日米安全保障委員会(2プラス2)における共同文書に、硫黄島で行われている陸上離着陸訓練(タッチアンドゴー)の移転先として明記された「馬毛島」(鹿児島県西之表市)。安倍政権は、債権者を煽って島の大半を所有する「タストン・エアポート」が破綻するよう仕向けてきたが、失敗して売却交渉自体が頓挫している。今年1月に結ばれた仮契約も、同社の交渉打ち切り通告によって白紙に戻った格好だ。
膠着状態が続く中、動き出したのがタストンの債権者である不動産会社。タストンの親会社である立石建設が受注した、“公共事業”の工事代金を差押えるという乱暴な手段で、再び揺さぶりをかけている。改めて、関係者を取材した。
■五輪アメリカ選手団のキャンプ地に危機
国側を代表して売却交渉にあたってきたのは防衛省。タストン社の代表に、親会社である立石建設の会長・立石勲氏が返り咲いたとたん、交渉の窓口を閉ざしてしまった。これまで通り、手ごわい相手とは交渉せずに、別の債権者がタストン社及び同社の親会社である立石建設を潰すのを待つ作戦だ。
実際、タストンの債権者である不動産会社「リッチハーベスト」(東京都)が立石建設に対する債権差押えに動き、今月5日、東京地裁が世田谷区に対し、立石建設に支払われる予定となっている工事代金の差押命令を出していた。下は、HUNTERが入手した「差押債権目録」から記述部分だけを抜粋したものである。
リッチハーベストが、立石建設に対し6億円近くの債権を有している形で、差押えられた債権は3件。立石建設が請け負っている3件の公共事業で支払われる予定の工事代金を、世田谷区から回収しようという算段だ。
問題は、12億4,880万円が支払われる予定となっている⑵の「世田谷区立総合運動場陸上競技場等改装工事」。同工事が行われている世田谷区立総合運動場(大蔵運動公園陸上競技場)は、来年開催される東京オリンピックで、アメリカ選手団がチャンプ地として使用する施設なのだ。債権差押えの影響によって工事が遅れるようなことになれば、アメリカ側に迷惑をかけることになりかねないのだという。
随分乱暴な取り立てに見えるが、リッチハーベストとはいかなる会社なのか――。調べていくと、独特の錬金術的カネ儲けの手法と、安倍政権中枢とのつながりが見えてくる。
■「リッチハーベスト」の裏に加藤勝信自民党総務会長?
前述したとおり、リッチハーベストの立石建設側に対する債権の額は、確認されているだけで約6億円。返済しない立石建設側に責任がありそうに思えるのだが、同社の関係者は「とんでもない」と否定する。差押えになった債権は、不動産取引を装った賃貸借契約を巡る違約金などが膨らんだもので、実際に立石建設側が受け取った金額は1億円程度でしかないというのだ。以下、同社関係者との一問一答である。
Q:リッチハーベストとの関係と、これまでの経緯について知りたい。
A:馬毛島の維持管理にアップアップだったため、知人から紹介されたリッチハーベストに融資を申し込んだのは確かです。平成24年頃。借りたのは5,000万円が2回で1億円。ところが同社は、『うちは貸金業者ではないから』と言って不動産売買契約書を作り、1億円を売買契約の手付金としたのです。契約の対象となったのは、立石建設の本社社屋など当社関連の不動産でした。もちろん、建前上の契約だと思っていましたから言われたとおりにしました。借りる側は立場が弱いですから。Q:金銭貸借だったということか?
A:そうです。あくまでも貸し借り。ところが、返済期限が来たところでリッチハーベストは「売買契約だ」と言い出し、物件を売らないのなら違約金として1億円を払えと請求してきたのです。裁判になりましたが、残念ながら当社の負け。書類上は、完璧だったのです。違約金だの遅延損害金などが積もり積もって、いつの間にか債権は6倍、7倍。本社ビルは差押えられるわ、代表者の自宅の競売申し立てを受けるわで、大変な騒ぎになりました。Q:しかし、本社の土地も建物も、抵当権はついているが所有権者は変わっていない。なぜか?
A:リッチハーベストとのゴタゴタは4、5年前から。とっくの昔に大事な不動産を取り上げられているはずなのに、状況は変わっていません。リッチハーベストは、債権回収の期限を延ばす代わりに、馬毛島の専任媒介契約を要求してきたのです。たしか、最初の売買価格は380億円。その契約を結んだことで、リッチハーベストは競売を取り下げたのです。Q:リッチハーベストの狙いは、馬毛島だったということか?
A:そうです。Q:1億程度の貸し借りでしかないのに、なぜリッチハーベストの言いなりになったのか?
A:リッチハーベストは、いまの自民党総務会長・加藤勝信代議士との関係を強調していました。なんでも、(リッチハーベストの)役員が加藤代議士の先代である加藤六月からの深い付き合いということで。勝信代議士は大臣経験者である六月さんの娘婿。リッチハーベストに任せれば、なんとか希望の額の範囲内で島の土地を売却できると考えたのです。
Q:リッチハーベストの裏に、加藤勝信自民党総務会長の存在があるとみているのか?
A:もちろんです。リッチハーベストからの指示で、加藤代議士あての嘆願書を書かされたこともあります。馬毛島の売却交渉は、防衛省ではなく官邸の主導。菅義偉官房長官と加藤代議士が組んで、うち(タストンと立石建設)を潰して、安く馬毛島を手に入れようという魂胆だとしか思えないのです。
Q:160億円で仮契約を結んでいたが、それでは不足か?
A:既に報道されているとおり、タストンの負債額は240億円に上っています。160億円では足りないのです。防衛省も官邸も、そのことは十分に理解されているはずです。160億で島を売ればタストンは破産、立石建設も連鎖倒産ということになります。国の方から売ってくれと言っておきながら、それはないでしょう。160億を基準にするにしても、条件面での交渉は受けるべきではないのでしょうか。しかし、防衛省の担当は、私どもと会おうともしない。Q:倒産を待っていると……?
A:だから、差押えだの、競売だのと言ってくる。加藤代議士と関係の深いリッチハーベストが。Q:リッチハーベストとタストンとの間で、馬毛島の土地を200億円でリッチハーベストに売るという契約があったと聞いている。事実か?
A:事実です。リッチハーベストが「あくまでも所有者として防衛省と交渉するための形式的な契約書」と申し立ててきたので、馬毛島を200億円でリッチハーベストに売る売買契約書を作ってしまったんです。ですが、リッチハーベストは購入契約の契約金を一銭も払っていません。リッチハーベストは、契約書上で馬毛島を200億円で買って、防衛省に300億円で売却するつもりだったとみています。Q:立石建設の経営は大丈夫なのか?
A:そこは、ご心配には及びません。資金の手当てもできそうですから。Q:馬毛島に、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴って発生した「汚染土」を持ち込むという話があるが?
A:いろいろな話があるのは事実ですが、まずは国との協議が最優先だと考えてきました。しかし、国は私どもとの話し合いにも応じない。言いなりになる前社長はしょっちゅう呼び出していたのに、(立石建設会長の)立石勲とは話もしない。160億円では不足だと言われるのが嫌なんでしょう。先ほども申し上げましたように、負債は240億円あるんです。足りないに決まっている。タストンが欲張りのように言われてますが、自分の会社を潰してまで国に尽くす経営者がいますでしょうか?Q:防衛省と話し合う気持ちはあるということか?
A:もちろんです。何度も協議を申し入れたわけですから。でも、連絡さえしてこない。そのうち、リッチハーベストが債権の差押えに動いてきました。国は、私どもが潰れるのを待っているのでしょう。こんなことが許されるのでしょうか?Q:今後、どう動くつもりか?
A:差押えに対処しながら、国の動きを見守ります。
下が、立石建設関係者の話に出てきた「200億円の土地売買契約書」の一部である(赤いアンダーラインと書き込みはHUNTER編集部)。契約日は「平成30年6月26日」。リッチハーベストが本当に契約金額を支払うつもりだったのかどうか分からないが、不可解な債権・債務の延長線上に、この契約書が生まれたのは確かだ。
調べてみたところ、リッチハーベストの資本金は1,500万円、年間の売上は8,000万円(2017年時点)ほどだった。200億円の土地代金を、どうやって調達するつもりだったのか疑問だ。立石建設側の言い分が事実なのか否かも確認する必要がある。23日、リッチハーベスト側に取材を申し入れところ、「けっこうです」で一蹴。取材拒否だった。
事実上とん挫した馬毛島の買収交渉。このままなら、2プラス2の合意事項は守られないことになる。原因が、島の持ち主を破産させようと企んで失敗した安倍政権にあると知った場合、トランプ大統領はどう出るのか――。大統領は25日、2度目の来日となる予定だ。