには、本当に大変な御負担をおかけすることとなります。それでもなお、何よりも子供たちの健康、安全を第一に、多くの子供たちや教職員が日常的に長時間集まる、そして、同じ空間を共にすることによる感染リスクに備えなければならない。どうか御理解をいただきますようにお願いいたします

 万が一にも、学校において子供たちへの集団感染のような事態を起こしてはならない。そうした思いの下に、今回の急な対応に全力を尽くしてくださっている自治体や教育現場の皆さんにも感謝申し上げます。

 企業の皆さんには、お子さんのおられる従業員の方々への配慮をお願いいたします。特に、日頃から人手不足に直面している中小・小規模事業者の皆さん、医療関係者、介護や保育の関係者の皆さんなどに大変な負担をおかけいたします。

 その軽減に向けて、小さいお子さんをお預かりできるよう、できる限りの対策を講じます。学童保育において、春休みと同様の対応を採ることなど、各自治体における様々な取組を国として全力で支援する考えです。保護者の皆さんの休職に伴う所得の減少にも、新しい助成金制度を創設することで、正規・非正規を問わず、しっかりと手当てしてまいります。

 私が決断した以上、私の責任において、様々な課題に万全の対応を採る決意であります。2,700億円を超える今年度予備費を活用し、第2弾となる緊急対応策を今後10日程度のうちに速やかに取りまとめます。 

 新型コロナウイルスの感染が世界的な広がりを見せる中で、海外からの観光客の減少に加え、工場の製造ラインを維持できるのかといった不安も拡大しています。業種に限ることなく雇用調整助成金を活用し、特例的に1月まで遡って支援を実施します。
 
 中小・小規模事業者の皆さんが直面する課題について、その声を直接伺う仕組みをつくり、強力な資金繰り支援を始め、地域経済に与える影響にしっかりと対策を講じます。
 
 そして、この機に、感染拡大防止の観点からも、テレワークなど、IT技術を活用しながら、社会のあらゆる分野で遠隔対応を進め、未来を先取りする変革を一気に進めます

 各地の主要な株式市場において、軒並み株価が大きく下落するなど、世界経済の動向も十分に注視しながら、そのインパクトに見合うだけの必要かつ十分な経済財政政策を行ってまいります。

 これまでに国内で新型コロナウイルス感染症を発症し、お亡くなりになった方は5名です。ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の方からも6名がお亡くなりになられました。心より御冥福をお祈りするとともに、御遺族の皆様にお悔やみを申し上げます。

 多くの国民の皆さんが、今回のウイルスについて様々な不安をお持ちであると思います。ただ、クルーズ船も含め、これまで日本国内で陽性と判定された方々のうち140名を超える皆さんが既に回復し、退院しておられます。このウイルスに感染しても、多くは軽症であるとともに、治癒する例も多い。これが専門家の皆さんの評価です。

 その上で、季節性インフルエンザよりも入院期間が長くなる事例が報告されており、特に高齢者、基礎疾患を有する方については、重症化するリスクが高いと考えられています。そのため、政府としては、感染拡大の防止に引き続き全力を挙げる一方、重症者の発生を最小限に食い止めるべく、盤石な検査体制、医療体制を構築していく考えであります。

 PCR検査については、国立感染症研究所における対応に加え、先月来、全国にある地方衛生研究所、民間の検査機関、大学に対して試薬などの検査キットを積極的に提供し、その能力構築に努めてまいりました。その結果、現時点で、全国で1日当たり4,000件を超える検査能力があります。現在も、地方にある民間検査機関、大学に試薬などを提供し、一層の検査能力の拡大に努めてまいります。

 PCR検査については、検査がしたくても保健所で断られ、やってもらえないという御指摘をたくさん頂いております。保健所は都道府県や政令市の組織ですが、政府として、医師の判断において感染を疑う場合には検査を行うよう、これまでも繰り返し依頼を行ってきたところです。また、その地域の検査能力に限界があるために断られるといったことが断じてないように、広域融通によって必要な検査が各地域で確実に実施できるよう、国において仲介を行います。

 来週中に、PCR検査に医療保険を適用いたします。これにより、保健所を経由することなく民間の検査機関に、直接、検査依頼を行うことが可能となります。民間検査機関の検査能力も大幅に増強されます。

 加えて、現在、検査の中で2、3時間を要しているウイルスを検出するための作業を15分程度に短縮できる新しい簡易検査機器の開発を進めています。この1か月間、試薬の開発、精度向上などに取り組んできたところであり、3月中の利用開始を目指します。

 こうした取組を総動員することで、かかりつけ医など、身近にいるお医者さんが必要と考える場合には、すべての患者の皆さんがPCR検査を受けることができる十分な検査能力を確保いたします

 重症化予防の観点からは、治療のために必要な病床の確保も重要です。全国で2,000を超える感染症病床がありますが、緊急時には感染症指定医療機関の病床を最大限動員し、5,000床を超える病床を確保いたします。病院への支援を行い、現時点で空いているベッドをすべて維持してもらうことで、患者が大幅に増加する事態にも万全の医療提供体制を整えます。

 今回のウイルスには、現時点でインフルエンザのように有効性が確認された治療薬がない。この点が世界的な不安の最大の原因となっています。そのため、現在、我が国では、いわゆるアビガンを含む3つの薬について、新型コロナウイルスに有効性があるかどうかを見極めるため、観察研究としての患者への投与を既にスタートしています。いずれも新型コロナウイルスを用いた基礎研究では既に一定の有効性が認められていることから、実際の患者の皆さんにその同意を得て使用することで治療薬の早期開発につなげてまいります。

 危機にあっては、常に最悪の事態を想定し、あらかじめ備えることが重要です。北海道では鈴木知事が緊急事態宣言を発出し、この週末、外出を控えるよう、道民への呼びかけを行っています。国も雇用調整助成金の特例を設け、非正規の方も含めて、休業となる方々への支援をしっかりと行ってまいります。必要となる物資の提供など、あらゆる協力を惜しまない考えであります。

 更に今後、一定の地域において急激な感染の拡大などが見られた場合にどのような措置を採るか。その具体化はもはや待ったなしです。既に政府として基本方針をお示ししているところでありますが、あらゆる可能性を想定し、国民生活への影響を最小とするために、立法措置を早急に進めてまいります。今後とも国民の健康と安全を守ることを何よりも最優先に、必要な措置は躊躇(ちゅうちょ)なく実施する考えであります。

 今回のウイルスについては、いまだ未知の部分がたくさんあります。よく見えない、よく分からない敵との闘いは容易なものではありません。率直に申し上げて、政府の力だけでこの闘いに勝利を収めることはできません。最終的な終息に向けては、医療機関、御家庭、企業、自治体を始め、一人一人の国民の皆さんの御理解と御協力が欠かせません。

 皆さんの暮らしに直結する決断には、当然、様々な御意見、御批判が伴います。内閣総理大臣として、そうした声に真摯に耳を傾けるべきは当然です。しかし、それでもなお内閣総理大臣として国民の命と暮らしを守る。その大きな責任を果たすため、これからも先頭に立って、為すべきことは決断していく。その決意であります。

 終息への道のりは予断を許しません。険しく厳しい闘いが続いていくそのことも覚悟しなければなりません。本当に大変な御苦労を国民の皆様にはおかけしますが、改めてお一人お一人の御協力を、深く深くお願いする次第であります。しかし、私たちは必ず乗り越えることができる。そう確信しています。

 最後となりましたが、ダイヤモンド・プリンセス号の現場対応を含め、先月以来、ウイルスとの闘いの最前線で頑張ってくださっている医療関係者の皆さんを始め、すべての関係者の皆さんの御努力に心より敬意を表するとともに、これからもこの闘いに御協力を賜りますようにお願いを申し上げる次第であります。

 安倍首相が全国の小中学校、高校、特別支援学校に対し、3月2日から一斉休校するよう要請したことが、国内に無用の混乱をもたらした。準備期間なしの唐突な「命令」に、自宅で我が子を見守るしかなくなる共働きの家庭は困惑し、卒業式を控えている多くの子供たちは、落胆に包まれている。

 会見中、何度も「専門家の皆さん」という言葉が出てきた。判断根拠を「専門家の皆さんの意見」にして、自身の責任を言葉だけのものにとどめる手法だ。「責任は私にある」は安倍の常套文句だが、実際に問題が起きて首相が責任をとったことは、ただの一度もない。“口だけ”、なのだ。

 「これから1、2週間」が、感染が拡大に進むか、終息できるかの瀬戸際だというが、なぜ一斉休校が必要になったのか、あるいは本当に「1、2週間」で事が済むのかという疑問に対しては、科学的根拠が示されていない。「断腸の思い」でごまかしたつもりだろうが、感情に訴えるだけでは国民は救えない。必要なのは納得できる説明だったが、安倍の会見での発言によって、もやもやが募った形となっている。

 なにより、感染すれば死亡するリスクが高いとされる高齢者を守るための措置には触れられておらず、一斉休校に反発した子育て世代を意識した会見だったことは明らかだ。つまり、ただのパフォーマンスだったということ。その証拠に、あれをやるこれもやると並べ立てたが、具体的な策は何もなかった。

 大人の社会活動を止めることができない以上、子供の集まりだけ排除しても意味はなかろう。満員電車はそのままでいいのか、規模の大きな企業の日常活動はどうするのか、冠婚葬祭にも規模縮小を求めるのか――。首相は、そうした疑問には何ら答えを出していない。 

 PCR検査についての説明は、ほとんど虚偽に近い。首相は「全国で1日当たり4,000件を超える検査能力があります」と胸を張ったが、厚生労働大臣が国会で答弁したこれまでの実績は“1日900件”。検査能力がありながら検査しなかったのは政府対応の誤りなのだが、その点についての反省はなかった。

 「全国で2,000を超える感染症病床」というのも間違いだ。厚生労働省の公表資料によれば、新型コロナに対応可能な「感染症指定医療機関」は全国で410施設、病床数は1,861床しかない。いつ2,000を超えたのか知らないが、厚労省のホームページの数字は、変わっていない(⇒https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou15/02-02.html)。

 「様々な課題に万全の対応を採る決意」「新しい助成金制度を創設」「盤石な検査体制、医療体制を構築していく考え」「PCR検査に医療保険を適用」「休業となる方々への支援」――。どれもこれも、首相が国会で発言してきたもので、やらなければ国民の社会活動が崩壊しかねない。誇らしげに話していたが、いまごろこうした“今後の施策”を宣伝するというのは、新型コロナの国内感染が分かってから1か月の間、何もやってこなかったことの裏返しだ。

■危機管理の失敗は首相の責任
 そもそも、今日の事態を招いた原因は、危機管理ができなかった安倍政権にある。春節を迎えた中国の人々が大挙して日本を訪れることが分かっていながら、政府はその動きにストップをかけなかった。ダイヤモンド・プリンセス号にばかり注目が集まる中、中国の人々は次々に航空機で訪日を果たしていたのだから、ウイルスがばら撒かれたと考えるのが普通だろう。一番危ない感染経路を絶つ決断ができなかった安倍首相こそ、A級戦犯なのだ。なのに首相は水際対策の失敗について、謝罪どころか言及さえしていない。「終息への道のりは予断を許しません。険しく厳しい闘いが続いていく。そのことも覚悟しなければなりません」――よくも言えたものだ。

 ハッキリさせておかねばならないのは、大規模イベントの開催中止や教育現場の一斉休校といった策が、決して「危機管理」ではないということ。これらの方針は、危機管理能力の欠如が招いたウイルス感染拡大という結果の「事後処理」に過ぎない。政権による失政のツケを、なぜ国民が払わねばならないのか?

 事あるごとに、旧民主党政権の東日本大震災への対応を批判してきた安倍首相が、新型ウイルスとの戦いで何もできずに事態を悪化させたのは事実。まず、国民に謝罪し、疑問に答えてから「ご理解とご協力」を求めるのが筋だ。しかし会見で首相は、一斉休校への説明が遅れた理由や、唐突な休校要請がもたらす国民生活や経済への影響、感染抑制の見通しなどといった国民が知りたい事項に関する質問には一切答えず、「専門家の皆様も、あと1、2週間という判断をされた」「判断に時間をかけているいとまはなかった」として答えをはぐらかした。政府対応の“反省すべき点”を求めた質問には、次のように答えている。

 今回のウイルスについては、いまだ未知の部分が多い中、専門家の皆様の御意見も踏まえながら、前例に捉われることなく、国民の健康と安全を守るために必要な対策を躊躇なく講じてきたところであります。  現在、国内では、連日、感染者が確認され、そういう状況でありますが、今が正に感染の拡大のスピードを抑える、抑制するために重要な時期であります。国内の感染拡大を防止するため、あらゆる手段を尽くしてまいります。  未知のウイルスとの闘いはとても厳しいものであります。その中で、現場の皆さんはベストを尽くしていただいているものと思います。同時に、それが常に正しい判断だったかということについて、教訓を学びながら自ら省みることも大切です。私自身も含めてですね。その上で、そうした教訓を学びながら、未来に向かっていかしていきたいと考えています。  その上で、私はこれまでも、政治は結果責任であると、こう申し上げてきました。私自身、その責任から逃れるつもりは毛頭ありません。内閣総理大臣として、国民の命と暮らしを守る。その大きな責任を先頭に立って果たしていく。その決意に変わりはありません。 

 答えになっていないということは、子供でも分かるだろう。このあと首相は、記者団との質疑応答を一方的に打ち切った。

 ごまかし、強弁、議論のすり替え、嘘、質問封じ――こうした姿勢をよしとするのが現在の政府与党だとすれば、アベノウイルスはかなり蔓延していると言わざるを得ない。



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