国内が熱狂したラグビーワールドカップの試合を“ただ”で楽しむため、観戦を「公務」に仕立てた三反園訓鹿児島県知事を庇い、県のスポーツ振興課がチケット入手の経緯を記した公文書を隠蔽した。
HUNTERが独自に入手した同課の内部文書によれば、チケット入手は県側の要請によるもので、知事が強調してきた「招待」は形式上のこと。「一般席」も真っ赤な嘘で、文書には「プレミア」「特等席」の文言が記されていた。
なぜ隠蔽に走ったのかという記者の追及に、強弁を繰り返す担当課長だったが……。
■無視された情報公開条例
HUNTERが鹿児島県への情報公開請求で求めたのは『三反園知事が観戦したラグビーワールドカップ準々決勝日本対南アフリカ戦のチケットを入手した経緯が分かる文書』。これに対し、県が開示に応じたのは、スポンサー企業から送ってきたという「招待状」だけだった。しかし、招待状とは別に、県スポーツ振興課で作成された『チケットを入手した経緯が分かる文書』が、少なくとも2枚は存在している。記者は今月25日、隠蔽の理由について同課の課長に話を聞いた。以下、その概要である。
記者:招待状以外にも該当する文書があったわけだが。
課長:はいはい。記者:なぜ開示しないのか?
課長:私どもが考えていたのは、書類を作成された時期が、開示請求があった内容と異なる時期だったので……。記者:意味が分からない。なぜ、文書を隠蔽したのか聞いている。
課長:隠蔽とは考えていません。記者:招待状の他にも、少なくとも2枚の内部文書があることが分かっている。公文書ではないのか?
課長:開示対象の期間が、チケットが届いた時点までと考えたということ。(当該文書を)作成したのは、その後だったし、私共は(当該文書を)メモと考えていたから。記者:メモというが、当該文書はスポーツ振興課の中で作成され、その後も組織内で共有されているではないか。だとすれば公文書だ。
課長:私共としては、メモと考えています。
驚いたことに、課長は“招待状が送られてきた時点で存在した文書”だけを開示対象にしたのだという。「招待状をもらったから試合を見に行った」という主張に沿った言い訳なのだろうが、それでは招待状以外の『チケットを入手した経緯が分かる文書』を隠した理由にはならない。役人が勝手に開示文書の選別をすることが認められれば、情報公開の意味がなくなるからだ。もう一度、県が隠蔽した文書の内容を確認しておくが、そこには「4 チケットについて」として、次のように記されている(右の文書参照)。
“溝畑宏特別顧問の紹介で、ラグビーワールドカップ2019日本大会のオフィシャルスポンサーである株式会社●●・●●●●●●●●●●の▲▲▲▲社長が手配。”
これこそが、『チケットを入手した経緯』として県職員が残した記録。HUNTERの情報公開請求に書かれた日本語が理解できるのなら、真っ先に開示すべき文書だろう。
鹿児島県情報公開条例は、「公文書」を《実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう。》と規定しており、隠蔽が明らかとなった2枚の内部文書は、明らかに公文書。作成や取得の時期はまったく関係がない上、職員が選別することも許していない。
同条例はさらに、《実施機関は、公文書の開示を請求する権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする》と定めており、恣意的運用を否定している。県のスポーツ振興課の隠蔽行為は、明らかに条例違反である。
■崩れた主張 県庁内外から批判の声
条例の規程に従えば、スポーツ振興課長の「メモ」=私文書だという主張が認められるのは、組織内の共有という要因が欠けている場合だ。記者は26日、再度スポーツ振興課長に確認を求めた。
記者:ところで、問題の文書は何のために作成したのか?
課長:それは、説明をする時の資料ですね。秘書官とかに。記者:秘書官に見せたのではないか?
課長:見せてますね。記者:すると文書は、県の組織内で共有されたということになる。やはり、問題の2枚は公文書だろう。
課長:そこは、メモのつもりではいたけれども、ということで。記者:だから、公文書。
課長:そこはどうなんでしょうねぇ……。記者:スポーツ振興課で作成し、組織内で共有しているではないか。
課長:我々は、その担当が作って、メモのつもりでいたんですけれども、としか今の段階ではちょっと言えんですがよ。記者:どうしてそうなるのか?
課長:だって、それ、開示の対象になってるとは僕なんか思ってなかったから。
組織内部の公文書を勝手な理屈で隠蔽したあげく、存在が暴かれたとたん“メモ”だと主張し、それも崩されると「開示の対象になってるとは僕なんか思ってなかった」――。支離滅裂とは、こういうことを言う。
追及されて苛立ったのか、「うんうん」「ふんふん」ともともと横柄だった課長の態度は最後になって爆発し、「言えんですがよ」「思ってなかったから」とケンカ腰。三反園知事と同じ指宿出身で、知事秘書からスポーツ振興課長に抜擢されたというこの御仁は、どうやら足元も世間も見えていない。
ある県職員からのメール。
「招待とか一般席とか、知事やスポーツ振興課長の説明は嘘です。ラグビーW杯日本VS南ア戦のチケットを3枚準備しろと言ったのは知事。困った振興課は溝畑と関係の深い企画課に相談し、なんとかチケット1枚を入手したというのが真相です。都合の悪い内部文書を意図的に隠したのは確かで、だからこそ説明が説明になっていない。みっともない話です」
鹿児島市在住のある会社経営者は、歪む県庁組織を厳しく批判している。
「これほど分かりやすい公文書の隠蔽をやっておいて、まだ屁理屈を並べる担当課長に怒りを覚える。知事のレベルに合わせて、県庁の程度も下がったということだ。この件で問われているのは、知事が税金を使って東京に行き、ラグビーの試合を個人的に楽しんだことの是非だ。一般人では入手不可能な特別なチケットをプレゼントしてもらい、試合当日は酒を飲んで盛り上がっていたというのだから、本来なら謝罪すべきだろう。下らん言い訳を並べ立てる知事や県幹部の姿は、哀れというしかない」