公有地を保有しながら、町長の知人が所有する不動産物件を、県立高校の生徒寮に利用する形で“便宜供与”を行った疑いが持たれている鹿児島県南大隅町。拙速に事を進めたため事業手法は乱暴で、公費支出に不可欠の「決裁文書」が作成されていなかった。一連の事業過程が、同町の事務決裁規程に抵触する可能性が高い。
説明責任を果たすために必要な公文書を残さぬまま、強引に進められた不適切な公費支出――。デリヘル接待や金銭スキャンダルといった町長個人に向けられてきた「疑惑」が、町役場ぐるみのものへと拡大した形だ。(円内は森田俊彦町長)
■致命的な決裁文書の不存在
自治体が公費を投入して事業を行う場合、職員は、節目ごとに「決裁文書」を残すよう義務付けられている。公費支出の正当性を証明するためには不可欠なもので、例えば必要な施策の方向性を定めた時点での、いわゆる「方針決裁」や、事業遂行に必要な契約などを結ぶ際の決裁などがある。
南大隅町は、事務処理の適正及び責任の明確化を図ることを目的として「南大隅町事務決裁規程」を制定しており、そこで『事務は、原則として、主務係長の意思決定を受けた後、順次直属上司の意思決定及び関係課長との合議を経て、決裁権者の決裁を受けなければならない』と定めている。
同町が実施した県立南大隅高校の生徒寮整備事業での大まかな「節目」といえば、まず用地を決め、次に設計業者を選定し、最終段階で建設業者を決めるという過程が必要だ。それぞれの節目では、いずれも公費支出を伴う次のような契約が結ばれていた。
繰り返すが、自治体が事業を立案して遂行する過程では、方針を決めた理由や必要となった“契約”の経緯が明らかにされていなければならない。まず事業の全体像を示す「方針決裁」があり、次に必要な契約等の決裁となる。
設計の業務委託や建設工事の請負なら、業者の選定方法が入札だったのか随意契約だったのかを明らかにする文書を係員が起案し、関係職員が合議して次々に決裁印をもらうのが普通だ。南大隅町の生徒寮整備事業では、事業開始時の「方針決裁」を含めて次のような決裁文書が残されていなければならないが、太字で示した決裁文書は不存在となっている。
①男子寮を整備する目的や手法を決めた際の「方針決裁」
②寮の整備用地を決定した際の「決裁」
③整備用地の価値を調べてもらう不動産鑑定所を選定した際の「決裁」
④設計事務所を選定した際の「決裁」
⑤工事業者を選定した際の「決裁」
⑥女子寮を追加整備する目的や手法を決めた際の「方針決裁」
⑦女子寮の設計業者を選定した際の「決裁」
⑧女子寮の建設業者を選定した際の「決裁」
上掲の表の中に赤字で示した通り、男子寮整備に関しては決裁文書がほとんど残されていないため、用地や設計業者の選定理由がまるで分らない。さらに、最後の文書開示で不動産鑑定所との契約書は出てきたが、なぜその鑑定所を選んだのかとういう決裁文書は残されていなかった。
あらゆる行為の根拠が示されないまま支出が行われており、不透明というより「不適切」と言うべき事業の実態だ。
森田俊彦町長が裏で用地取得の話をまとめ、事務決裁規程を無視して強引に事業を進めた結果が「女子寮の入寮者ゼロ」。男子寮の入寮者も減り続けている。県立南大隅高校の存続を図るという目的で実施された、同校自転車部の生徒寮整備事業が、町長の知人に対する便宜供与に利用された可能性がある。