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テレビ業界への不信

2020年2月10日 08:40

DSC06042.JPGのサムネイル画像 この国の主要なメディアである新聞・雑誌は「紙」を使った媒体、一方、公共の電波を使って番組を放送しているのがテレビ局だ。新聞・雑誌は対価を支払わなければ発信された情報を確認することができないが、テレビは受像機のスイッチを押しさえすれば、ただで情報が手に入る。インターネットに押され気味ではあるが、やはりテレビの影響力は大きい。
 そのテレビ業界の姿勢に、疑問を感じることが多くなった。

■問題起こした人物のコメンテーター起用に疑問
 ここ数年、芸能人や政治家が不倫を暴かれるケースが後を絶たない。最近では、俳優の東出昌大さんが若いタレントと不倫をしていたことを週刊誌が暴露し、その話題が連日ワイドショーを賑わせた。

 こうした不倫ネタが出るたびに引き合いに出されるのが、元衆議院議員でタレントとなった宮崎謙介氏のケース。宮崎氏は、やはり自民党衆院議員だった妻の金子恵美氏(2017年総選挙で落選)の妊娠中に、自宅に女性タレントを招き入れていたことが分かり、自議員辞職に追い込まれた人物だ。

 不倫がバレて辞職した政治家は少ないのだが、宮崎氏にはそうするしかない特別な事情があった。不倫発覚前、育児休業の取得を宣言し“良き夫”を演出していたからだ。当然、世論の猛烈な反発を受け、バッジを外さざるを得なくなった。

 芸能界的な言葉を借りるなら、まさに“ゲス不倫”で国会議員をクビになったような人物である宮崎氏が、タレントに転身してテレビ番組で司会をやったりコメンテーターとして自らの経験を語っているのだから呆れてものが言えない。ウェブ上のメディアに「東出昌大に送る、宮崎謙介からの手紙」などという一文まで掲載しており、不倫をウリにして稼いでいるのは確かだ。こんな人物を、公共の電波を割り当てられたテレビ局が、なぜ使うのか?

 同じように、ホリエモンこと堀江貴文氏が、テレビ番組で上から目線のコメントを繰り返す姿も愉快ではない。言うまでもなく、堀江氏には、証券取引法違反で逮捕・起訴され、懲役2年5か月の実刑判決を受けた過去がある。刑期が満了しているとはいえ、テレビがこぞって堀江氏を使うことには違和感を覚える。

■身内に甘い芸能界
 テレビは、身近な犯罪者に甘い。ミュージシャン、俳優として活躍してきたピエール瀧さんが、麻薬取締法違反(コカイン使用)で逮捕されたのが昨年3月。6月には懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けて、刑が確定している。そのピエール瀧さんが、映画撮影に参加し、芸能活動を再開するという。執行猶予中、しかも逮捕から1年も経っていない中での現場復帰だが、テレビ界は彼にやさしい。
 
 たまたま、この話題を取り上げたワイドショーを見ていて驚いたのは、コメンテーターだか何だか分からない芸人さんたちが、口をそろえて復帰容認の発言を行ったこと。「早すぎるのではないか」との意見があることを紹介しながらも、次々と「いいんじゃないですか」「待っているファンがいる」などと復帰を後押しした。身びいきも、過ぎれば“贔屓の引き倒し”にしかならない。

 きちんと罪を償った人が、社会復帰するのは大いに賛成だ。ピエール瀧さんの出演が予定されているのは、チケットを買わなければ見れない映画だとされ、出るのも出すのも自由だろう。“嫌なら見なければいいだけの話”、という意見もある。しかし、公共の電波を使ったテレビ番組で、犯罪者の早すぎる復帰を認めるようなコメントを出すことには不同意と言うしかない。テレビを見ている人たち(特に子供たち)が、「ああ、この程度で許されるのか」と、犯罪を軽く見ることにつながる可能性が否定できないからだ。罪を犯した人を簡単に番組に招く現状が、規範意識を鈍らせていると言っても過言ではあるまい。

 犯罪を犯した人は、その内容次第で社会復帰が困難になる場合もある。「芸人だから」、「タレントだから」、「他にできることがないから」などという身勝手な理由で、簡単にテレビ出演を許されるのは間違いだ。重ねて述べるが、テレビは公共の電波を使っているのである。

■報道で「人権」、一方で理不尽な排除
 一方、テレビ業界のデタラメなところは、犯罪を犯したわけでもないのに、理不尽にテレビから消される―「干される」―タレントや俳優さんがいることだ。例えば、解散した人気アイドルグループ「スマップ」のうち、ジャニーズ事務所を辞めた3人はテレビのレギュラーから外されたままだし、ドラマの主演もなくなった。ジャニーズに残った二人とは対照的な扱いだ。

 能年玲奈としてデビューし、NHKの朝ドラ主演で飛躍が期待されていた「のん」さんも、事務所から独立したとたんにテレビから締め出されるようになった。事務所を辞めた芸人やタレントが表舞台から消えたケースは、枚挙に暇がない。

 大手の芸能プロダクションや事務所を飛び出たタレントや俳優は、消えていくのが当たり前という異常な閉鎖性。ヤクザ業界顔負けの、タチの悪いしきたりだと言えるだろう。芸能界は独特の世界なのだろうが、犯罪者でもない人たちが、所属を変えただけでなぜ干されるのかという問いに、テレビが答えたことはただの一度もない。

 報道機関でもあるテレビ局は、ニュース番組で「人権」についてうるさく報じてきたはず。にもかかわらず、所属先を辞めただけで“干す”という、テレビ業界の悪しき慣習については問題提起さえ行ってこなかった。
テレビ局はダブルスタンダードを廃し、番組出演者をどう決めているかの基準を示すべきだ。



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