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自民党「改憲ポスター」と国民の間の温度差

2020年1月15日 08:20

改憲ポスター.png 安倍晋三首相は今月12日、NHKの番組で「私自身の手で憲法改正を成し遂げたいという思いには全く揺らぎはない」と述べ、改憲に強い意欲を示した。昨年12月には、臨時国会の閉会を受けての記者会見で「憲法改正は決してたやすい道ではないが、必ずや私の手で成し遂げていきたい」と発言している。
 「私が」「私の手で」という言葉で明らかなように、改憲の主役はどうみても安倍自身。しかし自民党は、安倍の目論見を隠して国民を欺くための「改憲ポスター」を作成していた。
(写真は、自民党のホームページより)

■改憲論議の実態
 憲法とは、権力を縛るための最高法規である。分かりやすく言えば、主権者である国民に対し、政治や行政が「やってはいけないこと」と「やるべきこと」を明記したもの。その証拠に日本国憲法は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(99条)として、権力者にのみ憲法擁護義務を課している。

 しかし、8年前に第二次安倍政権が発足して以来、この国の憲法論議はすべて政治家主導で進んできた。「尊重」「擁護」どころか、縛られる側の政治家が憲法99条を無視し、議論を提示しているのが現状だ。いまや日本の改憲論議は、極右集団「日本会議」と“安倍の私欲”が原動力になっていると言うべきだろう。

 改憲の論拠も曖昧だ。12月の会見で安倍首相は、どこの報道機関のものかも明示しないまま、世論調査の結果について「国民的関心は高まりつつある」と勝手に決め付け、「国会議員として国民的意識の高まりを無視することはできない」と述べた。改憲に前向きな調査結果があるとすれば政権の犬である読売、産経両紙のそれだろうが、他の報道機関による調査によれば国民は安倍政権下での改憲に否定的。6割~7割が反対の意思表示をしている。

 ちなみに、今月に入って産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が行った合同世論調査では、憲法改正に「賛成」とする回答が44.8%。「反対」を4ポイント上回っているというが、過半数には程遠い数字となっている。「国民的関心」や「国民的意識」の高まりを無理やり煽っているのは、安倍政権なのである。

■改憲望まぬ「主役」の国民
 そうした中、自民党は憲法改正をテーマとする2種類のポスターを作成したことを、平沢勝栄広報本部長と丹羽秀樹広報戦略局長が記者会見で公表。ポスターのお披露目を行った。下が、自民党の改憲ポスターだ。

改憲ポスター2.png 改憲ポスター3.png

 いきなり「主役はあなた」と言われても、迷惑この上ない。そもそも、国民の半数以上が改憲の必要はないと考えているのに、むりやりその国民を改憲の主役に仕立てるのは間違いだろう。改憲をやりたいのは安倍晋三であって、国民ではない。「主役は安倍です」とした方が、すっきりするというものだ。

 おだてられて「改憲賛成」と言い出すほど、この国の国民はバカではあるまいが、騙される人は皆無とは言えない。特に、二人の男女を配したポスターは、自民党が決めた「改憲4項目」の議論にうまく誘導するつくりになっている。つまり、こういうことだ。

・「国を守るって…」 ⇒「9条への自衛隊明記
・「災害が多いな…」 ⇒「緊急事態条項の創設
・「人口減少…合区って何?」 ⇒「参院選挙区の合区解消
・「これからの教育」 ⇒「教育の充実
 
 安倍がどうしても実現したいのは、憲法9条の改正だ。平和国家の基礎をつくった「戦争放棄」を無効化し、日本を「戦争ができる国」にすることが宿願なのである。また自民党がこだわる「緊急事態条項」は、有事や大規模災害などの緊急時における政府の権限を明確化し、国民の生活や経済活動などに制限を加えることを認める規定となっている。これは、《本法ニ於テ国家総動員トハ戦時(戦争ニ準ズベキ事変ノ場合ヲ含ム以下之ニ同ジ)ニ際シ国防目的達成ノ為国ノ全力ヲ最モ有効ニ発揮セシムル様人的及物的資源ヲ統制運用スルヲ謂フ》と定めた戦前の悪法「国家総動員法」と同じ趣旨なのである。 

 戦後70年以上、日本会議などの国家主義集団を除き、“主権者=主役”である国民の側から「憲法の、この条文を変えてほしい」という声が上がったことはない。日々の暮らしを送る上で、何の必要もないからだ。報道機関の世論調査で改憲の是非を聞かれ、仕方なく「議論はすべき」と答えているのが現状だろう。主役である国民が望んでいるのは、経済の発展や、社会福祉・教育の充実、外交の成果といった政権が打ち出してきた公約の実現なのである。



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