800人を超す安倍首相の後援会関係者を、税金で接待していた疑いが持たれている「桜を見る会」。参加者名簿をシュレッダーにかけて実態を隠蔽したり、マルチ商法の親玉をはじめ反社の人間まで呼び入れていたことも判明し、政権を揺るがす事態となっている。
追い込まれた首相が考えているとされるのが衆議院の解散。首相が、改憲発議に必要な3分の2を割り込んでも構わないと腹をくくれば、年明けの総選挙が現実味を帯びる。要党の議席は減るだろうが、「大惨敗」は考えられないからだ。安倍政治が続く原因はどこにあるのか――。
■1月解散説
現在開かれている臨時国会は9日で閉幕するが、正月明けには通常国会が始まる。国会を閉じることでいったんは桜を見る会の問題に蓋をすることになっても、首相と菅義偉官房長官が枕を高くして眠ることはできない。
そこで囁かれているのが、通常国会冒頭での衆議院解散。総選挙で勝利し、桜の問題に幕引きを図ろうという姑息な戦略だ。モリ・カケ疑惑での成功体験が、首相を解散に駆り立てているのだという。
仮に自民党が20~30の議席を減らせば、改憲勢力(自民285・公明29・日本維新の会11・希望の党2)が衆議院(定数465)で憲法改正のための国会発議に必要な3分の2(310議席)を失う可能性が高くなる。そうなれば「改憲」で維持してきたコアな安倍支持層を、一気に失うことになる。
自民党の議席減が必至の状況でも、首相は解散に打って出るのか――。その問いに答える形で、ある自民党議員はこう話す。
「改憲をとるか、政権の延命をとるか――。普通なら改憲の可能性を消すようなマネはしないだろう。いま総選挙をやれば、自民党が議席を減らすのは確かなんだから。しかし、通常国会で桜を見る会の問題を追及されれば、政権自体がもたない。シュレッダーにかけたとされる名簿が出てくるようなことになれば、その時点でアウト。総理も菅さんも責任をとることになる。総辞職だ。ならば一か八か、選挙に打って出て、みそぎを済ませたということでオリンピックになだれ込む。その頃には桜のことなんか忘れてるはずだからね。
なんだかんだ言っても、支持率は4割超えているし、政党支持率からしても与党が過半数を割るようなことはないから。総理に、小泉(純一郎)さんの時のような人気はないけど、野党の非力、不人気に助けられて長期政権になった。野党は選挙に勝てない。あの顔ぶれ、民衆党の時と同じじゃないか。何を期待しろっていうの?」
■低迷する野党
自民党議員の話を、否定するのは難しい。下は11月に報道各社が行った世論調査の結果だが、10月調査より下がったとはいえ、依然として安倍内閣は4割~5割の支持を得ており、底堅い。
報道各社の調査結果をみれば、安倍政権を支持すると答えた人の7割から8割が、「ほかに相応しい人がいない」という消極的な理由によるものであることが分かる。つまり、対抗馬が現れれば、内閣支持率は急落するということだ。
ただし、その場合の次の首相候補は自民党の中にいる政治家で、野党の党首ではない。直近の調査結果でいうなら石破茂元幹事長がその筆頭になっており、大臣就任前まで人気があった小泉進次郎環境相は影が薄くなっている。人気先行だった実績もない若者を、「次代の総理・総裁」などと持ち上げた大手メディアの責任だろう。
一時は期待を集めた枝野幸男氏率いる立憲民主党も、支持率は下降気味。爆発力はなくなった。旧民主党の流れをくむ国民民主党は、支持率1%台から上昇するきっかけさえつかめていない。旧民主党系の再結集に活路を見出そうとする議員も少なからずいるが、相変わらず両党内部の意見はまとまっていない。
立憲と国民が一つにまとまっても、おそらく支持率は上がらないとみられている。変わらぬ顔ぶれに、期待しろというのが無理な話なのだ。旧民主党時代の幼稚な政権運営には目をつぶることもできたが、政権を失ってからのドタバタが酷すぎた。民進党と名称を変えても、有権者不在の党内抗争を繰り広げ、憲法や原発といった国の根幹にかかわる政治課題について、党内の意見をまとめることさえできなかった。あげく、新党を立ち上げておきながら、排除の論理を優先させて自壊。自民党に比べるとやはり幼稚で、この人たちに「政権を任せよう」という気にはならない。
下は、政党支持率に関する報道各社の調査結果をまとめた表だが、自民党が4割近い支持を得ているのに対し、野党第一党の立憲民主は1割にも満たない数字。賞味期限が残っている「れいわ新選組」にしても、1~2%でしかない。共産党を加えたすべての野党がまとまっても、自民党一党の支持率には大きく及ばないというのが現状なのだ。各種選挙の勝敗のカギを握っているのは、最大勢力である「支持政党なし」の層である。
安倍一強が定着したことで、自民党の国会議員は、国民ではなく“官邸”を向いて仕事をするようになった。政治と国民との間の温度差は、広がるばかりだ。同党に対する底堅い支持はあるが、半分以上の国民が「反自民」だというのも、また現実である。しかし、反自民の受け皿となるはずの野党は、内部抗争に明け暮れ、国民の期待を集めきれていない。
国民の声を黙殺し、戦争への道をひらく集団的自衛権の行使容認や安保法の制定といった極右的な方向に国を引っ張ってきた安倍晋三という政治家は、誰が何と言おうと最低の宰相だ。その安倍の在任期間が、歴代最長になったという。政治家が悪いのか、有権者が悪いのか――。