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【2020鹿児島知事選】漂流する反原発票

2020年1月21日 09:30

鹿児島県庁・原子力発電所川内-thumb-260x164-14789-thumb-260x164-16614.jpg 今夏に予定される鹿児島県知事選挙に向けて、次々に名乗りを上げる立候補予定者たち――。現職を含めて4人が出馬する意向を明らかにしているが、3人までが政権与党である自民・公明を頼る姿勢をみせているため、「少なくとも15万票」(県政界関係者)といわれる反原発票が、行き場のない状況となっている。
 知事選の勝敗を左右するとみられている反原発票について、鹿児島県内を取材した。(写真は鹿児島県庁と川内原発) 

■現職も新人も自・公頼み
 夏の知事選には、現職で二期目を目指す三反園訓氏(61)の他、鹿児島大学特任助教の有川博幸氏(61)、前九州経済産業局長の塩田康一氏(54)、伊藤祐一郎前知事(72)の4人が出馬を目指して動いており、候補者が乱立する展開となっている。4人に加え森博幸鹿児島市長の参戦までささやかれる中、注目を集めることになっているのが反原発票だ。

 2016年の知事選で、三反園氏に初当選をもたらしたのは反原発派の運動量と票。廃炉を前提として反原発派と結んだ政策合意の相手が共産党の平良行雄氏(現県議会議員)だったことから、同党をはじめ民進党(当時)や社民党といった野党陣営がこぞって三反園支持に回った。それが今年の知事選について言えば、野党陣営にアプローチがあったという話は一切聞こえてこない。

 政権与党である自民、公明は、原発をベースロード電源と位置付けており、すべてを廃炉にする考えはない。前回の知事選で脱原発を掲げて初当選した三反園氏は、知事就任後「自分の考えは自民党と同じ」と言い出し、方針転換。政策合意を反故にし、今回の知事選では自公に推薦願を提出している。

 新人の塩田氏も、自民、公明に推薦願を提出しており、保守である伊藤前知事も方向性は同じのはず。4人の出馬予定者のうち3人までが、そろって政権与党にすり寄る構図となっている。当然、反原発派はその3人について否定的で、別の候補者を擁立すべく、今週にも話し合いを始めるのだという。有川氏は、県民目線の県政を実現して原発の廃炉などを目指すため、政党の枠を超えて支持を求めていく考えだという。

■勝敗のカギ握る反原発票
 三反園氏の前回知事選の得票は426,471票。4選を目指していた伊藤祐一郎氏の342,239票を大きく引き離しての勝利は、反原発票と現職への批判票が三反園に集中したせいだ。2012年の知事選で、反原発派の向原祥隆氏が獲得したのは200,518票で、原発を巡る状況が落ち着いた今も、「反原発票」は15万票前後あるものとみられている。勝敗のカギを握る反原発票だが、このままなら行き場をなくす。

 仮に反原発派が新たに候補者を擁立できても、勝てるか否かは別問題。三反園県政打倒を目指す勢力の票が割れるのは確実で、「三反園有利」との見方は強まる一方だ。前回知事選で後援会幹部として三反園氏を支援したという会社社長は、危機感を募らせる。
「三反園に鹿児島を任せることはできないという思いは、伊藤さんも塩田さんも有川さんも同じはずだ。騙された反原発派はもちろん打倒三反園。皆が大同団結して県政刷新を図らなければ、本県は大変なことになる。それが分かっていながら、陣営ごとにいがみ合っているのが現状だ。選択肢が増えていいじゃないかなんて、言ってる場合ではない。三反園県政を終わらせようというのなら、しっかり反原発派と手を組み、嘘のない県政を実現してもらいたい」

 元職や新人が次々に自公を頼る姿勢をみせていることに、強い不満を持つ有権者は少なくない。鹿児島市在住の40代女性公務員は、こう話す。
「三反園さんが自民党と公明党に推薦願を出したので呆れましたが、他の人たちもみんな自公に推薦願を出すというのでしょ。野党が頼りないのは分かるけど、これでは選択肢が狭められたのと変わりない。それなら出るなと言いたい。私は、反原発まではいかないけど脱原発。自公に頼る人たちが、脱原発や反原発であるはずがないですよね。立候補者がいまのままなら、投票には行かない。『原発いらない』と言い切ってくれる候補者、出てきませんかね」

 川内原発を抱える鹿児島県では、知事選のたびに嫌でも「原発」が争点になる。東日本大震災後、運転を停止していた全国の原発の中で、一番初めに再稼働したのが川内原発で、道筋を付けたのが伊藤前知事。その伊藤氏を、「原発を止める」と公約して破ったのが三反園訓というペテン師だった。そして今夏の知事選――。反原発派が重要視するのは、川内原発の運転期間延長問題である。

 川内原発1号機は2024年に、2号機も25年に運転開始から40年を迎える。原則40年とされる原発の運転期間は、原子力規制委員会の審査を通れば最長20年まで延長が可能となるが、知事がこれを認めるかどうかが問われる。残念ながら、これまで出馬の意思を示した4人の中で「20年延長は認めない」と明言した人物は皆無。脱原発派の票が、行き場を失っている。

【お詫びと訂正】
 本稿ははじめ、「新人の塩田氏も、自民、公明に推薦願を提出しており、保守である伊藤前知事も方向性は同じのはずだ。有川氏も出馬会見で自公に支援を求める考えを示しており、4人の出馬予定者が、そろって政権与党にすり寄る構図となっている。当然、反原発派は出馬予定の4人について否定的で、別の候補者を擁立すべく、今週にも話し合いを始めるのだという」と記しておりましたが、有川氏は特定の政党に推薦を求める考えは示していませんでした。お詫びして、本文を訂正させていただきます。(2020年1月21日19:00)



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