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恫喝と暴力で市民排除 被害者市民が語る北海道警察の所業(上)

2019年8月 1日 08:05

道警本部 (1).jpg 北海道・札幌で安倍晋三首相の演説にヤジを飛ばした市民などが警察に排除された“事件”から2週間。北海道警察が今なお「事実関係を確認中」としている中、演説の場で拘束された市民ら4人が当日の様子を詳しく語った。
 衆人環視の現場で行われたのは、国民の安全・安心を守るはずの警察官による恫喝と暴力。一般市民に牙をむいた“権力の犬”の所業とは……。
(写真は北海道警察本部)

■根拠示さずいきなり拘束
 首相演説の場から排除された“被害者”たち。その1人である札幌市のNPO職員・大杉雅栄さん(31)は7月15日夕、JR札幌駅前の南口広場で私服・制服の警察官たちに行動の自由を奪われた。

 自民党公認候補の応援に駆けつけた安倍晋三首相がマイクを握った数秒後、街宣車の停まる車道を挟んだ向かい側から「安倍やめろ」「帰れ」と叫んだとたん、周囲の人垣の中から驚くほどの速さで数人が走り寄ってきたという。
「誰かがSNSに投稿した動画を観るとわかりますが、本当にすごい勢いで集まってきましたね。あっという間に20mほど離れたあたりまで引っ張られて、囲まれながら押し問答。こっちがいくら『何の根拠で』と訊いても、警察は『落ち着いて』とか『叫ばないで』とか言うばかりでした」(大杉さん)

大杉さん(右端)を取り囲む警察官たち.jpg

 拡声器などを使って大音量を出したわけではなく、たった1人で挙げた肉声の抗議。それに対し警察は、事前の声かけもなく問答無用で衣服や身体を掴み、腰や首に腕を回してその場から排除した。

 大杉さんが「憲法で保障された言論・表現の自由があるのでは」と尋ねると、「それはある」と警察官。「公道を自由に歩く権利は」と重ねると、「それもある」。だが実際にはその権利が失われ、目の前には警察官の壁ができていた。

■「増税反対」の一声で排除された女子大生
腕を掴まれる絹田さん(仮名.jpg 一連の騒ぎを、同市の大学生・絹田菜々さん(24)=仮名は30mほど離れたあたりから目にしていた。警察官に取り囲まれた大杉さんを、周囲の人たちはもの珍しげに眺めていたという。「なんだかヤバい奴がいる」とでもいうような視線。一昨年7月、安倍首相が「こんな人たちに負けるわけにいかない」なる暴言を吐いた東京・秋葉原の喧騒とは、まるで異なる空気だったといい、演説が始まる前には、見知らぬ人たちが与党を支持する内容のプラカードや日の丸の旗を聴衆に配っていた。

 「あの暴力を見て何も言わないまま帰ったら、絶対に後悔すると思ったんです」と、絹田さん。同じことをすれば自分も同じ目に遭うことはあきらかだった。5分間ほど逡巡したのち、出せる限りの大きな声で「増税反対!」と叫んだ。
「自民党支持の人でも消費増税には反対だろうと思って、それで『増税反対』なら思いが通じるんじゃないかと」(絹田さん)

 だが、すぐにスーツ姿の男女4人ほどに腕を掴まれた。警察官とおぼしき彼らは「静かにして」「落ち着いて」「撮られてるよ」などと言いながら、演説から遠ざかるように札幌駅の駅舎方面へ絹田さんを引っ張って行った。「誰ですか」と問うと、女性の1人が「警察だよ」と答えたという。
「手を掴んでる人には『お姉さん恐いよ』と言われました。正当な理由もなしに1人を10人ほどで囲んでる人たちのほうがよっぽど恐かったですよ」(同)
 
 できるだけ大きな声で不当な扱いを訴えたが、周囲は飽くまで無関心。埒が明かず駅前のレンタルDVD店を目指すと、警察官らも同行し、店内にまで入ってきた。店を出て大通公園の方向へ歩き出せば、女性警察官が「家に帰ろうよ」「座ってジュース飲もうよ」などと言いながら両脇を固めてくる。腕を組まれ、スマートフォンのレンズをそこに向けると即座に腕が解かれる、ということが繰り返された。

■カメラ構えた大学院生を恫喝し暴行
 札幌市の大学院生・桐島さと子さん(27)=仮名も、現場でたびたびスマホを警察官の前にかざしていた。知人の大杉さんが「安倍辞めろ」の一声で拘束された時、近くにいただけで一緒に排除された。その日は『うんざり』と大書したプラカードを持参して演説の場に赴いたが、同行した大杉さんがヤジを飛ばす間合いは共有していなかったという。まして瞬時に取り囲まれることになるとは、想像の外だった。
「1人で(大杉さんを)持って行かせたら駄目だと思って、大杉さんにしがみつきました。突然のことで混乱し、細かい状況は憶えてませんが、警察が暴力的に排除したのはあきらかです。揉み合っているうちに私の眼鏡が外れて落ちたほどですから」(桐島さん)

 混乱が落ち着いた隙を見てリュックからプラカードを取り出し、頭上に掲げた。警察からは制止されなかったが、そのころにはすでに自民候補の街宣車から離れた場所に移動させられていたため、『うんざり』のメッセージが首相の視界に入ったかどうかは定かでない。その間も大杉さんは10人以上の私服警察官に囲まれ、身動きをとれずにいたという。
「それで、カメラを向けることにしたんです。撮影したいというよりも、『この不当な行為を記録しているぞ』と警察に知らしめるつもりでした」(同)

撮影を妨害される(桐島さん撮影.jpg

 すると突然、スーツの襟に赤いバッヂをつけた強面の男に「撮るな!」と怒鳴られ、腕を引っ張られた。傍らの大杉さんが思わず「あんた何だ、触るなよ!」と声を荒らげる。制服警察官が男を引き離して騒ぎは収まったが、あきらかな暴行は不問に附された。のちに民放ニュースで安倍首相の真後ろにその男が寄り添っている映像を目にした大杉さんは、男が首相を警護する与党もしくは警察庁の関係者だったのではないかと疑っている。                                                     
                                                         (小笠原 淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
 




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