公共事業を巡る業者と役所の癒着は今に始まったことではないが、福岡市が、一部の業者に便宜供与する形になるのを承知で「入札」の実施方法を変更することが分かった。
変更されるのは、一定額以上の工事入札に導入されている「総合評価方式」。市は、今年1月からの不透明な見直し過程を経て、6月に新たな方針を決定していた(参照記事⇒「福岡市・入札総合評価改定に漂う不透明感」。
業界関係者から“癒着”を疑う声が上がる変更点とは……。
(写真は福岡市役所)
■怪しい「総合評価の見直し」
入札の総合評価方式とは、価格のほか品質を高めるための新しい技術やノウハウ、会社の業績など価格以外の要素を含めて総合的に評価する落札方式。価格だけで評価する落札方式に比べ、価格と品質の両方を評価することにより総合的に優れた調達を行うことが可能になるとして、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」に基づき国が導入を進めてきた。
福岡市は2009年6月、予定価格3億円以上の工事を対象に総合評価方式を導入。2012年2月からは、予定価格1億円以上の工事入札に総合評価方式を取り入れるなど、対象の拡大を図ってきていた。
市は導入から10年を迎えた今年1月、総合評価方式の見直しに着手。総合評価全般についての意見を聞くため有識者を委員に組織された「福岡市総合評価技術審査委員会」が今年1月と5月にそれぞれ1回ずつ、総合評価の実務を取り扱うために市の職員だけで構成された「福岡市総合評価委員会」が2月と5月に1回ずつ会議を開き、議論した上で6月に次の4項目を柱とする方針を決定していた。市は7月初旬、指名業者を対象に説明会を開催。8月1日から一部新ルールの採用に踏み切っている。
「方向性1」に示された工事の品質確保も、「方向性2」にある入札参加者の負担軽減も結構なこと。「方向性3」の制度・手続きの適正化は、当たり前のことだろう。あたかも、良いことづくめの改定のようだが、「方向性4」の内容を検証すると、今回の改定そのものが新たな方向性のメリットを否定する“うさん臭い”ものであることが分かる。
価格のみで競う従来型の入札にしろ、総合評価方式での入札にしろ、役所と業者が意を通じれば不正を行うことが可能。情報公開を求めても、事業者情報保護を名目に技術審査の過程が開示されないため、「総合評価の方がタチが悪い」との指摘が絶えない。
総合評価の対象拡大が建設業界に与える影響は決して小さなものではあるまいが、今回HUNTERが問題視したのは4番目の「災害対策協力企業の評価拡充」についてだった。この項目を詳しく検証していくと、市と業界団体が個別に結ぶ「防災協定」を悪用することで、一部の業者が利益を得る“いびつな市政”の実態が浮き彫りになる。
■「防災協定」加点への疑問
「災害対策協力企業の評価拡充」について検証する前に、総合評価の評価方法を確認しておきたい。下は、市がホームページ上で公表している「総合評価方式実施ガイドライン」の記載だ。
福岡市が採用している総合評価の型式は、工事内容等に応じてWTO型、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型の4つ(下に解説)。いずれの形式でも、(技術評価点÷入札価格)×α=評価値で計算し、数値の最も高い企業が落札する仕組みだ。
【WTO型】WTO政府調達協定の適用工事を対象。海外企業も入札参加するため、過去の実績等の一部の企業評価項目は設定せず、技術提案など当該工事に対する提案等により「品質」の評価を行う。【Ⅰ型】技術的工夫の余地が大きい工事に適用され、技術提案などの提案、企業の施工能力や配置予定技術者の能力等により「品質」の評価を行う。
【Ⅱ型】技術的工夫の余地が比較的小さい工事に適用され、施工上の基本的事項に関する提案、企業の施工能力や配置予定技術者の能力等により「品質」の評価を行う。
【Ⅲ型】技術的工夫の余地の小さい工事に適用され、企業の施工能力や配置予定技術者の能力等により「品質」の評価を行う。
技術評価項目は大きく「提案項目」と「企業評価項目」に分かれており、前者は工法や管理に関する技術的な項目、後者は会社の経営実態や社会貢献の度合いなどを指す。
問題は、企業評価項目に含まれる「災害対策協力企業」に対する加点。市は今回の見直しの結果、「防災協定」を締結している団体の加盟社に、来年度から最大で「2点」を加点する方針なのだ。
これに対し、業界関係者からは「従来方式でさえ、特定企業の落札ありきとも思える入札方式だった。来年4月からの改定案は、さらに酷い。特定業者への便宜供与だ」との声が上がる。
業界関係者が問題視しているのは、防災協定に関する「加点」。じつは、防災協定絡みの「1点」が、落札業者決定の際に極めて大きな意味を持つことになる。
(つづく)