税金を使って選挙運動を行った安倍晋三首相を庇うために、霞が関の役所が、公文書である参加者リストを廃棄して隠蔽に走った――。これが、政権を揺るがせている「桜を見る会」の構図だが、鹿児島では三反園訓知事の愚行をカバーするため、県庁組織が存在してる文書を「ない」と偽ったことが明らかとなった。
県が隠蔽を図ろうとしているのは、知事がラグビーワールドカップ準々決勝「日本対南アフリカ」の試合を観戦するため「ただでもらった」(県関係者)というチケットの入手経過を示す文書。県はラグビー観戦に関するHUNTERの情報公開請求に対し、チケットを無償提供した企業からの招待状1枚を開示するにとどめ、県職員が作成した内部文書を少なくとも2ページ分隠すという非常手段に出た。
HUNTERが独自のルートで入手した、その内部文書を公開する。
■内部文書、その1
下は、HUNTERが独自に入手した県の内部文書のうちの1枚(*画像の一部を加工)。三反園知事がラグビーワールドカップ日本対南アフリカ戦を観戦する見通しとなったため、鹿児島県スポーツ振興課が日程やチケットを入手した経緯などについてまとめたものだ。
文書のタイトルは『ラグビーワールドカップ2019準々決勝戦 南アフリカVS日本の観戦について』。HUNTERは先月、「三反園知事が観戦したラグビーワールドカップ準々決勝日本対南アフリカ戦のチケットを入手した経緯が分かる文書」を情報公開請求していたが、当該文書は、まさに開示対象となるはずの1枚だった。
ところが、判断に30日もかけながら、開示されたのはスポンサー企業から送られてきた招待状1枚。県に何度も確認するが、HUNTERの請求内容に合致する他の文書については、「ない」と断言する。すでにHUNTERが入手していたラグビー観戦に関する内部文書は、存在自体を否定された形となった。悪質な隠蔽である。
■内部文書にはない「招待」の文言
県が隠蔽に走った上掲の文書では、チケット入手の経緯について、鹿児島県の特別顧問である溝畑宏氏が紹介したラグビーワールドカップ日本大会のスポンサー企業が、チケットを「手配」した、とある。じつはこの「手配」という文言が、知事や県による表向きの説明との間に微妙な違いを生む。
問題発覚後、三反園知事や県スポーツ振興課は、来年の東京オリンピックで開催予定の7人制ラグビーに出場予定する南アフリカチームの事前キャンプを誘致するためなどと観戦の目的について説明。溝畑氏から「南アフリカ代表の鹿児島合宿を再び誘致するため応援に行った方がいい」と勧められ、同氏にチケットの手配を依頼したところ、結果的にスポンサー企業から「招待」されたとしてきた。
強調されてきたのは「招待」という文言だ。試合観戦が受動的なものであることを示したい知事は、あらゆる場面で「招待」を口にし、免罪符にしてきた。しかし、問題発覚前の県内部の認識は“溝畑氏が「紹介」したスポンサー企業が「手配」した”――で、主体的に動いたのはあくまでも県。県がスポンサー企業にチケット入手を依頼した結果、先方が気を利かせて「招待」した、というのが真相だろう。“おねだり”したのは三反園知事で、その証拠に県の内部文書には「招待」の文字がどこにもない。
■「おねだり」を隠したい県
ここでもう一度、県関係者が明かしたチケット入手までの“本当の経緯”を確認しておきたい。
県関係者の話によれば、知事のラグビー観戦は当初予定にはなかったもの。日本代表が勝利を重ねる展開を受け、10月20日に調布市の東京スタジアムで行われる予定となっていた南アフリカ戦のチケットを、知事本人と東京事務所の所長、知事秘書の分として“3枚”準備するよう、三反園知事から県庁内部に指示が出たという。職員同伴は、遊びの試合観戦を、公務に仕立てるための細工だったとみられている。
降って湧いたような知事の指示。予定外のスケジュールである上、準々決勝の日本対南アフリカ戦まで時間がない。正規ルートでのチケット購入は不可能。困った県職員が溝畑氏に相談したところ、大会のスポンサー企業を紹介され、「1枚だけなら」ということで融通してもらったのが、一般人は絶対に手にすることのできない「ホスピタリティパッケージ」が付いた特別なチケットだった。
きっかけが“知事のおねだり”だったということを隠すためには、「招待」を強調して逃げるしかない。県は、こちらからお願いしたことがうかがえる「手配」という言葉を表に出したくなかったということだろう。
上掲の文書には、県にとっては不都合な別の記述もある。文書中の「対戦カード」の欄に南アフリカと日本の世界ランクが記されているが、その下に「* 世界ランクはR1.10.14現在」とあるのが分かる。つまり、この文書は試合まで5日を切った10月15日以降に作成されたもの。時期的なことを考えれば、周到に準備された「招待」ではなく、知事の思いつきで決まった急なスケジュールだったことを示す記述なのだ。ラグビー観戦問題について詮索されたくない県としては、文書ごと葬り去るしかないのかもしれない。
ただ、いずれも犯罪行為に等しい“隠蔽”の動機付けとしては弱い話。県として絶対に表に出すことができないのは、上掲の文書と同日に作成されたもう1枚の文書だった。
(つづく)