「一強」の状態がすっかり定着した日本の政界。確かに、自民党と公明党を合わせると“強大な与党”になるのだが、じつはそれぞれの党の集票力が強化されたというわけではない。実態は、むしろ逆。自公の集票力は、確実に下り坂を迎えている。
一番分かりやすいのが参院比例区における各党の得票数。過去5回の選挙結果を検証してみると……。
■危ない「一強」
「一強」というが、それは与党が保有する議席の数が圧倒的であるため、「官邸」による独裁が顕著になった状態。特定秘密保護法や安保法など、国民の半数以上が反対していた法案を次々に強行採決し、集団的自衛権の行使容認や米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設では、「民意」を無視して安倍の思うがままを通してきた。
逆らう者を力で排除する傾向も強まっている。政権を批判するジャーナリストは次々にテレビから姿を消し、反権力がウリだった夜のニュース番組は、いつの間にか昼のワイドショーと同じようなつまらない内容に変わった。
参院選の期間中には北海道警察が、「安倍辞めろ」「増税反対」と声をあげただけの市民を拘束して排除するという“事件”も起きている。忖度に支えられた「一強」は、民主主義崩壊の裏返しと言えるだろう。
■実は落ちている自民党の力
では、自民党はどれほど強大化したのか?参議院の選挙区は党によって候補者がいない場合もあるため、比例区を比較対象にして、平成16年の選挙から今回までの得票を調べた。
ちなみに、16年の参院選は小泉純一郎内閣、19年は第一次安倍内閣、22年は民主党・菅直人政権で、25年、28年そして今回が第二次安倍内閣の下での選挙である。
盤石と思われている自公政権だが、足もとは危うい。第二次安倍政権の発足後、獲得する票は増えていたが、3年前の参院選比例区における約2,000万票が最大。公明党は、むしろ長期低落傾向にあることが分かる。
実際、東京新聞によると投票率に関係なく実力を測る目安となる自民党の「絶対得票率」は18・9%。前回参院選の21.3%を2ポイント余り下回っているという。
そもそも、国政選挙における「自民党の勝利」とは、自民だけで単独過半数を獲得すること。「公明と合わせて過半数」などという勝敗ラインは、まともな頃の自民党にはなかった話なのである。
今回の選挙では、投票率が下がったとはいえ自民党が約240万票も、公明党も約100万票減らしており、勝ち戦でも笑えない状況。組織力で選挙を戦う与党の勝利は、投票率の低さに助けられた結果でしかない。
意外なのは、絶頂期にあるとみられてきた自民党が、民主党の人気がピークだった平成19年選挙の約2,330万票を超えられないでいること。自民党の比例票は、民主党が16年参院選で得た約2,113万票にも達したことがない。
安倍首相は事あるごとに政権を担っていた頃の民主党を罵倒するが、かつては2,330万票という支持を集めた「野党」の潜在能力が怖いのかもしれない。
■「無関心」が作り出した一強
では、一強を許してきた野党の実情はどうなっているのだろう。ピーク時に2,330万票もの支持を得ていた民主党は、幼稚な政権運営で支持を失い分裂。25年の参院選では、みんなの党や小沢一郎氏率いる生活の党に食われて700万票程度しか得られず惨敗した。民進党になって若干盛り返したものの、支持率低迷から再び分裂するという道をたどっている。
今回の選挙では、民進党から分かれた立憲民主党の票(7,917,720票)と国民民主党の票(3,481,078票)を足して、ようやく約1,140万票。民主党時代のピークの、半分にも満たぬ票しか得ていない。何度も党名を変え、分裂と対立を繰り返すことへの有権者の怒りを、立憲と国民民主の両党は自覚すべきだろう。
民主主義の一番の敵は「無関心」だ。半数以上の有権者が投票する権利を放棄している現状は、有権者が責任を果たしていないことの裏返しだろう。言い訳として出てくるのは、常に「どうせ政治は変わらない」「誰がやっても同じ」という責任転嫁の言葉。だが、かつて民主党に政権を獲らせ、再び自民党に権力を与えたのは、他ならぬ有権者なのである。一強を作り出したのは、私たちの「無関心」ではないのか。