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“吉本劇場” たれ流すテレビ局の馬鹿さ加減

2019年7月23日 09:10

DSCN1057.JPG テレビ局にとっては、自国の総理大臣の言葉より、お笑い芸人を巡るゴタゴタの方が大事だということだろう。
 22日、民放各局は参院選の結果を受けて開かれた安倍晋三首相の会見をスルーし、いわゆる「闇営業」問題で揺れる吉本興業社長の会見の模様を長時間にわたって放送し続けた。
 公共の電波を使って、お笑い界を巡るゴタゴタをたれ流す民放各局の姿勢には、呆れるしかない。
(右は、吉本興業側の会見の模様を伝えるテレビの画面)

■たれ流される「吉本劇場」
 今月20日、闇営業問題で時の人となったお笑い芸人二人が記者会見。所属する吉本興行の社長から、芸人だけの謝罪会見を開かないように圧力をかけられたことなどを暴露した上で、会社批判を行った。以後、テレビ各局は繰り返しこの時の模様を流し、情報番組に出演している他の吉本芸人が泣きながらコメントを発するというお涙頂戴が続出した。

DSCN1050.JPG バカげた「吉本劇場」は、22日午後2時から設定された吉本興業社長の会見でピークに――。民放各局は、同じ時間に開かれた安倍首相の会見をスルーして、吉本劇場の一部始終を画面に映し続けた。
(右が安倍総裁の会見の模様を伝えるNHKの画面〉

 右向け右がこの国の電波メディアの常とはいえ、国の将来について語ることが確実な総理大臣の記者会見(正確に言えば「自民党総裁」の会見だが)を差し置いて、お笑い界のドタバタを、しかも公共の電波を使って、たれ流す必要があるとは思えない。

 放送局に「放送番組編集の自由」があるのは理解しているつもりだが、それはあくまでも放送内容が「公共の福祉」(放送法より)に適合していることを前提にした上でのこと。視聴率目あての“吉本劇場”は、公共の福祉とはもっとも縁遠いものだろう。

■検証不十分な「闇営業」
 別の視点から考えてみても、テレビ局の姿勢には問題が残る。テレビ局を縛る「放送法」には、『意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること』という規定がある。そこで改めて一連の流れを振り返ってみると、騒ぎの発端となった週刊誌の記事自体が、じつは予断に基づく検証不十分な内容だったことが分かる。

 まず、引退や謹慎に追い込まれた芸人たちが、本当に反社勢力の主催と分かった上でイベントに出演したのかどうかの検証が不十分。週刊誌の記事は「知ってたはず」といわんばかりの書き方だったが、芸人たちはそろって否定しており、「クロ」と断定できる証拠も示されていない。

 仮に、芸人たちが本当に何も知らずにイベント出演を引き受けたのであれば、彼らを責めることはできないし、もちろん責任を取る必要もなかった。「脇が甘い」という批判を跳ね返すことは難しいにしろ、「騙されました」で終わりだったはずだ。責められるとすれば、会社側に内緒でいわゆる「闇営業」をしたことであって、これは会社と芸人との問題。本来、公共の電波を使って延々と議論する話ではあるまい。

 芸人らに、イベントの主催者が「反社」であるとの認識があったのか、なかったのか――。真っ先に確認すべき部分の検証を曖昧にしたまま、“悪人”が芸人から吉本の社長へと替わった格好だ。放送法がいう『多くの角度から論点を明らか』にされた形跡もなく、証拠第一主義の法治国家のメディアとは思えない乱暴な展開と言わざるを得ない。

 そもそも、闇営業のネタや証拠写真は誰が、何の目的で週刊誌に持ち込んだのか?当然、ネタ元はイベントに参加していた反社の人間か、もしくはその周辺ということになるが、数年前の出来事を持ち出したところをみると、正義感から動いたというわけではなさそうだ。うさん臭い筋からの情報提供に対し、週刊誌側が謝礼(つまり金銭)を渡したのかどうかも、気になるところである。売れれば何でもありの週刊誌は、時として暴力装置になることを忘れてはなるまい。

 同様に、ベテラン芸人が金塊盗の主犯格とポーズを決めていたという写真も、検証が不十分。ベテラン芸人が言うように、反社の連中が無理やり写真を撮ったとすれば、避けようがない災難だったと言わざるを得ないし、週刊誌が決めつけた「ギャラ飲み」だったとすれば、彼はまた嘘をついたことになる。

 この問題を追及したいのならば、徹底した裏付け取材が必要なはずで、延々と会見の映像を流しながらスタジオで好き勝手なことを言い合うことには何の意味もない。テレビが報道機関としての顔を持っている以上、調べ上げた事実だけを報じるべきだろう。

■批判すべきは「反社」の連中のはず
 事の本質を無視した、露骨な「視聴率稼ぎ」も気にいらない。一番悪いのは、芸人を利用した反社の犯罪者たちであって、まずその連中が責められるべきだった。見出しで例えるなら、「詐欺グループ、騙したカネで芸人招へい」といった具合だ。ところが、週刊誌もテレビも、事実関係の確認が不十分なまま、一方的にお笑い芸人を「悪役」に仕立て、次には吉本興業の社長を追い込んだ。この間、お年寄りの貴重な財産を奪うという重大な犯罪を犯しておきながら、騙し取ったカネで派手に遊び回り、芸人を呼んで騒いでいた不良たちは何のお咎めも受けていない。理不尽とは、こういうことをいう。

■いびつな芸能界、共犯はテレビ局
 近年のテレビ界は、芸人と「ジャニーズ」と「AKB」で成り立ってきたと言っても過言ではあるまい。様々な番組でお笑い芸人が司会を務め、ひな壇を埋めてコメントするのはAKBグループの女性タレントや芸人。ジャニーズ所属のグループがそれぞれ冠番組を持ち、そこでも芸人やAKBグループが大活躍してきた。平成から令和に代わった今年、そうした“いびつな構造”の上に成り立ってきた日本の芸能界に、自省を促す動きが出ている。

 新潟を拠点に活動する「NGT48」のメンバーへの暴行事件を巡っては、AKBグループの運営会社「AKS」の隠蔽体質が露呈。AKBの人気自体にも陰りが見えるようになったと言われている。

 一方、芸能界に君臨してきたジャニーズ事務所は、解散後に会社を離れたSMAPの元メンバーを使わないよう、テレビ局に圧力をかけた疑いがあるとして、公正取引委員会から注意を受けた。吉本興行も含めて、芸能界を牛耳ってきた勢力の“闇の部分”に光があたったということだろう。

 長く共犯関係にあるテレビ局も猛省すべきだが、民放各局は頬かむりしたまま。視聴率の生贄となる「悪役」捜しに狂奔するテレビ局に、お笑い芸人や吉本の社長を、批判する資格などあるまい。



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