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安倍政権 「馬毛島」買収の汚い手口
森友の逆パターンで民間企業潰し

2019年4月15日 08:45

0718_bouei-thumb-270xauto-25028.jpg 安倍政権が米空母艦載機の陸上離着陸訓練(タッチアンドゴー)に利用することを決めた「馬毛島」(鹿児島県西之表市)は、民間企業「タストン・エアポート」が大半を所有する面積約8平方キロメートルの島だ。先週12日の配信記事で、防衛省と同社の土地売買契約が予定された年度内から大きくずれ込む見通しとなったことを報じたが、事をこじらせる原因を作ったのは他ならぬ安倍政権。汚い手口でタストン社側を追いつめたため、昨年秋に同社の代表取締役を退いた立石勲・立石建設会長の怒りに火をつけ、異例の代表再登板となった。今年1月に同社と防衛省の間で結ばれた仮契約は、反故になる可能性がある。
 改めて、安倍政権による卑劣な土地買収の実態を検証した。

■森友の逆パターン 鑑定額400億円超の島に44億6,000万円の提示
 馬上島の買収を決めた安倍政権がやってきたことは、森友学園の時と逆。森友の時は国有地を安倍昭恵総理夫人の知人に格安で払い下げたが、馬毛島の場合は民間の所有地を買い叩くために、「鑑定評価」を無視したデタラメな価格交渉を行い、タストン社の破産まで画策した。同じなのは、いずれのケースも“国家権力”を背景にしたところだ。

 まず、価格交渉の経過を確認してみよう。タストン社と防衛省が、馬毛島の買収交渉に入ることを合意したのが2016年11月。直後に、それぞれが土地の鑑定評価を行うことになったという。下は、平成28年(2016年)2月にタストン社が依頼した不動産鑑定士が作成した土地鑑定評価書の表紙と内容の一部。鑑定の対象地は「馬毛島 」で、鑑定価格は「462億円」となっていた。

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 タストン社は、計3回の鑑定評価を行っていたが、いずれも価格は400億円超。滑走路として整備した土地の造成費などがかさんだため、かなり高額になっていたのは確かだ。しかし、タストン社には、カネに換算できない情熱と努力をもって、馬毛島の維持管理に努めてきたという実績がある。

 タストン社の前身は、旧平和相互銀行が設立した「馬毛島開発」。鹿児島出身の立石勲氏が創業した「立石建設」が馬毛島開発を買収して「タストン・エアポート」に社名変更したものだ。タストン社になってから島のほぼすべての土地を買収し、従業員10人以上が常駐して維持管理にあたってきた。

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立石建設の現地事務所

 石油の備蓄基地、使用済み核燃料の中間貯蔵施設、米軍普天間基地(宜野湾市)の移転先等々、利用法が浮かんでは消えた馬毛島だが、「島を守る」という立石勲氏の執念がなければ、どうなっていたか分からない。実際、防衛省と立石氏との間で買収交渉が行われていた頃、複数の中国企業が土地の買取りを打診してきたという。“国防の島・馬毛島”を事実上守ってきたのは、紛れもなく立石勲という薩摩隼人である。

■債権者煽り破産を画策 
 2017年、その立石氏に防衛省が示したのは、44億6,000万円という鑑定評価額。自社が得た鑑定評価額の十分の一というとんでもない回答に、タストンの関係者は呆れたという。この段階で、すでに防衛省には交渉をまとめる意思がなかったということだ。安倍政権は、借金苦に陥っていたタストン社の実情を熟知しており、同社を破綻させて島を安く手に入れる計画だった。

 タストン社は賃貸方式での契約など様々な案を示したが、防衛省側は40億円台を譲らず交渉は難航。そうした中、タストン社はある債権者から破産の申し立てを受ける。申し立てを行ったのは、防衛政策とは何の関係もないはずの埼玉県に本社を置く住宅建設会社で、しかも原因は馬毛島の土地を巡る貸し借りのトラブルではなかった。

 住宅建設会社が破産申し立てまでして取り返そうとした債権の額は、約3億7,000万円。取材したところ、タストン社側が返済を申し出たものの、住宅建設会社が拒否していたという不可解な事実が浮かび上がる。「返せ」と迫ったカネを「返す」と言われて断ることなどあり得ない。さらに調べを進めるなか、建設会社の代表者と防衛省の馬毛島担当調達官が接触していたことが判明する。防衛省がシナリオを書き、タストン社が破産するよう債権者を煽っていたのだ。

 何とか金繰りし、住宅建設会社の破産申し立てを回避したタストン社に対し、防衛省は別の債権者を操りさらなる破産申し立てや不動産物件の差し押さえで追い詰めた。この時点で、立石氏にタストン社の代表を辞めるように説得したのは債権者だったが、裏で防衛省が動いていたのは確かだ。委任状を書くよう立石氏に迫った債権者が示した馬毛島の買収価格は「200億円」。防衛省との事前折衝がなければ提示できない金額だった。

 防衛省の狡猾なところは、交渉相手を、委任状の持ち主ではなくタストンの新代表である立石氏の子息に限定したこと。真面目な新代表は国の権威に押され、今年1月、160億円という「話にならない金額」(立石建設関係者)で仮契約を結んでしまう。元々の鑑定額は400億円超。立石氏はもとより、貸し倒れが予想される状況となった債権者も黙っているわけにはいかなくなった。その結果が、今年2月の代表交代――立石氏の再登板につながっていく。

■問われる政権の手法
 馬毛島は民間企業であるタストン・エアポートの所有だ。その島を「買いたい」「売ってくれ」と頼んだのは国である。ならば、タストン社側が納得する金額で買い取るしかあるまい。自分の土地が買い叩かれると分かっていて、手放す人はいない。それは、タストン社も同じだろう。島を維持するために多額の負債を抱えた以上、一部の債権者だけを納得させて終わり、という訳にもいかない。立石氏が、160億円に不同意なのは当然のことなのではないだろうか。

 国は、国防上の理由で馬毛島が必要なのだという。米空母艦載機の陸上離着陸訓練場を早期に確保するという、アメリカとの約束もある。だからといって、民間企業を破産に追い込み、土地を格安で手に入れるような汚いマネが許されるのか――?答えが「NO」であることは、言うまでもあるまい。



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