今回の参議院選挙で初めて登場したのが、「合区」によってはじき出された候補者の救済という自民党の事情からひねり出された「特定枠」。参議院の比例代表にのみ適用される制度だが、公職選挙法の規定で特定枠の候補者には「選挙事務所の設置、自動車などの使用、文書図画の頒布や掲示、個人演説会」が認められておらず、一般的な選挙運動ができない。
“選挙とは何か”を考えさせられるふざけた制度の内容だが、得票数が少ないと有権者から不信任を受けた印象になることを恐れた自民党が、“はじめから運動を禁止しておこう”と考えた結果だろう。
現行の選挙制度には、他にも有権者の知らない問題点が多々ある。
■「特定枠」の問題点
問題の多い「特定枠」を、効果的に使った政党がある。永田町の話題を独占している「れいわ新選組」だ。特定枠に重度障がい者を立候補させ、代表である山本太郎氏の集票力で2人を当選させた。「選挙運動ができない」制度を逆手に取って、「障がいのために選挙運動が難しい」候補を当選させるという逆転の発想が功を奏した形。お見事だったと言うしかない。
ただし、前述した通り、特定枠の候補者は事実上選挙運動が禁止されており、候補者自身の訴えが十分に伝わらないことについては疑問と言わざるを得ない。
特定枠について取材するため改めて選挙の現場をのぞいてみたが、参院選の在り方について他の問題点も見えてきた。
■「選挙はがき」の問題点
候補者は有権者に対して「選挙はがき」を出すことができる。正式には「選挙運動用通常葉書」というのだが、葉書の印刷代だけが自己負担で、郵送料は公費(税金)で支払われる。
参議院の選挙区は人口に応じて3万5,000枚以上、比例区だと15万枚の葉書を出すことができる。組織を持った候補者ならば、しっかりした名簿を元に葉書の有効活用が可能だが、少数政党や無所属の候補者がきちんとした名簿を持っているはずがない。だが、大多数の候補者が枚数の上限近くまで葉書を出しているのが現状だ。郵送先を、どうやって選んでいるのか――?調べていくなか、いくつかの事例が確認できた。
【例1 名簿屋から古い名簿を買う】
このケースは非常に多く、葉書を受け取った有権者から「10年も前に亡くなった父に手紙を送ってくるとは何だ!」などの抗議が相次いでいるという。
【例2 企業・団体・大学OBの名簿を使う】
某メガバンクOBの名簿を使った候補者に対し、名簿の発行先から「個人情報に関わる重大な問題がある」などの抗議メールが届いたという。また、某百貨店のOB名簿を使った候補者には、葉書を受け取った有権者から「何年も前に亡くなった母に葉書を送ってくるのは失礼だ。削除しろ」と抗議の電話があった。大学OBの名簿は不正確な情報であったため、「私はその大学を出ていない。嫌がらせか!」などの抗議を受けた候補者もいた。
比例区の候補者ならば15万枚まで葉書を出せるが、郵送代として消える公費は930万円。“タダで選挙運動ができる”と甘く考えた候補者陣営が、いい加減な方法で有権者に選挙はがきを送った結果、大いなる税金の無駄遣いとなる。
■ネットで無料航空券転売
参議院選挙に立候補すると、選挙区ではJRの無料券、比例区ではJRに加え航空各社のチケットも無料になる「特殊乗車券・特殊航空券」の綴りが6冊配布される。至れり尽くせりの待遇なのだが、7月4日に選挙が始まったとたん、総務省から各政党に「比例代表の候補者に配布された『特殊乗車券・特殊航空券』で購入された航空券がネット上で売られている。注意するように」との連絡が入ったという。国の税金で賄われている無料の航空券をネット上で売り、不当に利を得ようとしたとんでもない選挙関係者がいたということだ。
上掲の写真にある「特殊乗車券・特殊航空券」は、最初の手続きでJRの乗車券か航空券のどちらかを選び、選んだ方の40枚ほどのチケットが利用可能となる。公示日の7月4日から投開票(21日)後の26日まで、規定の枚数の範囲内で、何度でも新幹線か飛行機に乗ることができるのだ。北海道―沖縄間を、毎日往復しても構わない。ただし「特殊乗車券・特殊航空券」で購入したチケットは「参 比例」というゴム印が押され、払い戻しが不可能となるために、候補者陣営の誰かがネット販売したとみられている。
葉書の郵送以外にも、ポスターやビラの印刷、選挙事務所・選挙カーの看板制作費などが公費助成の対象。選挙の度に、莫大な税金が消えているのが現状だ。今年の参議院選挙の予算は、約571億円だった。それで投票率が40%台――。この国の民主主義は、ずいぶんと無駄遣いをしている。