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原発の現在(いま)

2020年1月22日 09:30

201803genpatu-thumb-308x200-23943.jpg 東日本大震災の発生まで全国に54基あった原発のうち21基は廃炉。残りの原発も、原子力規制委員会による新規制基準にもとずく審査が長引き、15基が審査にパスしただけだ。
 こうした中、今月17日に伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転禁止を求めて山口県東部の住民3人が申し立てた仮処分の即時抗告審で、広島高等裁判所が運転差し止めを認める決定を下し、電力業界を騒然とさせている。
 原発を巡る国民の議論は、足りていると言えるのか――。 
(写真左は川内原発、右が玄海原発)
  
■活断層に火山活動、高裁は四国電力の「過小評価」を指摘
 広島高裁の裁判長は即時抗告審の判決で、「原発の近くに活断層がある可能性を否定できない」と指摘。その上で、四国電力の活断層調査を不十分だと断定した。さらに、伊方原発から130キロ離れた阿蘇山に噴火の可能性があることも認め、その際の降灰量は四国電力の想定量の3倍から5倍だとして、同社想定を「過少」と結論付けている。

 福島第一の事故後、原発の差し止めを認めた司法判断は、17日の広島高裁で5件目。なぜか次の司法判断で差し止めが覆るケースばかりだが、4月に四国電力が予定していた伊方原発3号機の営業運転再開は、難しくなった。

■原発の現状
 2011年3月11日の時点で、日本にあった原発は54基。日本で使われる電力の3割程度を原子力で賄っていた。

 福島第一原発の事故後は、21基の原発が廃炉となり、原子力規制委員会による審査でパスした原発は15基にとどまる。下は、国内にある原発の現状をまとめた表だ。

国内原発の現状.png

 政府は、原発を「ベースロード電源」と位置付けており、2018年に閣議決定した第5次エネルギー基本計画では「2030年度に原発による発電比率を20~22%にする」としている。そのためには、30基前後の原発を動かさなければならないはずだが、規制委の審査状況や、原発の運転停止を求める裁判などの影響からみて実現する可能性は極めて低い。そもそも、地震大国であるこの国に、何十基もの原発を造ることが正しい判断と言えるのか――。

 政府は、福島第一原発の事故処理にかかる費用を約22兆円と見積もった(当初11兆円だったが……)。廃炉に約8兆円、事故の賠償金が約8兆円、除染や中間貯蔵に6兆円で22兆円というわけだ。しかし、民間のシンクタンク「日本経済研究センター」(東京都千代田区)の試算によれば、事故対応費用の総額は最低でも35兆円、最悪のケースだと81兆円になるとしている(*廃炉・汚染水処理に51兆、賠償に10兆円、除染に20兆円)。国家予算に匹敵しかねない莫大なカネが、福島第一の事故対策に費消される現実。この費用は、最終的に国民が支払うことになる。
 
 原子力ムラは、原発のコストは他の発電システムより安いと主張してきたが、廃炉費用などを含めれば、その説が真っ赤な嘘だったことは明らか。フクシマ以後、国民の多くは、原発の「コスト」の優位性を信じなくなっている。

 福島第一の事故では、立地自治体(福島県大熊町・双葉町)以外の住民も被害にあった。しかし、政府と電力会社は、いまだに原発に関する同意権限を周辺自治体に認めようとしていない。もちろん、認めた瞬間に原発が止まるからに他ならない。

 原発は、いったん事故が起きたら制御不能となる。地震大国の日本で、こうしたモンスターを保有し続けることの是非を、国民全体で議論する仕組みが必要だろう。もちろん、原発の本当のコストについて、実態を周知した上でのことだ。

■聞いて呆れる「復興五輪」
 今年に入って、福岡市内の高校1年生3人と“世間話”をする機会があった。東京オリンピックから「復興五輪」に話が移り、東日本大震災と福島第一原発の事故について議論しようと試みたが、3人との話がかみ合わない。考えてみれば、大震災の発生当時彼らは6歳か7歳。小学校に上がる前だ。民放テレビからコマーシャルが消えた日々のことを覚えているか聞いてみたが、「なんとなく」「覚えていない」「うーーん」というそれぞれの答えだった。

 東日本大震災と福島第一原発の事故からもうすぐ9年。国会では、嘘とでっち上げで長期政権を実現させた総理大臣が、“桜とカジノ”を隠すために「復興五輪」を持ち出してきた。原発の事故処理は、いつ終わるのか分からないというのに……。



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