米軍普天間飛行場(宜野湾市)を名護市辺野古に移設する工事が泥沼化している。
理由は二つ――。一つは「沖縄の民意」が、移設反対であること。沖縄県知事選、県民投票、衆院沖縄3区補選と、昨年から続いた3回の投票で、辺野古移設は退けられた。
もうひとつは文字通りの“泥沼化”である。安倍政権は埋め立て工事を強行しているが、未着工の北東部・大浦湾側は「マヨネーズ並み」と言われる軟弱地盤であることが判明。工費も工期も延び、沖縄県は「完成までに2兆5,000億円が必要。完成までに13年」と、試算している。
県民の反対を押し切り、巨額な予算を投じて辺野古に新基地を建設する必要があるのか――。政府や自民党は、そうした声に対し「代案を示せ」と切り返す。しかし、代案はある。
■翁長前知事も認めていた普天間の「馬毛島移設」
辺野古移設の是非が問われるようになって22年。きっかけは、1996年4月に橋本龍太郎首相(当時、以下同)がモンデール駐日米大使と合意し、人口密集地にあって危険な普天間基地(下の写真)の移設を決めたことだった。「5年ないし7年後の全面返還」が合意事項で、移設先候補地のなかから最終的に名護市辺野古のキャンプ・シュワブ隣接地が選ばれた。
賛否が割れるなか、米軍が引き起こした事件などが県民を刺激して基地移設反対運動が激化。2013年に仲井真弘多沖縄県知事(当時)が、県民を裏切って辺野古沿岸部の埋め立て申請を承認したことで、「新基地反対」の民意が定着した。14年と18年の知事選では、故・翁長雄志氏、玉城デニー氏と新基地反対派が大勝したが、米国追随の安倍政権は昨年から沖縄の意思を無視して埋め立て工事を本格化させている(下は、昨年2月の工事の様子)。
22年の歳月が罪深いのは、普天間基地の危険性と騒音が除去されないまま、いたずらに時を過ぎさせたことである。普天間基地には、オスプレイやヘリコプターなど58機が常駐。その騒音も凄いが、それ以上なのが戦闘機などの外来機で、爆音をとどろかせる離着陸が、18年度だけで1,756回に及んだという。
この状態で長く待たされ、さらに辺野古基地完成までに13年。しかも、その頃にはキャンプ・シュワブなどの米海兵隊はグアムなどに移転し、実戦部隊は2,000人規模の第31海兵遠征隊のみとなる。「民意」を無視し、巨費を投じて完成させた辺野古基地に、利用する実戦部隊がいないという悲惨な状況となるのだ。
ならば、米空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP:タッチアンドゴー)候補地として名前があがっている「馬毛島」を、新たな移転地とする案はどうだろうか。
馬毛島は、鹿児島県種子島の西方12キロに浮かぶ無人島。しかも、島の大半を所有するタストン・エアポート(東京都世田谷区)が、民間の国際貨物空港にするつもりで“滑走路”を整備している(下の写真)。
米軍使用に耐えられる滑走路の敷設、港湾整備などに諸費用はかかるものの、数千億~数兆円が見込まれる辺野古基地の費用に比べると、遙かに安く、しかも早い。普天間早期移設という本来目的にも適っている。16年7月には、翁長雄志知事(当時)が馬毛島を視察し、「可能性のひとつ。辺野古が唯一の解決策という国の主張は外してもらいたい」と、述べている。
問題となるのは、島の買収交渉を巡って防衛省との間にバトルを繰り広げているタストン社の意向だが、関係者の話では、同社の代表で親会社「立石建設」の会長でもある立石勲氏は馬毛島を普天間の移設先にすることに抵抗はないという。
今年1月に防衛省とタストン社の前代表(立石氏の子息)との間で結ばれた仮契約の金額は160億円。同社の負債が240億円あることから代表に復帰した勲氏が本契約に待ったをかけたが、辺野古移設の現実と、普天間の早期移設というそもそも論に戻れば、売却価格への拘泥は小さな問題でしかない。
「辺野古」と「馬毛島」は、「ポスト安倍」の声も出始めた菅義偉官房長官にとって腕の見せ所。「始めたらやめない公共工事」という枷を外せば、女房役に終わらない政治家であることを、国民に見せつけることにもなる。
(伊藤 博敏)
【伊藤 博敏】ジャーナリスト。福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科を卒業後、編集プロダクション勤務を経てフリーに。圧倒的取材力を武器に経済事件や政治の裏に斬り込み、数多くの週刊誌、月刊誌、ウェブニュースサイトなどに寄稿。主な著書に『許永中「追跡15年」全データ』(小学館文庫)、『「カネ儲け」至上主義が陥った「罠」』(講談社+α文庫)、『黒幕』(小学館)など。