税金の使い道をチェックするのが使命である政治家が、選挙ポスターの交付負担金を満額請求するという非常識がまかり通る鹿児島県議会。 定数51の同議会で満額請求した16人は、すべて自民党県議団(38人)の所属だった。税金の無駄遣いを止めさせるどころか、自らが積極的に公費を食いつぶした形だ。
取材を進める中、満額請求のとんでもない実態が浮かび上がってきた。(写真はイメージ)
■1枚4,400円の選挙ポスター
下は、現職県議51人のポスター代公費負担の状況だ。赤字で示した通り、16人もの自民党県議が満額請求していたことが分かる。
選挙区ごとに定められたポスター掲示場の数によって基準限度額が変わるため、総額の高低を論じても意味がない。それでも、1枚あたりの単価が違い過ぎれば、公費支出の正当性が疑われるのは当然だろう。
鹿児島市・鹿児島郡選挙区(掲示場796カ所)で当選した野党系会派「県民連合」所属の上山貞茂県議のポスター単価は140円40銭。一方、枕崎市区(掲示場80カ所)選出の西村協自民党県議は、1枚4,400円もするポスターを作成していた。枕崎市区のポスター掲示場が80カ所と少ないとはいえ、4,400円は常識外れの額と言えそうだ。
■同選挙区のポスター代に100万円の差
別の角度から比較してみると、県議個々の意識に、かなりの差があることが分かる。例えば、定数17の鹿児島市・鹿児島郡選挙区――。この選挙区のポスター掲示場は796カ所で、1枚あたりの基準限度額は731円。契約金額で1,163,752円までということだ。
前出・上山貞茂県議のポスター単価は140円40銭で契約金額は168,480円、無所属の下鶴隆央県議は1枚205円20銭・契約金額246,240円でポスターを作成していた。自民党県議団所属の藤崎剛県議は、単価259円20銭・契約金額207,360円という安さにポスター代を抑えている。
これに対し、同じ選挙区であるにもかかわらず、現職副議長の桑鶴勉氏と寺田洋一氏(ともに自民)は、限度額いっぱいの1,163,752円(単価731円)で契約していた。上山県議と桑鶴副議長との差額は、なんと約100万円。少しでも公費支出を抑えようと努力している議員もいれば、平然と満額請求する県議がいる。一体、何がこの違いを生むのか?
■まかり通る「水増し請求」
写真代やデザイン料に費用がかかるケースがあるのは確かだ。すると単価も契約金額も上がる。しかし、鹿児島の場合は、「違法」とみられる操作でポスター印刷費が高くなることを、複数の関係者が証言している。
手口は単純で、正規のポスター印刷費に他の印刷物の費用を水増しして請求するというもの。選挙前後に陣営が使う名刺やリーフレットなど各種印刷物の代金を、ポスター代に加えるのだ。満額請求は違法ではないが、ポスター以外の印刷物の費用は、県に請求することができない性質のもの。つまり、ポスター代以外の印刷費を受け取った時点で、候補者や印刷会社の詐欺が成立することになる。鹿児島県では、バレないのをいいことに、この水増し請求がまかり通っているというのである。ある印刷業界関係者は、証拠を示しながら匿名を条件にこう話す。
「公費で支払われるポスター代が、ポスターの印刷費だけではないことは、鹿児島の業者なら誰でも知っているでしょう。選挙では様々な印刷物が必要になりますから、公費負担分に、できる限り乗っけるんです。まあ、水増し請求ということです。公費負担なら、とりっぱぐれがないわけですから。もちろん、供託金を没収されそうな泡沫候補なら、限度額いっぱいでの契約なんてことはしません。支払いが滞る可能性がありますからね」
別の選挙関係者も、水増し請求の実態があること認めている。
「悪いことだと分かっているが、多くの候補者がやっていること。候補者も印刷屋も共犯関係なんだ。これまで水増し請求で叩かれたことがないから、当たり前のようになっている。詐欺だと言われれば、そうなんだろうと思う。印刷業者の方から、『こうしたやり方がありますよ』と持ち掛けるケースもある。報道されれば、少しは方向が変わるとは思うが……」
本稿で実名を晒すことは避けるが、公費負担金の詐取を自覚している議員たちは、告発される前に返金して有権者に謝罪すべきだろう。
県議会に課せられた最大の使命は、県政のチェックだ。予算の無駄遣いを厳しく監視しなければならない県会議員が、平然と税金の詐取に手を染めているとすれば、言語道断である。「意識」の持ち方という点について言えば、前述した副議長の桑鶴勉氏に加え、議長の外薗勝蔵氏(薩摩川内市区)も満額請求。県会議員の模範となるべき議長と副議長が、そろって税金の無駄遣いに無頓着というのだから話にならない。鹿児島県人が敬愛してやまない西郷隆盛は、こうした輩を最も嫌ったはずだが……。