国民民主党の福岡県連が、参院選の強引な候補者擁立劇に反発して離党届を提出した地方議員に公認料を返還するよう求めている問題を巡り、同党の前身である民進党の県連が、請求の根拠となった「誓約書」と同じ内容の文面について弁護士に問い合わせ、公認料を返すよう求めることに「法的強制力はない」とする回答を得ていたことが分かった。国民民主の県連は、誓約書に法的拘束力がないことを承知で“返金”を要求していたことになる。
野党内のドロドロ劇は拡大の一途。離党した女性県議を、国民民主と立憲民主などの所属議員で構成している「会派」から排除しようとする動きが顕在化しており、事情を知った女性県議の支持者から“男社会の陰湿ないじめ”を懸念する声が上がっている。
■弁護士に否定されていた「法的拘束力」
次の2種類の文書は、HUNTERが独自に入手した旧民進党県連の内部資料。上が弁護士に示された「誓約書」の案である。
下は、県連の選対事務局長だった県会議員が、上掲の誓約書の法的有効性について弁護士に相談した際の内容をまとめたものだ。
民進県連が弁護士に問うたのは、上の誓約書の内容で“法的に『カネ返せ』と言えるか否か”の判断。離党者が公認料の返金に応じなかった場合、訴訟で勝てるかどうか知りたかったということだ。これに対し弁護士は、「法的拘束力はない」――つまり“訴訟では勝てない”ということを明確に述べていた。ただし弁護士は、公認料を受け取った後の離党は「道義的、倫理的、人間的に許されない」として、別の誓約書案を示していた。新たな文言は次のような表現に変わっている。
公認をいただいたのち、公認料を受領する際には、当落に関わらず、選挙後四年間は党員としては勿論のこと、私人としても道義的・倫理的・人間的な忠義に則り、党倫理規則を遵守し、国民民主党の綱領に基づく政策の実現を目指した政治活動に邁進することを誓います。国語力を疑わざるを得ない意味不明の文章だが、この時に弁護士が提示した案が、今年春の統一地方選立候補者の誓約書にそのまま生かされている。
また、これらの誓約事項に反する行為を行った際には、受領した公認料をはじめ、国民民主党の公認候補として支援いただいた資金を全額返還いたします。
今年4月の統一地方選挙に先立って支給された公認料は、県議や政令市市議が300万円で政令市以外の市議には100万円。2015年の統一地方選で、旧民進党県連が配った公認料の3倍の額だったという。その高額な公認料とセットになったのが、問題の誓約書だった。
■民主党時代は“不祥事防止”のための誓約書
民進党から国民民主党に受け継がれた誓約書は、旧民主党の時代のそれと、根本的に異なる内容だ。民主党時代の誓約書は、「党倫理規規則に明記された倫理規範に違反する行為を行った場合」にだけ、公認料を返すという内容になっていた(下、参照)。所属議員の不祥事防止を目的としていたことは明らかだ。
一方、現行の誓約書は、カネの力を利用した“離党防止策”。民主党時代の誓約書とは意味合いが全く違っている。
■通らぬ国民民主福岡県連の主張
では、離党した地方議員らが公認料の返還を拒否していることが、本当に「道義的、倫理的、人間的に」許されない行為になるのか?
公認料の返金を求められているのは、野田稔子県議会議員と内野明宏春日市議会議員の二人。稔子氏は民進党が希望の党へと移行した際に無所属となり、昨年暮れに立憲民主党入りした野田国義参院議員の妻である。内野氏は同参院議員の元秘書だ。国民民主党福岡県連の主張は、両人が離党して公認料返還を拒否することが「道義的・倫理的・人間的な忠義に則り」許されないというものだが、この論法で二人を責めるのは道義的にも、倫理的にも“間違い”と言うしかない。
今夏の参院選に出馬予定だった野田国義氏は、立憲民主党への入党をぎりぎりまで延ばしたことが知られている。同氏が、国民・立憲両党の統一候補として出馬することを望んだためだ。そのかいあってか、国民民主党県連が独自候補擁立を見送る決定をしたため、稔子県議と内野市議は国民民主党の一員として参院選を戦うことを決めていたという。
しかし、国民民主は一転して元判事の女性候補を擁立。野田氏に対立候補をぶつける形となったため、やむなく二人が離党せざるを得なくなったという経緯がある。高校の同級生だった国義氏と結ばれた後、八女市長から国政に転じた夫を支え続けてきた稔子氏が、国民民主党の候補者を支援できるはずがない。
内野氏にしても、野田参院議員が古賀誠元自民党幹事長の下で政治修行に励んでいた頃の同僚。民間企業に勤務していた親友の内野氏を秘書にして、市議への道を開いたのは野田氏だ。内野市議には野田氏以外の参院候補を応援するという選択肢はなかった。国民民主党の方針が早い時期に独自候補擁立で固まっていたとすれば、二人とも公認をもらう前に国民民主を離党していたはず。「道義的・倫理的・人間的な忠義」に則るなら、稔子氏も内野市議も、参院選前というタイミングで離党するしかなかったのである。
野田・内野両氏に近い関係者によれば、両人が公認料返金を拒んでいるのは、カネの力で政治家を縛ろうとする現在の国民民主党県連の姿勢に対する反発と、誓約書が離党予備軍の足かせになるのを防ぐためだという。「カネが返せないから離党できない」――地方議員のこうした声を知る両人が、頑なに返金を拒むのには、それなりの理由があるということだ。
一強政治の前に右往左往してきた野党の中からは、毎月のように離党者が出ているのが現状で、1%台の支持率から抜け出せない国民民主党を離れた国会議員は二桁に達している。衆参62名で結党した同党の勢力は細る一方で、小沢一郎氏が率いてきた自由党と合流しても47名でしかない。しかし、数ある離党劇で公認料の返還を求めた例はなく、「除籍」処分にするのが通例となっている。“公認料を返せ”という主張に、法的拘束力がないからに他ならない。そのそも、憲法は思想や信条の自由を保障しており、寄附金で政治的な自由を縛る行為はこの規定に反するものなのだ。名称は「公認料」でも、法的には「寄附」。条件を付けて金銭を動かす行為は「寄附」とは言えない。
■カネ返せの次は「いじめ」?
程度の低さを露呈した国民民主の福岡県連だが、「カネ返せ」に法的拘束力がないと分かった県連の一部がやり始めたのは、野田稔子県議に対する圧力。立憲民主党や社民党系の県議らと構成している会派「民主県政県議団」から追い出す作戦に出た。
国民民主党県連関係者によれば、4月の県議選で落選した県連の前代表が、会議で「党を除籍された議員は会派には残れない」などと発言したことで、一気に野田県議を会派から排除する方向で動き出したのだという。発言した落選県議は、県連最大の実力者。情けないことに、立憲民主の県議らもこの動きを容認している。
事情を知った野田県議の支持者は、こう憤る。
「これは稔子さんに対する集団的な“いじめ”でしょう。所属政党と会派は別。党籍がないから会派に置いとけないという理屈は通らない。正論を言われたら弱いものだから、排除に動いているだけ。稔子さんの離党をスンナリ認めれば、次の離党者が出るから、それを警戒している。“みせしめ”のためのいじめ。男社会の陰湿ないじめですよ」
大人げない話になってきたが、民主県政県議団の汚い裏話については、いずれ詳しく報じる予定だ。