先月、前霧島市長の前田終止氏(71)が、今夏の参院選鹿児島選挙区に無所属で立候補することを表明。5日には支持者らを集めて事務所開きを行った。
同選挙区では、共産党の前県議・松崎真琴氏(61)が立候補表明している他、現職の尾辻秀久氏(78)が自民党公認で出馬予定。前田氏の参戦で、保守分裂が確実となった。
ざわつく鹿児島県政界。6期目を目指す尾辻氏の陣営を緊張させているのは、前田氏の周りに、三反園訓鹿児島県知事(写真)の影がチラつくからだ。
■落選した前霧島市長が参院選出馬
前田氏は、亜細亜大学卒業後、二階堂進元自民党副総裁の秘書を経て1987年に県議初当選。4期務めたあと、牧園町長(1期)、霧島市長(3期)を歴任した県保守政界の重鎮だ。4選を狙った2017年11月の霧島市長選で落選し、政界を引退するものとみられていた。
その前田氏が、突然の参院選出馬表明。「市長選で敗れた候補者が参院選?」と、関係者が首をかしげる状況だったが、出馬の裏が見え始めたことで「保守分裂」が現実的なものに変わってきた。前田氏の周辺に、三反園鹿児島県知事の影がチラつくからだ。
■チラつく三反園知事の影
5日に行われた前田氏の事務所開き。挨拶した参加者の中に、三反園知事の側近、槐島義則氏の姿があった。前田氏擁立に積極的に関わったとされる槐島氏とは、いかなる人物か――。
三反園氏の関連政治団体は、総務省届出の資金管理団体「みたぞのさとし後援会三訓会」、鹿児島県選挙管理委員会届出の「みたぞのさとし後援会」及び医師会が中心となって設立された「みたぞのさとし後援会連合会」の三つ。槐島氏は、三反園知事の集金装置である三訓会の会計責任者なのだ。前田氏とは高校の同級生だというが、槐島氏の立場を考えると三反園知事が承知した上での「前田擁立」だったとみるのが普通だろう。承知していたどころか、「三反園知事も、側近らと一緒になって前田氏に参院選出馬を勧めた」という話さえある。
知られている三反園氏の側近はごく少数。槐島氏と前田氏、そして元参院議員秘書のコンサル会社社長・別府廣美氏の3人だ。都内千代田区の平河町に会社を持つ別府氏は、「みたぞのさとし後援会」の会計責任者で、2016年の鹿児島県知事選挙では三反園陣営の出納責任者も務めていた。つまりは「金庫番」。鹿児島市内にも事務所を構えており、県の公共事業に影響力を持つと言われている。
じつは、知事選を目指していた三反園氏に別府氏を紹介したのは霧島市長だった前田氏。前田、槐島、別府の3氏は、三反園氏の裏まで知り尽くす、特別な存在だといえるだろう。
5月中旬、ロシア出張を終えた三反園知事が、前田・槐島両氏とともに別府氏の会社を訪れていたという目撃証言もある。前田氏が出馬の意思を明らかにしたのは、この直後で、20日に都内で県選出の国会議員らに挨拶し、24日に鹿児島市内で出馬会見を開いていた。
前田氏と知事周辺の一連の動きについて、ある自民党関係者は次のように話している。
「来年は知事選。三反園は、再選に向けて有権者うけする視察やイベント参加に精を出している。尾辻さんに恨まれるようなマネをするわけがないと思っていたが、前田には槐島が張り付いており、別府のことも耳に入るようになった。知事が、こうした動きを知らないわけがない。尾辻さんの評判が良いとは言えないだけに、市長選で敗れたとはいえ、一定の保守票が前田に流れる可能性はある」