政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
社会

国民民主福岡県連 離党者に「カネ返せ」のお粗末
請求根拠の「誓約書」には違憲の疑い

2019年9月 9日 09:25

DSCN0944.JPG 国民民主党福岡県総支部連合会が、参院選の強引な候補者擁立劇に反発して離党届を提出した地方議員に、統一地方選挙の際に“寄附”した公認料などの政治資金を返還するよう求めていることが分かった。
 前例のない政治資金返還要求の根拠となっているのは、県連が公認申請した同党所属議員に提出させた「誓約書」。カネで政治活動の自由を縛るという非常識な内容だったが、選挙を控えていた候補者たちは逆らうことができず、公認候補全員が誓約書に署名、捺印していた。
 なりふり構わぬ組織防衛に出た県連に対し、離党届を提出した二人の議員は「返還義務はない」として代理人をたて争う構えだ。

■離党断念の説得ではなく「カネ返せ」
 国民民主党の県連から“請求書”を送り付けられたのは、今夏の参院選を前に離党届を提出していた二人の地方議員。参院選での候補者擁立を見送った県連の決定を無視し、党本部が強引に新人女性の擁立を決めたことに反発し、離党届を提出していた。

 二人の議員には先月23日頃、下の文書と「誓約書」のコピーが郵送されてきたという。誓約書は当時の県連代表にあてて書かれたものだったが、請求書の発出者は何故か格落ちの幹事長となっている。

002.jpg

 『「誓約書」に基づいたご対応』がいかなるものか判然としないが、要はカネを返せということ。政党が、離党した比例区の国会議員に辞職を求めたケースは少なくないが、政治資金の返還要求は前代未聞だ。文書を受け取った地方議員は呆れたが、弁護士に相談して“支払い拒否”を決めていた。代理人の弁護士が文書を送付した翌日、入れ違いになる形で次の文書が送られてきている。

003.jpg

 なんと、返済期限を数日延ばすという通知。金融機関の督促と同じ手法だ。ここでも『「誓約書」に基づいたご対応』を求め、再び誓約書のコピーを同封していた。

 県連側の「カネ返せ」に対し、離党届を出した議員らの代理人弁護士は、9月2日付で「返還する法的義務はない」とする通知書を発送している。

■問われる誓約書の法的拘束力
 県連側が“取り立て”の根拠としているのが「誓約書」。下が、その写しである(*画像の一部はHUNTER編集部が加工)。

誓約書――国民.jpg

 立候補する選挙の種類と誓約書の記入年月日を書き入れ、候補者が署名して捺印する形式。内容はこうだ。

 《公認をいただいたのち、公認料を受領する際には、当落に関わらず、選挙後四年間は党員としては勿論のこと、私人としても道義的・倫理的・人間的な忠義に則り、党倫理規則を遵守し、国民民主党の綱領に基づく政策の実現を目指した政治活動に邁進することを誓います。
 また、これらの誓約事項に反する行為を行った際には、受領した公認料をはじめ、国民民主党の公認候補として支援いただいた資金を全額返還いたします。》

 文案起草者の国語力を疑わざるを得ない、意味不明の文章である。クレージーな誓約書と言っても過言ではあるまい。一番の問題は、「私人としても道義的・倫理的・人間的な忠義に則り」という文言で、「私人」としての生き方を、政党が誓約書で規定する形となっている。

 『忠義』とは主君や国家など上位のものに心を込めて仕えることだが、この文脈からいえば誓約書を書かされた候補者が尽くさなければならない相手は「国民民主党福岡県連」。見方によっては、その相手が県連代表の当時の代表者と読めないこともない。日本国の主権者は国民であり、政治家が忠義を尽くす相手は国家・国民であるべきだが、国民民主の福岡県連幹部はその常識さえも理解していない。

 「誓約事項に反する行為を行った際」――つまり、県連や県連代表に忠義を尽くさない場合は、寄附金を返せというのだから、呆れた内容だ。政党支持率1%という状況を脱しきれないまま、所属議員をカネの力でつなぎとめてきた国民民主党の、断末魔と言うしかない。

 4月の統一地方選挙で支給された公認料は、県議や政令市市議が300万円で政令市以外の市議には100万円。2015年の統一地方選で、旧民進党県連が配った公認料の2倍以上だったという。その高額な公認料とセットになっていたのが、問題の誓約書だった。

■県連誓約書に憲法違反の疑い
 公認料などの寄附金を巡る国民民主党県連による一連の行為は、カネを出す側の立場を利用した悪質な縛りに他ならない。同党の政治資金の原資は、大半が政党交付金だ。国民の税金で政治活動をやっておきながら、所属議員には党や県連組織に忠義を尽くせというのだから、この組織はタチが悪すぎる。

 政党が、絶対に間違いを犯さない組織かというと、決してそうでないことは歴史が証明している。問題の誓約書が離党者への寄附金返還義務を規定したものであるとするならば、国民民主党が有権者の意思を無視して暴走した場合、同党所属の議員たちはカネを返さなければ離党できないことになる。そんなバカな理屈が、民主主義国家で通用するわけがない。

 ちなみに日本国憲法は、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と規定しており、思想信条の自由をカネの力で縛ろうとする国民民主福岡県連の「誓約書」には、違憲の疑いさえある。




【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲