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新型コロナウイルスがインバウンド業界に与える打撃 
苦境に立つ九州の観光バス業界

2020年2月 4日 08:20

観光バス.jpg 中国湖北省武漢市で発生したとみられる新型コロナウイルスが、同国の旧正月にあたる「春節」を挟んで世界中に拡散し、日本にも深刻な影響を及ぼす事態となった。
 訪日客の激減で、もっとも打撃を受けているのがインバウンド関連の業界。「韓国との関係悪化に続いて、こんどは中国からのコロナウイルス。まったくお客さんが来ない」(福岡市の免税店関係者)といった状況だ。特に苦しいといわれる九州の観光バス業界を取材した。

■世界中に広がる新型コロナウイルス
 昨年12月に中国で新型コロナウイルス感染症が報告されて以来、ウイルスはまたたく間に世界各地へと広がり、多くの国で感染が確認されている。

 世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言を受けた日本政府は2月1日、感染症法(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)に基づき、新型コロナウイルス感染症を強制的な入院や一定期間の休業指示が可能となる「指定感染症」とする政令を施行。対策強化を図っている。

 厚生労働省の公表資料によれば、1月末現在、中国国内での感染者は17,205名で死者は361名にのぼっている。新型ウイルスの犠牲者は、2002年から3年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の349人を上回っており、今後さらに増える見込みだという。

 こうした中、日本国内ではマスクや除菌剤がドラッグストアの店頭から消える一方、外国人観光客相手の企業や商店が“開店休業状態”となっている。
(*下は福岡県内にあるドラッグストアのマスク売り場)

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■観光バス業界の苦境
 特に影響が深刻なのは、資本力に乏しい中小のバス会社。福岡県内に本社を置く貸切バス会社の代表は、肩を落としてこう語る。
「例年1月と2月は、中国の春節で客足がグンと伸びる時期。それが今年は例年の1割にも満たない。2月はさらに厳しく、5%ほどになるという悲惨な状態だ。韓国ショックで韓国人観光客が激減し、努力してようやくカバーしてきたというのに、まさか感染症でこうなるとは……」

 激減したのは中国からの観光客だけかと考えていたが、ここに来て韓国からのキャンセルが相次いでいるという。別のバス業界関係者の話。
「どうやら、韓国の方々は福岡の港や空港に近づきたくないようなんです。博多港着のクルーズ船客を乗せる機会が増えてきていたのですが、1月末の便が最後になりました。今後、3ヶ月は寄港しないと言われてます。韓国も中国もダメ。バスのリース料、ドライバーの給与。どうやってやりくりすればいいのか……」

 明日の支払いにも黄信号が灯るインバウンド関連業界に対し、政府の対応は鈍い。安倍首相は、先月31日の参院予算委員会で、新型コロナウイルスへの対応として「観光などへの影響もよく見極め、事態の進展に応じて必要であれば(2019年度予算の)予備費の使用も検討したい」と発言。影響の大きい業界に対して支援を行うための検討を始めている模様だが、関係者の反応は冷ややかだ。
「支援と言うが、まったく具体的な話は出てこない。インバウンド関連の中小企業は、今日、明日をどう乗り切るかという切羽詰まった状況なのに、政府の対応は後手に回っている。月商9割減のところだって、少なくない。これではもつわけがないんだから、明日にでも支援策を打ち出してほしい。カネが要るということだ。安倍総理は観光だ、インバウンドだと騒いできたのに、現場が分かっていない」(観光バス会社役員)
 
 貸切バス事業については2000年2月に、乗合バス及びタクシー事業については2002年2月に、需給調整規制の廃止等を内容とする改正道路運送法等が施行され、規制緩和が実現した。これによって中小の事業者が増加することになったが、無借金で事業を運営する会社は皆無に近いという。そこに、深刻な収入減となれば、会社存続が厳しくなるのが道理だ。あるバス会社の代表者は、「日本人客が増えるわけでもなく、この状況が長期化すれば廃業せざるを得ない」と茫然自失の体。新型コロナウイルスの感染拡大は、終息する見通しすら立っておらず、バス業界の苦境は深刻さを増しそうだ。

 安倍政権は「観光立国」という政策目標を掲げて、インバウンド推進に力を注いできた。2018年と2019年には、連続して訪日外国人が3,000万人を超えている。東京五輪・パラリンピックの年を迎え、インバウンド業界全体が活況に沸く展開だったところに、新型コロナウイルス――。経済成長の柱の一つが、脆さを露呈した格好だ。インバウンド業界への支援を、急ぐしかない。



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