北海道・札幌で起きた首相演説ヤジ排除問題で10日夕、地元市民らが北海道警察の対応に抗議するデモ行進を行ない、約150人が札幌市中心部で怒りの声を挙げた。
権力組織の暴走に抗議するイベントだったにも関わらず、道警は参加者を無断撮影。デモに同行していた弁護士が激しく抗議し、道警本部前は一時騒然となった。排除に続く不適切行為で、警察の人権意識の稀薄さが改めて浮き彫りになった形だ。
■沿道の市民からデモに拍手
10日に行われた抗議デモ『ヤジも言えないこんな世の中じゃ…』は、7月中旬に安倍晋三首相の演説から排除された人たちが中心となって企画したもの。インターネットなどで参加を呼びかけたところ、当日の集合場所・大通公園(札幌市中央区)におよそ150人の老若男女が足を運んだ。
デモ開始前の集会では、呼びかけ人らとともに元道警釧路方面本部長の原田宏二さん(81)がマイクを握り、「警察の現場では『治安維持のためなら多少の違法行為も許される』という間違った考え方がどんどん露骨になっている。それが表面化したのが今回の『排除』ではないか」と指摘、「今日は公安の動きをチェックしに参りました」と話し、大きな拍手を浴びていた。
午後5時過ぎに公園を出発したデモ隊は「警察、謝れ!」「言論弾圧、絶対反対!」などのシュプレヒコールを挙げながら、市内中心部を約1時間にわたって行進。自民党札幌市支部連の入るビル前では一斉に「安倍辞めろ」コールが起こり、北海道庁前では「鈴木(知事)も謝れ」の声が挙がった。「ヤジくらい言わせろ」「わたしはだまらない」などのプラカードを掲げながら歩く参加者たちに、沿道から拍手を贈る市民の姿も見られた。
■無断撮影で「人権侵害」
午後6時過ぎに道警本部前に到着したデモ隊は、用意した道公安委員会宛ての苦情申出書と道警への請願書を提出するため、担当者が門の外に出てくるよう求めた。これを道警側が拒否し、デモ関係者が庁舎内に文書を持参しない限り受け取らないとしたため、不満を覚えた参加者らが庁舎前に「本部長出てこい!」の声を響かせる騒ぎになった。
結果として市民側が折れる形で2人の代表を立て、苦情や請願を果たすことができたが、この間、道庁側の舗道から複数の警察官がビデオカメラを構え、デモ参加者らを勝手に撮影していたことがわかった(下の写真)。
デモに同行した弁護士の神保大地さん(札幌弁護士会)が撮影行為に気づいて猛然と抗議、「撮影の要件は何か」と強く迫ったが、対応した警察官は「適正な職務執行だった」と繰り返すのみ。「映像を持ち帰らず、この場で消去を」の求めも拒否し、背を向けて庁舎内へと入って行った。その背中に何度も「犯罪者!」の声が投げかけられたが、警察官たちは無表情・無言を貫いてこれに応えた。
神保弁護士によると、警察官は「犯罪行為が起こる可能性があると判断し、撮影を始めた」と主張したという。どんな犯罪行為があったのか質したところ、「シュプレヒコールが犯罪に繋がる蓋然性があった」と釈明、「注意すればよいことだ」と指摘すると「注意する前にコールが止んだので撮影もやめた」と弁解した。
「警察が正当な理由なく個人を撮影するのは、人権侵害。その行為を告発するには、彼らが撮った映像が唯一の証拠となる。それをコピーされ、もとのデータを削除されてしまったらアウト。だから『この場で消去を』と求めたのに、何を言っても『適正だった』で押し切られてしまった」(神保弁護士)
首相演説の場でヤジを排除し、正当な理由なく国民の権利を侵した警察は、それに抗議の声を挙げた人たちの人権を再び正当な理由なく侵害したことになる。
地元の保守系団体で活動し、公安警察と丁々発止のやり取りを経験している札幌市の男性は「もともと身体を張っているぼくら右翼に対してならともかく、一般の人たち相手にあれはマズい。警察は叩かれて当然です」と、立場の違いを超えて不適切な職務執行を批判する。
デモの呼びかけ人の1人である札幌市の大杉雅栄さん(31)は「警察は基本的に法を守らない組織だから…」と苦笑しつつ、抗議行動の成果については「町を歩くことに意味があるかどうかはわからないけど、それで今回の問題に関心を持って貰うことはできたのでは」と、一定の手ごたえを感じている様子だった。
(小笠原 淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。