小沢一郎氏が率いる自由党と合流しても、「支持率1%」の状況から抜け出せない国民民主党。永田町では「いずれ消滅する政党」としかみられていない同党にとって、目下最大の使命は“離党”の流れを食い止めることだろう。
昨年5月の結党以来、離党した国会議員は既に6人。今月5日には、国会の会期中であるにもかかわらず、国対委員長代行の要職にあった山井和則衆院議員が離党届を提出しており、夏の参院選を控えて党勢はしぼむ一方だ。
そうした中、国民民主党福岡県総支部連合会(以下、「県連」)が、統一地方選挙の公認候補に、“公認料”で政治活動の自由を縛るという非常識な「誓約書」を提出させていたことが明らかとなった。
■「誓約書」が奪う政治的自由
下は昨年、統一地方選挙に向けて候補者擁立作業を進めていた国民民主の福岡県連が、公認候補者に提出を義務付けた「誓約書」である(*画像の一部はHUNTER編集部が加工)。
あて先は、同党県連の当時の代表だった吉村敏男氏(4月の県議選で落選)。立候補する選挙の種類と誓約書の記入年月日を書き入れ、候補者が署名して捺印する形式だ。内容は、クレージーとしか言いようがない。
公認をいただいたのち、公認料を受領する際には、当落に関わらず、選挙後四年間は党員としては勿論のこと、私人としても道義的・倫理的・人間的な忠義に則り、党倫理規則を遵守し、国民民主党の綱領に基づく政策の実現を目指した政治活動に邁進することを誓います。
また、これらの誓約事項に反する行為を行った際には、受領した公認料をはじめ、国民民主党の公認候補として支援いただいた資金を全額返還いたします。
誓約書の最大の狙いは「離党防止」。わざわざ「選挙後四年間」と入れたのは、地方議員の任期が4年であることから、この期間における所属政治家の“政治的な自由を縛る”ためだろう。
■カネの力で党勢維持
問題は、「私人としても道義的・倫理的・人間的な忠義に則り」という文言だ。「私人」としての生き方を、政党が誓約書で規定するのは間違い。この旧態依然とした一文をひねり出したのは、「個人より組織。個人より国家」という戦前の世の中を理想とする国家主義者に違いない。
次に、『忠義』とは主君や国家など上位のものに心を込めて仕えることだが、この文脈からいえば誓約書を書かされた候補者が尽くさなければならない相手は「国民民主党福岡県連」。見方によっては、その相手が県連代表の吉村氏と読めないこともない。日本国の主権者は国民であり、政治家が忠義を尽くす相手は国家・国民であるべきだが、国民民主の福岡県連幹部はその常識さえも理解していないらしい。
「誓約事項に反する行為を行った際」――つまり、県連や吉村氏に忠義を尽くさない場合は、公認料も支援者からの資金(寄附)も「返せ」というのだから、強烈だ。公認料は別として、支援者からの寄附まで「返せ」という権利は県連にはあるまい。感情的な文言は、同党県連が組織崩壊を恐れていることの裏返し。勢力維持のために頼ったのが、政治理念や政策ではなく「カネの力」だったところに、同党の哀れさがにじみ出ている。
勢力維持に汲々となる国民民主党の福岡県連は、所属議員をカネの力でつなぎとめてきた。4月の統一地方選挙で公認された県議や政令市市議に支給された公認料は300万円。2015年の統一地方選で、旧民進党県連が配った公認料の2倍以上だったという。その高額な公認料とセットになっていたのが、問題の誓約書というわけだ。
■衆院総支部の役員まで脅しの対象に
驚くべきことに同党県連は、この誓約書では不足だと考えたのか、当該候補者が所属する衆議院の総支部から「担保」まで取り上げていた。それが下の文書だ(*画像の一部はHUNTER編集部が加工)。
候補者が返金に応じなければ、総支部の役員が連帯して返金義務を負うとする、違法な町金融の手口さながらの内容。こうまでしなければ、所属議員をつなぎとめることができないところまで追い詰められている証左でもある。
■憲法違反の疑いも
政党組織が間違いを犯さないという保証はない。例えば、かつて日本社会党は、自民党と連立を組んだとたん日米安保や自衛隊、原発まで肯定して信頼を失い、多くの支持者が離反した。基本政策が政治家個人の信条と違う方向に進めば、離党は当然。政治的な自由は担保されて然るべきだが、福岡県連の誓約書や確認書は、これを否定する性質のものである。
公認料を巡る国民民主党県連による一連の行為は、カネを出す側の立場を利用した悪質な縛りに他ならない。しかし、同党の政治資金の原資は、大半が政党交付金。国民の税金で政治活動をやっておきながら、所属議員には党や県連組織に忠義を尽くせというのだから、この組織はタチが悪すぎる。
ちなみに日本国憲法は、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と規定しており、国民民主福岡県連の「誓約書」には、違憲の疑いさえある。