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「文春砲」に感心している場合か!

2019年11月 7日 09:55

20120810_h01-01t.jpg 発足から2か月も経たぬうちに、第4次安倍再改造内閣の大臣が二人も辞任した。いずれも選挙区内での買収行為に絡む事案によるものだが、スーク―プしたのは「週刊文春」。新聞やテレビは、後追いして騒いでいるだけだ。
 文春砲が次に狙いを付けたのは、台風15号の猛威を前に、無能さをさらけ出した森田健作千葉県知事。県内の被害が拡大する中、公用車で別荘に行っていた疑いがあるのだという。
 巨大な権力を敵に回し、限られた人数で孤軍奮闘の文春。一方、全国に記者を配置しているはずの新聞社は、お役所の発表をたれ流すばかりで、「権力の監視」という最大の使命を果たしていない。
 
■新聞の凋落
 ここ数年、表面化した政治家のスキャンダルといえば週刊誌がスクープしたものがほとんど。しかもその大半が週刊文春の仕事である。新聞はお手上げの状態で、後追いして騒ぎを拡大させる役回りに徹している。
 
 新聞が週刊誌の後追いをするなど、かつてはなかったことだ。テレビのニュースでさえ、新聞に無視されるケースが多かった。これは新聞社が、報道の世界では自分たちこそが序列1位だと信じてきたからに他ならない。

 たしかに、明治維新以後、ラジオが登場するまでは「報道=新聞」だった。太平洋戦争の開戦をいち早く知らせたのはラジオだったが、それでも新聞は、戦時中を除いて「権力を監視する番犬(ウォッチドッグ)」であり続けた。

 様相が一変したのは、安倍晋三という政治家が、首相として再登板を果たしてからだろう。安倍政権による特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安保法制といった右寄りの方針を巡って、朝日、毎日、地方紙連合軍が批判を強める一方、右に寄った読売と産経が「権力の監視」という報道の使命を放り出し、安倍擁護に走ったからだ。読売の販売部数が多いため、一定数の国民は、新聞が権力の見方をすることに疑問を感じなくなっている。朝日の誤報問題なども重なり、新聞の力は急速に落ちた。

 新聞凋落の原因は他にもある。もともと大手メディアは、諸悪の根源である「記者クラブ制度」に依拠して、情報を独占することに慣れてしまっている。権力側に与えられた箱の中でしか世の中を見ていないということだ。こうした癒着構造が記者たちの筆をにぶらせているのは確かで、「政界の実力者や役所を攻撃すると、リーク情報が貰えなくなる」と考える報道関係者は少なくない。

 当然、政権や地方自治体の不祥事は見逃される。一番分かりやすいのが全国紙の政治部記者で、彼らの大半は“知ったかぶり”するだけで、政界の暗部を報じようとしない。

 一強といわれる安倍政権が長く続く中、権力の監視機能は弱まるばかりだ。2016年には、日本国内における「表現の自由」の状況を調査した国連の特別報告者が、権力側の圧力で委縮する報道機関の現状に警鐘を鳴らし、19年には、スイスで開かれた国連人権理事会で、日本のメディアの独立性に懸念を示す報告書を提出している。情けない国内メディアの中で、週刊文春だけが報道の使命を果たしている状況なのだ。

■文春でさえ部数減
 気を吐く文春にしても、新聞やテレビが後追いして騒がなければ、報じたスクープが炎上することはない。つまり、週刊誌が新聞ができない政治の闇に踏み込む作業を担当し、新聞が週刊誌ネタに値札を張り付けているようなものだ。相互補完の関係にあるのは確かだが、ネタをつかんでから対象を追い詰めるところまでは文春の独り舞台である。新聞は、明らかに、ネタをつかむ力が落ちている。

 ただし、「文春砲」を派手に打ちまくっている同誌も、部数減に歯止をかけることはできていない。下は、国内の有力雑誌出版社で構成される一般社団法人「日本雑誌協会」が公表している、3か月間に発売された週刊誌1号あたりの平均印刷部数を年ごとにまとめた表とグラフだ。2010年から2019年までの「1~3月期」の数字を参考にした。

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 いずれの週刊誌も、長期低落傾向に歯止めがかからない。スクープ連発の文春ですら、2010年の約71万部から今年の約58万部へと、10年間で14万部近く減らしている。文春をはじめとする週刊誌はネット配信に力を入れ始めているが、有料記事に飛びつく読者は少なく、将来への展望は開けていないのが現状だという。もちろん、「文春砲」を放っていなければ、同誌の部数はもっと落ちていたはずだ。

■それでも新聞に期待
 新聞の部数減はなお深刻で、夕刊廃止や支局の整理が相次ぐ状況だ。役所の広報と化した紙面に呆れた読者から三下り半を突き付けられるケースも頻発しており、経営難にあえぐ新聞社はこれからさらに増えるとみられている。インターネット全盛の世の中とあって、若者の新聞離れも顕著。20代の若者で新聞を購読しているのは、全体の5%に満たないという調査結果もある。

 下は、HUNTERが入手した一般社団法人「ABC協会」の、2001年、2013年、2016年における全国紙の販売部数データを表にしたものだが、読売は15年間で13%約128万部を減らし、朝日に至っては24%約196万部の部数減、毎日、日経、産経もそろって部数を減らしているのが分かる。

新聞部数.jpg

 週刊誌も新聞も、部数減に苦しんでいるのが現状だ。そうした中、文春が評価を得ているのは、「権力の監視」という報道に課せられた最大の使命を全うしているからだろう。

 期待に応えているのが週刊誌だけで、新聞がその引き立て役というのではあまりに情けない。文春に抜かれっ放しの現状を、すべての報道関係者が反省すべきである。
 



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