21日に投開票された参議院議員通常選挙は、報道各社の事前予測どおり、自民・公明が改選議席の過半数を獲得して幕を閉じた。有権者は“一強”を容認した形だが、選挙戦の最中、独裁政権による恐怖政治を象徴する出来事があった。
安倍晋三首相が街頭演説を行った北海道で、「安倍辞めろ」などとヤジを飛ばした男性を北海道警察の警察官が拘束して排除。さらに道警は、「増税反対」と声をあげた若い女性も拘束して強制的に排除していた。
警察権力を使って民主主義や自由主義を否定する暴挙に、波紋が広がっている。
■「増税反対」の女性も強制排除
安倍晋三首相の演説にヤジを飛ばした市民などが警察に排除された問題で7月19日午前、弁護士団体や市民団体が道警に抗議を寄せ、責任の所在などをあきらかにするよう申し入れた(下の文書参照。クリックで拡大)。
問題とされたのは、今月15日に北海道・札幌で起きた“事件”。参院選自民候補の応援演説に立った安倍首相に対し「辞めろ」「帰れ」などとヤジを飛ばした男性や「増税反対」と叫んだ女性などが私服・制服の警察官数人に取り囲まれ、強制的にその場から移動させられる騒ぎがあった。
インターネットに投稿された動画や民放局のニュース映像からは、警察官が市民の身体や衣服を引っ張るなど暴行を疑われる行為に及んでいたことや、事前に声かけなどをせず問答無用で実力行使に及んでいた事実などがわかっている。一時的にではあるが、道警が暴力的に「拘束」し、市民の自由を奪ったのは確かだ。
地元報道機関の取材に対し、北海道警は当初「公職選挙法の『選挙の自由妨害』にあたるおそれがあった」などと説明していたが(朝日新聞の報道より)、のちに「事実確認中」とトーンダウン(同前)。今に到るまで公式な見解を発表していない。
19日午前、道警への申し入れ後に記者会見(右の写真)を開いた弁護士団体「自由法曹団」と市民団体「国民救援会」は、先の行為に法的根拠がないことを強調、強制排除が刑法195条の特別公務員暴行陵虐罪にあたる可能性さえあると指摘している。
「警察は不偏不党を旨とすべき。このままでは一般市民の自由が拘束される流れが強まって行くのではないかと不安だ」(国民救援会北海道本部・守屋敬正会長)
「道警は行為の根拠を社会に向けて説明する義務がある。こうしたことを再発させないためにも、曖昧に終わらせてはならない」(自由法曹団北海道支部・佐藤哲之支部長)
自由法曹団道支部の渡辺達生事務局長によると、道警本部長宛ての申入書を受け取った同本部総務部の管理官は「関係各部署にしっかり伝えておく」と対応したものの、事実関係の説明などはなかったという。同支部は、現場の警察官たちが複数個所で複数の市民を拘束した上、制止しようとする警察官が1人もいなかったことから、排除行為は現場職員の判断ではなく組織的な行為だったことを疑っている。
この問題を巡っては、自由法曹団が同日付で抗議声明を発表したほか、立憲民主党道連や共産党道委員会などが相次いで「表現の自由を侵害する」と抗議を表明する事態に――。ヤジを飛ばして排除された札幌市の男性(31)は、「警察には謝罪して貰いたい」と話している。
(小笠原 淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。