県立高校の生徒寮整備事業で不正な公費支出を行った疑いが出ている鹿児島県南大隅町が、同事業に絡む別の委託業務で、予定価格の算出や予算組みを行う際に作成されるはずの「積算書」を残していないことが分かった。
事業にかかる細かな費用を積み上げた記録がないことは、町が根拠のない公費支出を行った証拠。行政ルールを無視したデタラメな町政運営に、批判の声が上がりそうだ。
(円内は森田俊彦町長)
■生徒寮管理業務で不可解なプロポーザル
不明朗な業者選定過程が明らかとなったのは、同町が整備した県立南大隅高校生徒寮の管理業務委託。町は、寮監を常駐させて施設の維持管理に関する一切合切をまかなう業務を、男子寮が整備された平成28年から民間に委託していた。
業者選定はプロポーザル方式によるもので、平成28年3月に選定委員会を開催。副町長など7名の選定委員が提案内容の審査を行い、3か年合計1,649万円で鹿児島市に本社を置く民間業者と契約を結んでいた。
ところが、3年契約のはずが契約書自体は1年限りのもの。なぜか翌年には再度プロポーザルによる業者選定を行い、前年に落選した南大隅町の特定非営利活動法人(NPO法人)を委託先に選んでいた。
この業務委託は不可解なことばかり。前年に決まっていたはずの契約金額はいきなりアップし、3年計で17,082,000円に(最低賃金改正により平成30年度から17,262,000円に変更)。現在は、年間5,784,000円がNPO法人に支払われている。
HUNTERが注目したのは、予算が組まれた時点で決まっていた3年間分の事業費が、どうやって算出されたのかという点。前述したように、初年度に行われたプロポーザルの時点では3年間で「1,650万円」だった事業費が、2年目の業者選定では「1,710万円」にアップしており整合性がない。事業費を算出するための「積算」の過程を検証しようとしたが、これまでに開示された公文書の中に該当する文書がなかったため、町側に確認を求めていた。
“積算根拠がなければ、予算も予定価格も決まらない。南大隅町は積算書を隠しているのではないか”――。24日、記者の確認に返ってきた答えは、「積算書はありません」だった。何度も確かめたが、町側は、どうやって生徒寮管理業務の金額を決めたのか「分からない」と明言している。前代未聞の“根拠のない公費支出”は、業者選定のプロポーザル自体に疑惑があることを示している。
そのプロポーザルに関する情報開示も、隠蔽の意図があったのか、極めて不十分なものだった。下は、業者選定委員会の採点結果表だが、国や他の自治体がオープンにしている評価項目ごとの得点が隠されている。選定委員の名前は黒塗りでも仕方がないが、点数を明らかにしなければ総合得点が正しいものなのかどうか判断がつかない。情報公開の意味を考えれば、非開示にすべき事項とそうでないものの区別がつくはずだが、南大隅町はそれができない。しかも、個々の選考委員が採点した際の「個票」も、省かれていた。
■不正な公費支出、次々に
南大隅町の生徒寮整備事業を巡っては、事業開始時の「方針決裁」を含め、次のような文書が欠落していることが明らかとなっている。
①男子寮を整備する目的や手法を決めた際の「方針決裁」
②寮の整備用地を決定するまでの過程を示す文書や、決定時の「決裁」
③整備用地の価値を調べてもらう不動産鑑定所を選定した際の理由を示す「決裁」
④男子寮の設計事務所を選定した際の理由を記した「決裁」
⑤女子寮を追加整備する目的や手法を決めた際の「方針決裁」
都合の悪いものを隠し、記者から存在を指摘される度に追加で文書を開示したり、「不存在」を白状するという信じられない状況が、すでに2か月続いている。南大隅町は、公費支出に関する無法地帯と言えそうだ。