昨年夏の参議院議員選挙で、車上運動員(ウグイス嬢)に対して、公職選挙法が定めた上限額15,000円の2倍となる日当30,000円を支払ったとして刑事告発されている河井案里参院議員と夫の河井克行衆院議員。広島地検は1月に河井夫妻の事務所などを家宅捜索し関係者への任意聴取を進めていたが、衆議院で2020年度予算案が可決され参議院に送られたため、「国政での喫緊の課題はなくなった」(捜査関係者)として、今週中にも案里氏の公設秘書を立件する方針だ。事件が大きな山場を迎える。
HUNTER取材班は、広島地検に事情を聞かれている複数の関係者との接触に成功。そこから、捜査の狙いが見えてきた。
■河合ルール
「最近、広島地検で供述調書に署名しました。検察は、案里氏だけでなく、克行氏も視野に入れているようです」。そう話すのは、案里氏の選挙を手伝っていたAさん。これまでに受けた事情聴取の時間を合計すると、数十時間に及ぶという。Aさんが、それだけ重要なポジションにいたという証拠である。
もともと、克行氏の選挙を手伝っていたというAさん。克行氏の選挙では、陣営だけでしか通用しない「河井ルール」が存在していたと明かす。検察の捜査もそこに着目したものだった。
「検察の供述調書でも、河井ルールとは何かという内容がとても多くありました。克行陣営ではウグイス嬢の日当3万円をはじめ、数々の独自のルールがありました。確かに、公職選挙法ではウグイス嬢の日当は上限1万5千円ですから3万円は違法。ところが、河合ルールでは公選法に違反していようが、いまいが関係ない。“河井ルールがすべて”なのです。誰も咎めることなどできませんでした」(Aさん)
検察が、2月になって作成したというAさんの供述調書には、次のような記述があったという。
『最高責任者は河井克行議員』
『河井ルールで、日当3万円と決まりました』
『案里氏の選挙でも、ウグイス嬢の日当は3万円になると克行氏の公設秘書であるYさんから連絡がありました』
いずれも、公選法違反となる日当3万円事件の首謀者が、克行氏であることを示唆している。
同じように、広島地検から事情聴取を受けているBさんにも話を聞いた。Bさんは、昨年12月から「広島地検に日参しているような状態だった」と苦笑する。そのBさんの供述調書も、地検はすでに作成済みだ。
「私の場合、いわゆる河井ルールを理解していたのかどうかについて、詳しく聞かれました。広島で長く選挙に関わっている者の間では、河井ルールは有名です。
例えば、急にスタッフ全員がダッシュで選挙カーから降りて路上で支援を訴えるのが“イナズマ”(笑)。選挙カーの中では、ウグイス嬢はずっと飴を持っていなければならない。克行氏が手を出すと、すぐに飴を渡さないといけないんです。
そういう細かなことから、日当3万円のことまで、なんでもが河井ルールなんです。そのあたりを詳しく説明して、供述調書をまとめてもらいました。
検察官からは、案里氏の選挙で、克行氏から日当3万円の指示があったかどうかについて、くどいほど聞かれました。私は克行氏の選挙を長く手伝い、案里氏の時も選対幹部でしたから、誰から日当のことを聞いたのかも含めて話しています」
広島地検は、河井夫妻の事務所などを捜索した後に、秘書や選挙スタッフの家宅捜索も行っている。その中には克行氏の実家も含まれ、父親にも事情聴取しているという。また、克行氏と親しい地方議員からも話を聞いている模様だ。地方議員の一人は周囲にこう語っていた。
「検察からきつく調べられ、カネの流れを詳しく聞かれた。携帯電話まで押収されてしまった。検察は案里氏だけでなく、克行氏までもやりたそうだ」
■案里氏秘書、今日にも立件か
一方、河井夫妻はこれまで、元大阪地検検事正の小林敬弁護士らヤメ検弁護士5人を雇い、防戦に努めてきた。だが、最近になって、定年延長で問題になっている東京高検の黒川弘務検事長と近い、別のヤメ検弁護士を選任したという話がある。「新たに選任された2人とも、黒川氏といい関係の弁護士じゃないか。河井(克之)は、安倍官邸が必ず自分たちを守ってくれると周囲に話しているそうだ」(自民党の衆院議員)
ある捜査関係者は、硬い表情でこう話す。
「広島地検のような地方の検察庁で、国会議員を対象にしてこれほど大掛かりな捜査は極めて珍しい。これで何もやらなかったら笑いもの、税金の無駄遣いと非難されても仕方ない。当然、それなりの結果を出さねばならない。春は検察も異動の時期、そう時間もかけてられない」
黒川氏の定年延長問題についてはこう続けた。
「黒川氏は、東京高検検事長。広島地検の事件とはまったく関係ない、口出しできる立場ではありません」
前出のAさんとBさんは、それぞれ「出来あがった供述調書を見て、検察は案里氏以上に克行氏をターゲットにしているんだと感じました」「検察は克行氏の関与を強く疑っている」と感想を語る。河井夫妻をとりまく包囲網は、確実に迫っている。広島地検は、今週中にも案里氏の公設秘書を公選法違反などの容疑で立件するものとみられている。