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【新型コロナ】感染症指定医療機関 福岡市内「病床数8」の危ない実態 
全県で66床 脆弱さ露呈

2020年2月19日 08:00

fukuoka.jpg 福岡県で新型コロナウイルスの感染者に対応する「感染症指定医療機関」の病床数が、全県で66床しかないことが分かった。訪日外国人の数が圧倒的に多い福岡市の場合、3つの医療機関でわずかに8床。県、市ともに十分な対応ができる態勢にはなっていない。
 県は「新型インフルエンザ患者入院医療機関」(福岡県内で87施設)に協力を求めるとしているが、県のホームページなどでは各医療機関の名称を公表しておらず、病床数も「把握していない」(県側説明)というのが現状。県民・市民から、感染症に即応可能な医療体制の整備を求める声が上がりそうだ。

■「危ない実態」
 感染症予防法で規定されている感染症の中で、危険性が高く特別な対応が必要な感染症の患者を治療する医療施設を「感染症指定医療機関」といい、対応する感染症の種類によって「特定感染症指定医療機関」、「第1種感染症指定医療機関」、「第2種感染症指定医療機関」に分けられている。対象となる感染症は、一類感染症(後述)、二類感染症(後述)、新型インフルエンザ等感染症として次のように分類されている。

感染症3.png

 特定感染症指定医療機関は、新感染症の所見がある患者、一類感染症(後述)、二類感染症(後述)、新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として、厚生労働大臣が指定した病院だ。現在は、成田赤十字病院(千葉県:病床数2)、国立国際医療研究センター病院(東京都:病床数4)、常滑市民病院(愛知県:病床数2)、りんくう総合医療センター(大阪府:病床数2)の4施設が指定されている。

 第1種感染症指定医療機関は、全国で55施設(103床)。 一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として都道府県知事が指定する病院で、福岡県内では古賀市の「福岡東医療センター」(病床数2)の1カ所だけが指定されている。

 二類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として知事が指定するのが第2種感染症指定医療機関で、福岡県内では下の12施設が指定されている。

感染症1.png 問題は「病床数」にある。第1種(2床)、第2種を合わせても、県内の病床数は66床しかなく脆弱な体制であることは一目瞭然。訪日外国人の数が多い福岡市に至っては、3施設で8床という「危ない実態」(市内の医療関係者)だ。

 県の担当課に取材したが、反応は鈍い。“新型コロナウイルスの感染者が出た場合、現在の感染症指定医療機関の病床数で対応できるのか”と聞いたところ、「新型インフルエンザ協力医療機関」に協力を求めることになっているという。

 しかし、県のホームページに公表されているのは第1種と第2種の感染症指定医療機関だけで、新型インフルエンザ協力医療機関がどこなのか分からない。その点について質すと「公表していない」と即答する。非公表にしている理由をしつこく聞いたところ、しばらくして「間違っていた。厚生労働省のホームページに全国の新型インフルエンザ協力医療機関が掲載されていた」と言いだした。新型インフルエンザ協力医療機関は県内に87施設あるというが、県は病床数を把握していなかった。新型コロナウイルスで国内が騒然となっている中、これでは県民の安心・安全は守れまい。

■感染症対策の強化は急務
 福岡市にはかつて、第1種感染症指定医療機関として市立こども病院に併設された「感染症センター」が存在したが、同病院のアイランドシティ移転に伴い市が感染症センターの指定を県に返上。現在は第二種感染症指定医療機関に指定された「市民病院」「九州医療センター」「福岡日赤病院」があるだけとなっている。前述した通り、3カ所の医療機関分を合わせても病床数は8床。インバウンドを成長戦略の軸に据えてきた福岡市にとっては、致命傷になりかねない実態と言えるのではないだろうか。
 
 高島宗一郎福岡市長は先月、自身のブログやフェイスブックで新型コロナウイルスの感染拡大について「博多港において当面は中国本土からのクルーズ船の寄港の拒否をすべきだ」と持論を展開。今月に入ってからは、国に有事の際の入国基準を策定するよう、要望した。市民の安心・安全に配慮した立派な主張だと感じ入ったのは、記者だけではなかったろう。

 小川洋知事も、自身を本部長とする対策本部を早々に設置し、「万が一県内で発生した時に迅速に対応できるよう備えてほしい」と指示を飛ばしており、ここまでの対応には合格点をつけるしかない。

 福岡市と県は、観光産業の振興などを目的に今年春から「宿泊税」を導入しており、観光客の呼び込みに懸命だ。訪日客の増加に比例して感染症などのリスクが高まるのは当然で、だからこそ十分な備えが必要になる。「病床数が足りません」という言い訳をする国や自治体が、中国の武漢市を批判することができるのか――。答えが「NO」に決まっていることは、小川知事と高島市長が一番よく理解しているはずだ。

 福岡をリードする二人の首長には、医療現場の実情を把握した上で、新たな感染症に即応できる体制づくりを行ってもらいたい。これは“提言”である。



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