鹿児島県が、県庁東側の県有地と隣接する民有地を新設する総合体育館の整備候補地とする方針を決めた際の決裁文書が、作成されていなかったことが分かった。
HUNTERが鹿児島県への情報公開請求で入手した資料から明らかになったもので、方針決定までに利用したはずのデータや文書も、ほとんど残されていない。
知事や県議会への説明用文書がいきなり作成された形となっており、その最終稿の完成までに修正が重ねられた文書は、ほぼ同じ内容のはずなのに、不自然な黒塗り非開示となっている。
県の誰が候補地を決め、最終的な決裁を行ったのかが全く分からない状況だ。(写真が県庁東側の土地)
■総合体育館整備地、わずか2か月で駅西口から県庁東側へ
三反園知事は2018年、総合体育館の整備地をJR鹿児島中央駅西口にすることを表明。同地にある県工業試験場跡地(1万㎡)と隣接する日本郵便の土地(約6,000㎡)を合わせた約1万6千平方メートルが「最適地」として、整備構想を打ち出した。(*下は、県への情報公開請求で入手した資料。赤い書き込みはHUNTER編集部)
「西口ありき」の形であったことに加え、鹿児島中央駅周辺で一番の問題とされた交通混雑についての調査も極めて杜撰なものだったことから県議会関係者や地元経済界が反発。追い込まれた知事は、昨年9月の県議会で、計画を撤回していた。
一から練り直すものとみられていた体育館整備構想だったが、鹿児島中央駅西口案を断念したわずか2カ月後、知事は県議会で鹿児島市与次郎の県庁東側県有地(下の写真、正面)に新体育館を整備する方針を表明する。ただしその計画は、隣接する地元テレビ局の土地(下の写真、向かって左の駐車場)を数十億円で購入して面積を増やすことを前提としたもの。テレビ局幹部と知事の接触を疑う声が上がるなど、再び利権絡みの噂が飛び交う事態となっている。
■隠蔽
鹿児島中央駅西口での体育館建設を断念してから2か月での方針転換――。県内部でどのような議論を経て決裁されたのか確認するためHUNTERは先月、鹿児島県に対し『総合体育館を県庁東側に整備する方針を決めるまでの過程を示す文書(伺いや決裁を含む)』を開示するよう求めていた。
土地代や建設費を含めると数百億円規模の大型公共事業である。たった2か月の検討期間だったにせよ、かなりの量の資料・データを駆使し、議論を積み上げる必要があったはずだ。もちろん、結果を公表するにあたっては、方針決裁が行われていなければならない。それなりの分量の文書が出てくるものと構えていたところ、1か月経って開示されたのは、たった4件の文書だけだった。
表紙は4件の文書とも同じで、それぞれ5枚(7ページ)。タイトルは『新たな総合体育館の候補地の検討結果について』となっている。ただし、うち3件はほぼ全面が黒塗り非開示、日付が打たれていない文書だけしか見れない状態だった。
これは一体、何のマネなのか――。事業を所管する鹿児島県の企画課スポーツ施設対策室に聞いたところ、総合体育館の候補地選定に関する公文書は、『新たな総合体育館の候補地の検討結果について』以外に何もないという。日付が打たれておらず、黒塗りがないものが最終稿で、知事や県議会への説明用に作成したと説明する。
全面黒塗りにした『新たな総合体育館の候補地の検討結果について』は昨年11月の11日、15日、25日にそれぞれ作成したもので、「内容が少しずつ違う」(県側説明)ため最終稿しか開示できないと言い張る。
県が非開示理由に挙げてきたのは「県内部の審議、検討又は協議に関する情報を開示すると、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれる」とする県情報公開条例の規定。要は見られると困る記述があるからに他ならない。政策決定過程を隠す自治体は必ず「不正」に染まっているものだが、三反園県政は3年半で汚れるだけ汚れたということだろう。
開示された『新たな総合体育館の候補地の検討結果について』の最終稿を確認してみたが、内容は県庁東側の土地と市内西谷山にある県農業試験場跡地の比較。県庁東側の土地の優位性を明らかにするための道具としか思えない記述ばかりだった。この文書を作成するために使用された文書やデータがあるはずだが、県側はその存在も否定しており、いきなり巨大公共事業の方向性が打ち出された格好だ。
不必要な黒塗りが目立つのは、役所が隠蔽に走った場合の典型例。下は開示された文書の中の土地の概要を記したページだが、よく見ると、“地図”や土地面積などまったく同じ内容であるはずのページまで隠していた。異常と言うしかない。
最大の問題は、体育館整備候補地を県庁東側の土地にする方針を決めた際の決裁文書が残されていないことだ。県側は「ない」「必要ない」と断言するが、数百億円の公費支出が見込まれる事業の方針を決めるにあたっては、どのような部署の誰と誰が合議し、最終決裁をどの幹部が行ったのかの証拠書類を残すのが普通。そうでなければ、役所として事業についての説明責任を果たすことができない。案の定、“誰が、どのような形で候補地を決めたのか”という記者の問いに対して、県の担当は「知事を交えて」とあやふやな回答を繰り返すだけだった。
総合体育館の整備事業は、伊藤祐一郎前知事の時代からの政策課題だ。今年夏の知事選で、争点の一つになることも予想される。三反園知事は県庁東側の土地を「最適」だと主張するだろうが、役所が政策決定過程を隠すのは、裏に知られたくない事実がある時だということを忘れてはなるまい。