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道警「ヤジ排除」問題、法廷へ
国賠訴訟、今月末に札幌地裁で初弁論

2020年1月14日 08:10

b80b85e9b41fe20eee0df127f89e9c5f606bfb1f-thumb-240xauto-28442.jpg 参議院議員選挙期間中の昨年7月に札幌市で起きた「首相演説ヤジ排除事件」で今月末、排除された当事者が北海道警察を訴えた裁判の第1回口頭弁論が札幌地方裁判所で開かれる。
 事件から半年が過ぎてなお道警の事実説明がまったく発信されない中、原告の男性は意見陳述で排除の法的根拠などを問う考えだ。

■説明責任果たさぬ道警
 道警に損害賠償を求める裁判を起こしたのは、札幌市北区のNPO職員・大杉雅栄さん(31)。昨年7月15日夕、札幌市中心部で与党系候補の応援演説に立った安倍晋三総理大臣に「辞めろ」「帰れ」などとヤジを飛ばし、その場にいた警察官たちに「排除」された。憲法で保障される表現の自由を侵害されたことで精神的苦痛を受けたほか、羽交い絞めにされたり頸を絞められるなどの暴力で肉体的にも被害を受けたとし、国会賠償法に基づき北海道(道警)に330万円の損害賠償を求めている。提訴は12月3日付で、同日は併せて現場の警察官らに特別公務員暴行陵虐などの罪を問う告訴状を札幌地方検察庁に提出した。組織としての道警の責任を国賠訴訟で問うとともに、排除行為を刑事事件として捜査するよう捜査機関に求めた形だ。

 排除事件を巡ってはこれまで、東京都の男性が現場の警察官たちを札幌地検に刑事告発したほか、野党関係者や地元弁護士会などが道警に抗議や申し入れを行うなどの動きがあった。北海道議会では12月までに計4回、地元議員がこの問題で質問に立ったが、道警の山岸直人本部長は「事実関係を確認中」との答弁を繰り返したのみ。また国会質問でも3度にわたって排除事件が採り上げられ、警察庁の担当者が山岸本部長と同じような答弁を重ねている。当事者の大杉さん自らもデモやシンポジウムを通じて疑問の声を挙げ続けたが、やはり道警からは一切の説明を受けられないままだ。

■やむなく提訴
 その大杉さんが改めて提訴・告訴に踏み切ったのは、こうした警察の姿勢に業を煮やしたところが大きい。提訴後の会見では「こんなことしないで済むんだったらしたくない」とその胸中を明かしつつ、問題を法廷へ持ち込まざるを得なかった事情を語っている。道警が排除の根拠を示さないために、一部で誤った世論が流布しているというのだ。
「ネット上では『彼が排除されたのは演説妨害だからだ』『違法行為だから排除されて当たり前なんだ』ってことを言う人がいるわけです。リテラシー(読解力)がある人ならそうじゃないってわかりますけど、少なからぬ人はそういう言説に流されてしまって『そうか、演説に異議を唱えたら違法なんだ。じゃあ黙っておこう』って、どんどん意見を言わなくなると思うんですよ」(大杉さん)

記者会見写真--2.jpg

 警察が何も説明せず、問題の風化を待っているのなら、こちらからはたらきかけるしかない――。当事者の思いに応え、前札幌市長の上田文雄弁護士(札幌弁護士会)など8人が提訴・告訴の代理人に名乗りを上げた。上田弁護士は、排除問題を司法に問う意義を次のように述べている。
「この札幌で、市民の表現の自由に対する極めて重大な侵害行為が、警察組織によって行われました。表現の自由というのは、まさに民主主義の大前提になる極めて大切な権利。なぜそれが憲法で保障されているかというと、それが権力者によって侵害されやすい性格を持つものだからです。権力にとって都合の悪い言論を封ずる、あるいはプレッシャーをかけるということがあっては、民主主義そのものが崩壊してしまう。そういう意味で私たちは、危機感をもってこの訴訟・刑事告訴に踏み切りました。これを見過ごすと、将来に禍根を残すことになると」

 弁護団によれば、首相演説の場から排除された人は大杉さんを含めて少なくとも9人いた。国賠訴訟の原告あるいは刑事告訴人は、今後も増える可能性があるという。刑事告訴された警察官の起訴・不起訴の処分は現時点であきらかでない一方、国賠訴訟の初弁論は1月31日午後に札幌地裁で開かれることが決まった。地裁は今のところ当日の傍聴券配布情報を告知していないが、法廷には相当な数の傍聴希望者が足を運ぶことになると予想される。

 事件が起きてから、まもなく6カ月。原告の大杉さんは目下、初弁論での意見陳述の準備を進めているところだ。陳述では、ヤジを飛ばした理由や排除事件の経過、提訴に到ったいきさつ、道警が法的根拠を示す必要性などを訴えていくことになるという。

 一方の道警が沈黙を貫き続けているのは、何度も述べた通り。筆者が12月末に地元誌『北方ジャーナル』の取材で寄せた問いには「引き続き事実確認を継続中です」との一文のみが返された。この文言は、複数回にわたって寄せた同旨の質問への回答として、過去3回のそれと一字一句変わっていない。

                                                         (小笠原 淳)


【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。



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